表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
667/1407

密談、二日目


 旅行って楽しいものだと思うの。


 そりゃ広義では別の街に行けばそれだけで旅行って枠組みに入るのかもしれないけど、今まで知らずに済んでいた怖い話を聞かされて、しかもそれがお母様の差し金ともなれば不安で夜も眠れなくなるのが当然だと思う。


 明日以降もどんな罠が待っているやらと考えたくもない方向に思考が流れちゃうし、こんな心休まらない旅行もないんじゃないかな。



 見知らぬ街で、夜闇の中で震える私。


 冷たい布団に包まれて、小さく縮こまるくらいしかできる事は無い。


 ――嗚呼。

 こんなに可哀想な私には、もう――



「(そっか。僕もソフィアに会えないのは寂しいよ)」


「(お兄様……ッ!)」


 ――お兄様との夜の密談で、癒されるしかないじゃあないかっっ!!!


 はああぁ〜〜、お兄様好き。ホント好き。


 頭の中で「寂しいよ……」なんて囁かれたらもう全身にゾワゾワッて震えが走って布団の中で思わず胸を押さえちゃったよね。キュン死するかと思ったむしろした。

 お兄様の声は聞いてるだけで臨死体験して天国を垣間見える本物の天使様の声ですわあ。尊すぎて涙でそう。


 ほんとねー、もーねー、考えるのめんどい。


 魔物がどーとかお母様の考えがどーとか、全部まとめて知らーん! ってしたい。


 魔物なんか放っておいてもどーせ人を喪神病にするくらいしかできないんだから事後の対処で良くない? それが嫌ならちゃっちゃと一掃すれば済む話じゃないの?


 報酬にフェアデン(超一流菓子店)のケーキでも出せばフェルが一晩で近場の魔物を一掃するよ。ダースで用意してくれたら私が世界中から駆逐するのもやぶさかじゃないよ。


 でもそんな物騒な思考は乙女には似合わないからね。


 適当に「魔物こわーい」とか言ってお兄様の胸に飛び込むのが正しき妹乙女の在り方なので、私はその理想郷へと邁進するのみだ。


「(いつかお兄様ともこの街を観光したいです。とっても美味しいポトフのお店があるんですよ)」


「(へえ、ソフィアが言うなら相当に美味しいんだろうね。……うん、僕もソフィアと旅行がしてみたくなってきたよ)」


 うおおおおお兄様が乗り気だとう!?


 してして是非してお兄様と旅行する為ならソフィアはあらゆる障害をいくらでもぶち壊してやる所存でありますう! いやっほい!


「(是非しましょう! その時は私が街を案内します!!)」


「(あはは、ソフィアが? それは楽しみだね)」


 はーっ、はー、つらい。夜中にお兄様と話すのとてもつらい。

 興奮しすぎて息切れしてきた。お兄様と旅行デートしてるとこなんて想像したら幸福のあまり失神するかもしれない。今ですらかなり幸福の絶頂に近くて正気を保つのがやっとですよ。


 念話、予想以上にやばいわ。

 夜中に布団の中でってシチュエーションがもう最高にハマる。


 お兄様のお声を最高品質で聞くだけでいっそお兄様に抱かれてる気分にすらなってくるもん。全身はずっと震えっぱなしで、特に内股とかもう擦りすぎてさっきから違和感が、って嫌だよもう恥ずかしい! お兄様の声を聞きながらとか最高に興奮しちゃうわ! これ癖になったら戻れなくなる!!


 私は一欠片すら残らず溶かされきった理性をなんとか修復して人としての矜恃を取り戻す。


 危うくお兄様の声をオカズにこのまま……なところだったわ。これホント、声が頭に響くの、理性砕くぅ……んん。


「(ソフィア、どうかした?)」


「(いえ、その!)」


 とととひゃっほい! やっぱりこのプレイは私にはまだ早すぎる!!


 お兄様の声を聞きながらお兄様でしちゃう上級者っぷりを改めて再確認した私は、建て直した理性が再び蕩かされる前にと慌てて話題の方向性を修正した。


「(あの、お兄様は知っていたのかなー、と……。その、お父様が、私に何を話すか、とか……)」


 が、恥ずかしさが極まった結果、悲しみに暮れる少女みたいな雰囲気になってしまった。


 違うの。お兄様を責めたいわけじゃないの。

 でもでも、お兄様でうにゃーんする直前だった事がバレる訳にはいかなくて……あうあう。


 私が心中でテンパっている間にお兄様は返答を定めたらしい。


「(……うん、知っていたよ。……幻滅したかい?)」


 思わずこちらまで真剣にさせるような落ち着いた声音で……。

 まるで私から断罪される事を望んでいるような……切なげで、苦しげな声……。


 何故かは分からないけど、そんな風に感じてしまったのだから大変だ。


「(いえまさか! お兄様の事ですから、きっと私の事を思っての判断だと信じてますので!)」


 おおおお兄様が落ち込んでおられる!? 緊急警報発令(エマージェンシー)! 即刻お兄様に笑顔をお届けせねば!!


 私はすぐさま考え付く限りのありとあらゆる手段をもってお兄様を笑わせることに腐心し、その結果、なんとかお兄様をくすりと微笑させることに成功した!


 成功報酬はお兄様の褒め言葉だ!!


「(やっぱりソフィアは優しいね。……本当に、優しすぎて困っちゃうな)」



 一晩中悶える羽目になったのは私のせいではないと思う。


 お兄様の声、破壊力高すぎィ!!


布団「モゾモゾ。モゾモゾモゾモゾモゾ」

エンデッタ「……なんだか寝苦しそう。間近で見た魔物が怖かったのかしら……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ