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父の膝で見る夢


 ――夢を見ていた。


 とても懐かしい、夢を。


「ひーちゃん、パパいないの? なんで?」


「ぼくしってる! にげられたんだって、ママがゆってた!」


 幼稚園。お遊戯会。お弁当の時間。


 その時の私は母と一緒に、友人の家族たちと食事を共にしていたと思う。


 何故そんな言葉を掛けられるような状況になったのかは(おぼ)えていない。


 ただ、その言葉を切っ掛けにして、大人たちの居心地の悪くなる視線が集中したのだけは覚えている。当時の私にはその視線の意味もわからず、母の服を掴むことしかできなかった。


 けれど、それで充分だとも知っていた。


「逃げられたというのはちょーっと正確じゃないねえ。実はここだけの話、ひーちゃんパパは人知れず世界を守るお仕事をしてるんだけど……」


「えっ、それってまさかゴーレンジャー!?」


「ひーちゃんパパ、ゴーレンジャーなの!? すげーっ! ちょーすげー!」


「おーっと、勘違いしちゃいけない。ひーちゃんパパはゴーレンジャーじゃないんだ。でも……その変身ベルトを作ってる……人っていうのが……?」


「変身ベルト!?」


「すっげー! ちょーちょーすっげー!!」


 大切な秘密を話すように母が話すだけで、子供たちが夢中になる。私に向かっていた視線が剥がれ、母の方へと集中する。


 私は魔法のように人の注意を操る母を、ただ見上げていた。


「ねー、すっげーでしょ。でもねー、最近悪者が多いらしくって。とっても忙しいみたいなのよねー。なんでも悪い子のパワーで悪者が強くなってるとかなんとか……?」


 そう言った母が指をくるくると回しながら思わしげに子供の方に指を向ければ、指し示された子は慌てて首を横に振った。


「おれはちがう! おれ、いい子だぞ!」


「ぼ、ぼくも!」


「ほんとにぃ〜? じゃあちょっと調べてみよっか……あっ!? センサーが反応してる!?」


 母が取り出したスマホを操作し始めた途端、ピーッ、ピーッと甲高い電子音が鳴り響く。


 子供たちが騒ぎ始めるのを手で制して、母は勢いよく叫んだ。


「これは……ジャネーンが生まれようとしている!? みんな、急いでお母さんのところへ戻って! ちゃんとお行儀よく座ってお昼ご飯を食べるのよ! このジャネーンはからあげの匂いが苦手みたい! みんながからあげを食べてくれれば、きっとジャネーンは逃げて行くわ!!」


「えええええ!!」


「ジャネーンってからあげニガテなの!? あんなにおいしいのに!?」


「ええ! だからみんな、協力して! みんなの協力がゴーレンジャーの力になるのよ!!」


 そう声を上げて、立ち上がった母は……。


「からあげ、チェーンジ!!」


 謎の掛け声と共に、ほかほかと美味しそうな湯気を立てる巨大唐揚げへと変貌した………………。





「いやなんだこれ」


 目覚めると同時に呟いた私は、見上げた視界に映るお父様の顔を見て、一瞬更なる混乱に陥った。


「お、起きたか」


 起きたよ。これ以上ないくらいお目々ぱっちりさんだよ。なんなら訳の分からん夢見てちょっとドキドキしちゃってるよ。


 お父様の顔を眺めることで急速に冷静さを取り戻した私は、すぐに現状を思い出した。


「どのくらい寝てました?」


「一時間くらいだろう。馬車が石を踏んだはずみで起きたな」


 そうか。となると《覚醒》の魔法を用いない《睡眠》だとやっぱり、私は安眠できなさそうだ。


 永続して襲いかかる振動で今もブレにブレまくっている馬車の天井を眺めながら、体内に巡る魔力を意識して体調を確認する。


 ……やっぱり眠ってるとかなり良いな。これなら《気分爽快(リフレッシュ)》の魔法もいらなそうだ。


「よいしょっと」


 掛け声をかけてお父様の膝枕から起き上がる。

 その段になって初めて、私の左手がずっとお父様のマントを握りしめていたことに気がついた。


 ……夢。夢か。


 前世では無駄に明るすぎる母に振り回されていたせいで、父がいないことなんてあまり気にしてはいなかったけど……ふーむ。


「……お父様って、私になにかして欲しいとかあります?」


「え? なんだ、急にどうした?」


 なんだと言われても困る。

 ただ変な夢の影響か、私は私が思っている以上に父親というものに対して関心が無さすぎたのではないかと、ちょっと思ってしまっただけだ。


「ただの気まぐれです。無いなら別に……」


「待て待て、あるぞ。いくらでもある。ちなみにいくつまで言っていいんだ?」


「……とりあえずは、ひとつで。内容によってはお断りしますけど」


 ひとつだけでも聞こうと思った自分を褒めてやりたい。


 何故なら私の言葉を聞いたお父様の目が、性的な色を持って私の胸を確認したのに気付いたからだ。


 欲情してたらお母様に報告する案件だったね。


「ひとつか……。なら、やっぱアレだな。ソフィア、俺に笑顔を見せてくれないか。ロランドに向けるような心からの笑顔が見たい」


「それは無理です」


 ……ああ、思い出したわ。


 私、お父様のこーゆー調子に乗りやすいところが苦手だったんだった。


 お父様、もっと謙虚になろ? 己の望める限界を理解しよね?


「…………一緒にお風呂と言うのは、流石に、断られるか?……エンデッタも聞いているし、やめとくか」


これでも致命傷は避けていた模様。

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