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予想以上に退屈でした


 騎士の人達とお話をしながらの楽しい巡回を終えれば、次なるお父様の仕事は家にいる時と同じような事務作業だった。


 見ているだけだと退屈するだろうからと街を見て回る許可も貰ったんだけど、折角の機会だからとお父様の間近でお父様の仕事っぷりを眺める方を選んだんだよね。



 ……そんな判断を、一時間前の私はなんでしちゃったんだろうかと今、私は激しく後悔をしております。


 いや本当は分かってる。

 騎士の人達にちやほやされまくったのに機嫌を良くしてちょっぴり調子に乗っちゃったというか、久しぶりに複数の大人の視線に晒されて身体に染み付いた理想の貴族子女ムーブが出ちゃったというか、そんな理由だということは本人である私が一番よーく分かってはいるんだ。


 ……なんであんなこと考えちゃったかなー。


 現在、お父様はバリバリと仕事中であります。

 とても真面目で、ともすれば格好良くも見えるかもしれませんが、よくよく見ていると時折、横目でちらっと私の視線を確認しているのであります。


 わざと反対向いてた時に肩の高さが拳一個分変わるくらい脱力してたのとかけっこー面白かったよ。その後振り返った瞬間には元の体勢に戻ってたのも含めてね。


 まあそんなこんなで、「父親想いの良い娘さんですね」的な数々の視線につい「なら今日はお父様が感動するくらいの良い娘を演じてあげようかなっ」なんて軽い気持ちでサービス精神を出してしまった私は、娘の前で格好良くあろうとするお父様をニコニコと余所行きの顔で楽しく眺めるくらいしかやることがないのだった。おーまいごっど。


 事務作業見てるだけってちょー暇。


 幸い私に付けられてるエンデッタさんがお父様の仕事内容を把握しているようで、今は王都で受けた報告に間違いがないかを確認をしているところだーとか、王都に提出する為の書類に不備がないかを確認しているところだーとか、逐一説明はしてくれるんだけど……まあ、大した退屈しのぎにはならないよね。かといってお父様で遊びすぎて仕事の邪魔をするのも悪いし。


 どうしたものかなーなんて考えながら、お父様の顔の向こうにある窓をぼんやりと眺め、耳に届く街の喧騒から街の姿を想像する。


 ……立ち並ぶ屋台に、日用品、果物、アクセサリー。それにこれは……パンかな? 香辛料を使ったシナモンロール的な物も売っているみたいだ。へー、珍しいね。


 魔法で視界を得ると外に行きたい欲望が溢れ出るからせめて匂いだけで、と思ったんだけど、匂いもダメだね。やっぱり食べ物の匂いにどーしても釣られちゃうし、あとさっきから焼き鳥屋の存在感が強すぎ。暴力的な肉の匂いとかタレの匂いが他の匂いを阻害しまくる。

 てかこの店の周辺ばっかりやけに男臭いのが集まってるんだけど、これはどこの男衆かな? こんな昼間っから酒飲んでる人も多すぎで、これ通行の迷惑になってるんじゃないかと心配になるレベルなんだけど。嗅覚強化してるせいではあるんだけど匂いだけでも酔っちゃいそうだし、皆さんお仕事とか……あ、でもこのソーセージもいい匂いで……。


「ソフィア、やっぱり退屈なんじゃないか?」


 おっと、街の風景やら食べ物やらを脳内で再現するのに熱中してたらお父様に退屈してるのがバレてしまった。お父様も鋭くなったね。


 これを機に街に探索に出てもいいんだけど、今行くと私は間違いなく食の魔人と化す。とりあえず焼き鳥とソーセージとパンを買ってデザートにはフルーツまで買っちゃう。そうなるとお父様は一人で食事することになりしょぼーんとしちゃうだろう、それはいけない。


 なのでここは妥協案でいこう。


「そうですね……真剣にお仕事をするお父様を見ているのも悪くはなかったのですが、ご迷惑でなければ私にもなにか仕事を回しては貰えませんか? 計算くらいはできますから、お父様のお手伝いをさせて下さい」


「すぐに用意しよう」


 お父様の処理した書類を整理してたエンデッタさんが「えっ」と小さく声を上げたけど、お父様は気にせずに周囲に目をやり何か私に任せられる仕事はないかと探し始めた。


 そうか、お父様が良ければ問題ないと思ってたけど、私が加わる事でエンデッタさんの仕事に差し障りが出る可能性があるのか。失敗したな。


 とはいえ今更お父様を止められそうもないので大人しく待つことしばし。すぐに目の前に書類がドドンと用意された。


 紙自体が分厚いから見た目より量はないと分かってはいても、威圧感あるよね。


「ソフィアには確認作業を頼みたい。こちら側の書類に載っている各項目の――」


 ふむふむ、やること自体はとてつもなく単調だけど、その分簡単と。私向きの仕事が来たね。飽きる前には終わりそうな量というのも実に良い。



 ――それからしばらくの時間。

 私とお父様は机を並べて、仲良く一緒にお仕事に励んだのでした。


 お父様、ずっとご機嫌だったよ。


この日この部屋を訪れた者は、揃って父娘の話題を口にしていた。


「娘さんに良いところ見せようと張り切ってるの丸わかりでさ、思わず頬が緩んじゃったよ」

「娘さんもお父さんの真似して書類持ってんの。可愛すぎだよな」


その日は書類を手ずから持ってくる人が多かったとかなんとか。

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