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苦虐の木箱アゲイン


 失敗した。失敗した。失敗した。


 想像が足りなかった。

 想定が足りなかった。

 覚悟も勇気も、何も足りてなんかいなかった。


 まさかこんな事になるなんて……。


 こうなる事を初めから知っていたなら、私はあの時、もっと別の方法でお父様に罰を……いや、なんならその気遣いと相殺して怒りを収めていた可能性も十分にある。そう、お父様が初めからこの事を伝えてくれてさえいれば……!!


 だが、どれだけの後悔をしようとも、時計の針は戻らない。


 仮に昨日の時点に戻って一日をやり直したとしよう。するどうなる。

 あの恍惚を味わせてくれた絶品シチューは食べられなくなるし、なによりお兄様と会えるまであと半日というところまで迫ったこの黄金にも優る時間が、まるっと一日分も伸びてしまうという絶望の未来が立ち塞がるのだ。嗚呼、なんたる手詰まり感。


 オーマイゴッド(ああ、どうしましょ)オーマイゴッド(どーしましょう)


 これは私が一時の快楽に流された罰なのだろうか。


「罪には罰を」という正当性を掲げ、その実、お父様が真っ当に働いて稼ぎ出した大切なお金を、横から奪ってポポイポーイと湯水のように使いまくった罰なのだろうか。


 ……いや、本当は分かってる。これがただの因果応報だということは。


 そもそもこれが本来の形じゃないか。

 何も嘆く必要なんかなくて、私が当初から想定していた通りの流れに戻っただけとも言える。


 でも……回避できるのならしたかったなぁ。


 救われる機会があったにも関わらず、自らの手でその救いを断ち切ってしまっていたとは、なんと愚かな!


 私は本当に救いようが無いな! ダメダメだな!


 信じ難い馬鹿だよ……いや、馬鹿じゃ足りない…………大馬鹿だ!!


「もう、諦めましょう……。仕方ありませんよ」


 エンデッタさんの言葉に項垂れながらも諾々と従う。


 おのれ、おのれ……!!


 まさかこの「苦虐の木箱(馬車)」から逃れるルートがあっただなんて、そんなの全く聞いてないよーーーっっ!!



◇◇◇◇◇



「あの、大丈夫ですか……?」


「ダメです」


 遠足は、帰るまでが遠足です。


 その文言が確かならば、旅行は帰るまでが旅行中と言えるだろう。


 だが私の冒険はもう終わった。

 具体的には、街から出て整備された道が終わって五分で終了した。終わりました酔いました。ご臨終ですちーんなむなむ。


 いやホントもーーねーーーー、ホンッットしんどい。しんど死ぬ。


 覚悟もしてたし精神的には心構えができるからきっと大丈夫とか思ってたけど、やっぱ無理です。無理寄りの無理です。むしろ感覚的には悪化してるまである。


 もうエンデッタさん無視して強制的に眠ってるのが一番なのかもしれないね。


 帰りの馬車の中、ガガンゴンゴンと相変わらずの衝撃で視界を揺さぶられながら、私はそんなことを考えていた。


「まだ出発したばかりだぞ……。ソフィア、キツかったら横になってても良いんだからな?」


「それ余計にツラくなりません……?」


 早くも不調で死んだ目をしている私の姿があまりにも見ていられなかったのか、お父様が心配そうに声を掛けてくる。


 気遣いは嬉しいのだけど、その提案内容はお世辞にも役立つものとは言えなかった。


 それ多分逆効果なやーつ。


 車酔いなら横になって上でも向いてればいいかもだけどねー。馬車の揺れは揺れであって揺れじゃないのよー。「座面からの断続的な衝撃」なのよー。分かるかなーこのニュアンスの違い。小突き合いとどつき合いくらい違うのよ。身体にね、ダメージが入るの。


 街に来る時にも試しに横になってみたけど、すごいよ。座面に近い分衝撃が直で来るから、頭がボンボコ跳ねたよ。ポップコーンになった気分だったよ。


 大体ねー、お父様もお父様だよ。

 言わなきゃ私は知らないままだったのに、出発前になってわざわざ「すまん」とか言うから何かと思えば、期待させて落とすとか中々の非道よ?


 まさか私がお父様のお金を使いすぎたせいで予約してあった乗り心地の良い馬車を使えなくなるとか、そんなん誰が想像できるかって話。前金で全額払っておいてよって思うじゃん普通。


 それにね、そんなお金だけで解決するような問題ならアイテムボックスの中身を解放すればどーにでもなるんですよ。いくらでもお金を工面できたはずなんですよ本当なら!


 アイテムボックスの中身好きなの持っていっていいから今からでもその馬車用意してきて下さいよって話なんですよもおぉぉぉ本当にもう相談してよねえお願い私にも相談して!! なんであのタイミングなの!? 頭がおかしい!!!


 まだ間に合う可能性のあった昨日の段階で! 私に!! 話せよと!!!!!


 なんで、なんで出発直前に話すのよー……。


「これこれこーいう予定だったんだが、ダメになった。すまん」って、それ私に聞かせてどうしたいの。地獄体験用の馬車を見て気合い入れてる娘の前でどーゆー神経してたら「別の馬車もあるよ。乗れないけど」とか言えるの。信じらんない。



 私ね、お父様のこと嫌いじゃないのよ。


 でも好きにもなりきれないのって、こーゆーとこがあるからだと思うの。


 マジつらい。


乗り心地の良い馬車≠揺れない馬車。

逃した魚は得てして、大きく感じるものです。

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