紳士とヘタレの違いを知ろう
フェルとエッテのファインプレーにより、私はお淑やかさを取り戻した。
椅子に優雅に腰掛け、膝に乗せた愛玩動物を愛でる姿は深窓の令嬢でも通ると思う。
伏し目がちにするのがポイントだ。
「あの、ソフィア……ちゃん。さっきは他人行儀でごめんね」
なんか謝られた。
さっきも別に睨んでたわけじゃないからそんなにビクビクしないで欲しい。
悪いのはミランダ様だと思う。二重の意味で。
「ミランダ様に、何か言われていたのでしょう?」
「えっと……、うん。感情が豊かで元気な子だって聞いてたから活発な子だと思ってたんだ。でも実際には想像と全然違って綺麗で大人しい子だったから。またミランダにからかわれたのかなって、ね」
頬を掻きながら、あははと笑っている。
それはつまり、私があまりに美少女で驚いたと。そういうことですか?
いい人じゃん。
「でも人を疑うのは良くないね。ミランダの言う通りのいい子だって確信した。アリシアの大事な妹さんだし、仲良くなりたい」
いい人じゃん、めっちゃいい人じゃん。
この人、眩しいくらいのいい人じゃないですかお姉様。
私なんか浄化されそう。
「ありがとうございます。こちらこそ、お姉様共々よろしくおねがいいたします」
うーん、お姉様の幼馴染がこんな人だったとは。
ただのヘタレかと思ってたのに、予想を良い方向に裏切ってくれた。
でもお兄さん、ヘタレなんだよね?
「それで、今日来てもらった理由なんだけどね」
あ、お姉様が会話の主導権握ってくれた。
まだロバートさんと話すと緊張しちゃうから助かる。
なんだったら二人だけで解決しちゃえば一番なんだけどな。
ロバートさん結婚指輪とか持ってきてないかな? なんて、あるわけないか。
「ミランダから聞いてる。ごめん、僕がアイリス様に話したばっかりに」
「それはいいの! むしろ、私の我儘に長年付き合ってくれてありがとうね」
「ああ、うん」
ああうん、だって。
嬉しそうな顔しちゃってまあ。
ピュアか。
まあ、私の自慢のお姉様はかわいいですし! 微笑まれたら心臓をズキュンと撃ち抜かれちゃうのも分かるけどね!
それでも長年の我儘に付き合って笑顔ひとつではさすがに安すぎるとは思うけど。もうちょっとご褒美あげればいいのに。
あ、でも結婚だと今度はご褒美が多すぎちゃうね。ちょうどいいって難しい。
でもあの顔を見て確定した。
ロバートさんはお姉様が好き。
幼馴染で、婚約者に選ばれていながら何年も手を出さずにいるロバートさんは、お姉様が好き。
これも紳士的って言えるのかなあ?
「あれ? 髪のところに何か……取ってあげるから動かないでね」
「あ、う、うん」
論ずるまでも無い。
あれはヘタレだ。
ヘタレの前評を覆してソフィアに好印象を与えたロバート。
だらしない顔を見られ一瞬でヘタレに逆戻り。




