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リッチな昼食


 おこである。

 ソフィアちゃん、激おこである。


 いくら一時忘れていようとも罪は罪。


 お父様は愛してやまないと自称する愛娘であるこの私に対して、取り返しのつかない罪を犯したのです。



「私まで、本当にいいのでしょうか……」


「いいんですよ。むしろこの程度で済むのなら安いものだとお父様は感謝するべきです。女の子の涙にはそれだけの価値があるんですから」


 さて。

 古今東西、女性の機嫌を損ねた男性の末路など知れたもの。


 有り体に言って、期間限定の奴隷状態。さもなくば期限未定の国交断絶(しらんぷり)あるのみである。ぺっ!


 まあ、私は優しいので? 今日一日のお財布だけで許してあげましたよ。お財布扱いとかじゃなく、お財布の所有権を今日だけ私に移譲する感じでね。反省の意を示すって言うなら最低でもそのくらいはしてくれないと。ねえ?


 だからお父様は今日だけ無一文。


 今頃はお世話になってる騎士団の宿舎でお昼ご飯でも世話してもらってるんじゃないかな? 一人寂しく昼食を取りながら己の罪を自覚するといいと思うよ。


 なまじそれまでが良い雰囲気だった分、急転直下のソフィアちゃんブリザードが予想以上にお父様の精神にダメージを与えてた気もするけど、こればっかりは自業自得としか言いようがない。


 私だってこの旅行中はお父様とそれなりに仲良くしようと思ってたのに、あんな裏切りを知らされちゃったら報復しない訳にはいかないもんね。


 せめて思い出したのが昨日だったらもっとマイルドな解決策を提案できたんだけどなー……。


 って、あーもー、やめやめ。今は楽しい食事に集中しよ。

 せっかくお父様のお金で食べ放題なんだ。良い気分で食べないと料理にも失礼ってもんだよね。


 さて、というわけで私とエンデッタさんは、現在この街一番の高級宿屋「鋼のゆりかご」さんにて昼食の真っ最中なのであります。


 看板料理である「森の猛者たちの闘争シチュー」は運ばれてくると同時に暴力的に美味しそうな香りを周囲一帯に撒き散らす名前通りの暴れん坊だったので、既に一口目は早々に私のお腹の中へと収まっていまして。間をおかずに二口目もペロリといってやりたい所ではあるんだけど、さっきからフェルがヨダレ垂らしそうな勢いで凝視してるからそうもいかず。


 お互いにガツガツと(むさぼ)りたい衝動を我慢して、ゆっくり交代で食べることになりそうだ。


 あ、ちなみにこの独創的なメニュー名はこの宿のご主人が付けられたそうです。


 とっても目を引く「森の猛者」の文言が騎士と魔物たちの事を指している訳では無いのは既に確認済み。

 なんでも騎士さんたちが魔物狩りを始めるよりも前、この街周辺の森には狩人達からそう呼ばれていた猪と熊がいたんだってさ。


 料理名にその名を冠した猪肉と熊肉は獣特有の臭みなんて全くなく、柔らか〜くてトッロトロ。肉以外にも季節の野菜にキノコなどがゴロゴロごっちゃりと入っていて、スープから掘り出すのが楽しくなるような具沢山。


 もうね、他人が食べるところを見てるだけでも満足できるのがひと目で分かっちゃうくらいの、すんばらしく濃厚で旨みたっぷりなごちそうシチューなのである。


「これ、とても美味しいですね!」


「ですね〜。パンとの相性も最高です。止まりません」


「キュッ、キュウッ!」


 いやホント、これは美味いわ。

 流石にお財布内の長兄、泣く子も黙る金ピカ兄さんを対価に要求するだけの事はあるわ。ウルトラうんまい。


 しかもこの美味さ、どうやら人間の枠には収まらないらしい。


 私がいちいち(スプーン)で掬ってからふーふーして食べやすい温度にしてあげてたってのに、フェルったら三口目から直飲みに移行したからね。もう食べるのに必死よ。


 待ちきれなくて、器に顔突っ込んで火傷して、それでも熱さにのたうつよりも食べる事を優先したからね、この子。食い意地の張りっぷりがもう見てて恥ずかしいレベル。脇目も振らずとは正にこの事。


 まあその気持ちも理解出来るからこそ私も木製のスプーンをこうしてフェル用に動かしてあげてるわけなんだけど、そろそろ一旦満足して、そのガッシと掴んだ手を離してはくれないものかな、フェルくんや。私もスープ付けたパンだけじゃなく、ゴロッとしたお肉とかまた食べたいのだけど。


「フェルー? フェルくーん? そろそろスプーン離して……あのー、おーい。……いい加減にしないと、お腹こちょこちょしちゃうぞー?」


「……ッ! ……、……ッ!」


 ダメだこりゃ。聞く耳持たん。

 お腹をくすぐってもヒゲにちょっかい出しても無反応とか、どんだけ気に入ったのこの子。


「美味しそうに食べてますね」


 そんなフェルの様子を見て、エンデッタさんも笑っていた。


 もー、フェルったら……。

 がっつき過ぎてて、ちょっと恥ずかしいんですけど。


「まあ確かに、とても美味しいですよね……ってフェル。さっきからお肉ばっかり食べてない? ちょっと、こら」


 抵抗を無視し、スプーンを無理やり器から離してみれば、スプーンの影には肉が異様に集まっていた。


「……フェルぅ?」


「……キュ」


 いや、いやいや……。


 私だって、しまいにゃ怒るよ?


お忘れの方もいるでしょうか?

フェルの持つ特殊能力は「物を転ばす(動かす)力」。


つまり、不自然に集められたお肉は……?

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