デザートは欠かせません
人には人のルーティンがある。
朝起きたら一番にトイレに行くだとか、歩き出す時は必ず右足を先に出すだとか。
そうでなければならないという必然性はなくとも、この自分ルールに背くとなんとなく収まりが悪い。違和感がある。そんな気分が付きまとうものだ。
だから、ルーティンは大切にするべきだと思うの。
さて、ここで問題です。私のルーティンはなんでしょう?
答えはご飯の後にデザートを食べることでした。わ〜ぱちぱちー。
……え? これはルーティンじゃないって?
細かいことはいいの! 酒飲みが何かと理由つけて年がら年中飲んでるよーなものだと思って!
と、いうわけで。
「デザートは別腹ですから」
そんな魔法の言葉でゴリ押して、無事にオシャレなカフェでデザートを食する権利を得た私です。今日も今日とて菓子が美味い。うふふん。
とはいえね、今日はいつもとはちょっと流れが違ってね?
食後のデザートの前に予定外の間食を挟んだせいか、さっきから大人たちの視線が痛いのなんの。お父様もエンデッタさんもそんな見ないで、食べづらいから。もぐもぐ。
そもそもこの魔法の言葉、汎用性は抜群なんだけどひとつだけ欠点があってね。いや欠点というよりは当たり前の事実ではあるんだけどね。
知ってる? デザートが入る別腹って、脂肪は受け持ってくれないんだよ。信じらんないよねー。
お昼ご飯食べて、肉串食べて、デザートも食べて。
我ながらちょっと、ちょぴっとだけ、運動しなきゃなーとか思ってる。今朝は日課の運動も欠かしたし、その代わりになる何か……有り体に言えばカロリー消化がしたい。精神の安寧の為にも!
魔法で完璧にケアしてるとはいえ油断しないに越したことはないからね。油断は美容の大敵だもの。もぐもぐもぐもぐごっくん。うーん、おいちい。
「……よく食うな」
「……どこに入ってるんでしょうか?」
やめて、黙って。冷静に言うのやめて。
あ、違う。これきっとエッテの話だね。だって私、今日はエンデッタさんがいるからデザートはこのフルーツタルト一個だけにしたし。ほらエッテ、あーん。おいしいー? おいしいねー♪
全く全く、さっきから人を食いしん坊みたいに。失礼しちゃうよね。お菓子は別腹に入るって常識を知らないんですか。
甘い物には専用のスペースが用意されてるから、どんな時でもデザートは絶対に必要なの!
これ、女の子の常識ですよ?
「そういえば、この後の予定はどうなっているのですか?」
それでもこの話題を続けられると心に僅かな澱が溜まっていきそうだったので、即刻別の話題にするべしとの心の声に従い、お父様へと水を向けた。
正しさも万能ではないからね。時には人を傷つけたりもするからね。
食べたら体重がアレとか。糖分がカロリーがソレとか。もぐもぐ。
「この後も引き続き書類仕事だな。ソフィアはその間どうするか……何かしたい事はないか?」
ふーん、したいことねー。ご飯の後だしお昼寝かなー。
そう考えはしたものの、摂取カロリーが過多な現状を思い出し、即座にその希望を投げ捨てた。わざわざ自ら肥えにゆく必要もあるまい。モー。
それに今の私は一人じゃない。私が動くとなれば必然、エンデッタさんも付き合わせることになる。
なんとなしに隣に座るエンデッタさんの方へと顔を向ければ、彼女の視線はテーブルに釘付けになっており、その視線の先ではエッテが大事そうにケーキを抱えたまま器用に紅茶の水面を舐めている姿があった。
うん、エッテ。少しは自重しようか?
せめて食べるか飲むかのどっちかにしよう。
トントンと机を叩いて注意を引き、目線だけでエンデッタさんを指し示す。
そうすれば賢いエッテはすぐに私の意図を汲み取り、私のお皿に食べかけのケーキを載せると、すぐさまエンデッタさんの元まで駆け寄った。
そこから顔を見つめ、小首を傾げるまでがセットのエッテ必殺の悩殺ポーズ。
「キュイー?」
うーん、あざとかわいい。
思わず抱きしめたくなっちゃうくらいかわいいけど、私はそんな指示は出していない。
私はただ、エンデッタさんの目があるからあまり自由な行動はしないようにと注意を……あれ? でもエンデッタさんがエッテにメロメロになれば問題はなくなるから、エッテの行動も間違いではない?
まさか自分が我慢するより我慢しなくていい環境を作りに行くだなんて。エッテったらなんて恐ろしい子っ!
そんなエッテの魅了攻撃を受けたエンデッタさんは、エッテの魅力にメロんメロんにされて……はいなかった。
キュッ? キュイッ? と媚びるエッテをじーっと見つめ、おもむろに口を開く。
「…………この子、昨日と顔が違いませんか?」
うっそでしょ。
この人エッテとフェルを見分けてる? 別個体だって先入観なしの状態で!?
昨日って言ったってアリバイ作りの為にフェルをちょろっと見せただけなのに、どんだけ記憶力がいいんですか!
「え? そうですか?」
転移魔法の秘密を漏らせない以上、気の所為で押し通すしかない。
むやみにエッテの名前呼ばないでホント良かった!
ソフィアちゃんのお洋服の中には可愛いペットが一匹住んでいますよ!というアリバイ。
正直なところ、それで誤魔化せていると思ってるのはソフィアくらいなものである。
どう考えても違和感はあるけれど、服を剥いて確認もできないというだけの話です。




