新人騎士と山賊の話
街周辺の森の巡回。及び遭遇した魔物の討伐。
それが現在の騎士の人達の基本的なお仕事だそうだ。
「前は街の警備とかが主な仕事だったはずなんだけどさ、俺が入った時にはもうこんな感じだったよ。初めは正直『魔物の相手するなんて聞いてない!』って思ったけどさ。あの小さいのなら俺たちでも何とかなるし、俺らがやらないと街の人達が危険に晒されるって考えたら、やりがいも出てきたっていうか……。自分に出来ることをしようって、頑張る気持ちになれたんだ」
そう語ってくれたのは騎士になって三年目の新人、ケインズさん。
彼の父も騎士だったそうで、魔物が増えたという話は何度か聞いてはいたものの、実際に自分が騎士になるまでその意味を本当には理解していなかったと驚いたそうだ。
「知ってるか? あの小さい魔物って空賊の人達の技術の賜物なんだってさ。なんでも一定の大きさに加工した魔石を、なんか特殊な削り方して、魔力を含んだ粉にしてるとかなんとか……あー、まあ要するに、でっかい魔物の代わりに小さいのが何匹も生まれるようにしてるんだよ。そのお陰で俺たちみたいのでも被害を出さずに安全に魔物が倒せてるってわけ。賊の人達ってやっぱ凄いよなー。前に『山熊猫』って山賊の人達と合同で山狩りした時もさ、ぶっとい剣持った山賊の親分さんが犬型のでっかい魔物を一人で圧倒とかしてんの。あーゆーのやっぱ憧れるよなー」
そして魔物退治の専門家である賊の人達は騎士の人以上に忙しいようで。
自分たちの守護する地域に発生する魔物をしっかりと排除しつつ、騎士でも魔物と戦えるように知恵や道具を貸し与えたり、騎士が相手取るには厳しい相手が出た時には出張して倒しに来てくれたりもするんだそうだ。なので騎士達にとって賊とは憧れの存在らしい。
……騎士に憧れられる山賊ってだけで私からしたら腹筋がピクピク反応しちゃう程度には面白案件なんだけど、なんたってこの国の賊の人達は神職らしいからね。神聖で偉くて格好良い山賊の方々だからね。ちゃ、ちゃんと敬わねばならんよ、うん。ぶふっ。
あっ、そういえば山賊で思い出したけど、子供の頃に出会った愉快な山賊の人達がいたな。あの人達は今もあの山で元気に暮らしているのだろうか。
あの時のアップルパイはホンットに絶品だったなー。
思い出補正もあるかもしれないけど、未だにアップルパイではあそこを超える逸品には出会えていない気がする。
なにが違うんだろ? 作り方から違うのかな?
何かは分からないけど、自分で作ってみても味の深みみたいのがどーしても同じようにならないんだよね。特製のもそれはそれで美味しいんだけど、あれはぶっちゃけ高級素材の暴力だし。
また会えたら作り方とか聞けないかなー。お母様とも交流があったみたいだし、その線でどうにか……。
魔物が増えて山賊の人はいま大変らしいけど、山賊ってめちゃ強らしいから滅多なことは無いだろうし……。あでもでも、あそこには若い女の子もいたからちょっと心配な気も……ってあれ。うん? そーいえばさっき、おにーさん、山熊猫って……うん?
なんとなーくその名前、聞き覚えがあるような?
「お父様、お父様」
なおも山賊の魅力について語り続けるおにーさんからそそっと離れ、お父様に話し掛ける。
「どうした、疲れたか?」
「いえ、体力は問題ありません。それより『山熊猫』という山賊団の話を聞いていたのですが、もしかして……」
それって昔、私がお世話になったところでは?
そう続けようとしたんだけど、その前にお父様が素早く「しっ!」とその先を告げないようにと指示してきたので、良い子なソフィアちゃんはすぐさまお口にチャックしました。
うむむ。なんかマズったかな、私。
なんだか真剣な顔をして周囲に今の話が聞かれていないか確認しているお父様の姿を見ると、明らかに都合の悪い話っぽい雰囲気がぷんぷんする。
でもこの話の情報源、新人騎士のケインズさんなんだよね。
そんな顔して見回さなくたって情報管理は既にボロボロな感じするんですけど。
そんな心配をする私の耳元にそっと口を寄せたお父様は、囁くようにして密やかに話を始めた。
「ソフィア。魔物を簡単に倒せるお前には信じられない事かもしれないが、本来魔物というのは一介の騎士の手には負えず、山賊団のような賊の方々に討伐をお願いして倒してもらうような存在なんだ。だからな、いくら山賊の人達が弱いとかだらしないとか感じても、決して貶めるような発言をしたらダメだぞ。騎士にとって賊の人達は雲の上の存在なんだからな」
わあ、なんてびっくり。私への注意が始まりましたよ?
早とちりしたお父様は私が山賊の話を聞いて「え、山賊ってそんな弱いの? お父様本当?」と確認しに来たと思ったらしい。信用無さすぎて涙が出るね。
いくら私でもそんなこと……と思ったけど、数分前に「騎士ざっこ」と感じた事を思い出して不満は消えた。
……お父様は意外と私のことを理解してたね!
ソフィアの記憶において、山賊=元気な女の子=アップルパイ。
あとは山賊砦が母親に初めて叱責された思い出の場所ってところですかね……。




