ロバートさんを知ろう
明けて翌日。
ミランダ様がロバートさんを引き連れてやってきた。
また明日って言ってたけどこういうことだったんだね。
今日はフェルとエッテも一緒だし、どんとこいです。
でも急だよね、よく昨日の今日で連れて来れたよね。
期限もあるし早いに越したことはないんだけど、みんな生き急ぎすぎてると思う。
もっとのんびりしてもバチは当たらないんじゃないかな?
「初めまして。ロバートです」
「メルクリス家次女、ソフィアと申します。お逢い出来て光栄ですわ」
お姉様の婚約者とのファーストコンタクト、ガッチガチ。
いかん、緊張がうつった。
もうちょっと親しみやすくするつもりだったのに、この私にですわ口調を使わせるなんて只事じゃないよ。そんなに緊張しないでよ。
私なんてただの小娘、いい人と噂のロバート様にかかれば「飴ちゃん食べる?」「食べるう!」の三秒で篭絡してくれなきゃ。
こんなガッチガチの空気、どうすんの?
てかなんで未だにそんな緊張してるの?
私、自分で言うのもなんだけど、チョロいよ? チョロチョロよ?
お菓子でも面白い話でも、なんでも食いついちゃうよ? お淑やかさなんて欠片しかないよ?
……な、なんか言ってよう!
緊張で強ばっていても優しそうな顔なのは分かる。いい人そうなのも分かる。だからこそ分からない。
なんでこんなに凝視されてんだ私。
へるぷ! 誰でもいいからたすけて!
何故かお姉様の婚約者と見つめ合っているという状況の中、そっと背中に回した手を振って援軍を要請した。
反応はすぐに来た。
「ロバートさん。挨拶も済んだようですし、どうぞこちらへ」
救いの神はやっぱりお兄様だったよっ!
困った時には必ず助けてくれる安定と信頼のお兄様! だから好き!
タイマンでさえなければこっちのものだ。
ここは我らがホーム、お姉様の部屋。そしてお姉様たち三人は学友という間柄。
お姉様とミランダ様が相手ならロバートさんも緊張せずに話せるだろうし、場が温まった辺りで参加すれば自然に会話も出来るでしょ。
そう思って三人を見れば、お姉様が手ずからお茶を用意しているのを手伝おうとしてミランダ様に止められているロバートさんの姿が。
そのままミランダ様が顔を寄せ何事かを囁けば、ロバートさんは驚いた顔で私を見て……ってミランダ様よ、何言ったの?
そういえばロバートさんを連れてきたのミランダ様だったし、その時になにか吹き込んだ、とか?
ありうる。ミランダ様ってああ見えておちゃめだし。
ジッと疑いの目でミランダ様を見てたら、ロバートさんが慌てだした。
やばい、位置的に睨んでいるように思われたかもしれない。
立ち上がるのを阻止されている様子を見るに、ミランダ様はまだまだロバートさんを盾にする気満々のようだ。
あ、また何かを囁いて……ってミランダ様顔近くありません!?
その距離ではまるで恋人同士に……っ、いけない! お姉様の初心で純心なハートに傷がつくようなことはっ!
二人の様子にお姉様が心を傷めることはミランダ様だって本意ではないはず!
慌ててお姉様の様子を確かめれば、呑気にメイドからお茶菓子を受け取っていた。
お姉様! 今あなたの婚約者が誘惑されてるから気にしてあげて!
思わずツッコミを入れた心の声が届いたのか、お姉様が未だイチャイチャしてる二人を見て一言。
「ロバートをあんまりいじめないであげてね」
優しいけど、なんか違う!
一瞬、なんと恋人っぽい台詞! とか思ったけど違う! これ幼馴染としての台詞だ!
自分の婚約者どころか、下手したら弟くらいにしか思ってない!!
ひょっとしてお姉様の中でロバートさんの立場、私やお兄様と同列なんじゃないの?
ロバートさんもっと頑張れよ!
くっ、なんで私がこんなにやきもきしてるんだ!
傷ついて欲しいわけじゃないけど、婚約者が別の女性とイチャイチャしてるのに欠片も気にしないのはどうかと思うよお姉様!
まあ、婚約者がいるのに? 別の女性とイチャイチャしてるロバートさんも、どうかと思うけどね!
荒れ狂う、ソフィアの感情、怒髪天。
準備万端、フェルとエッテ。