明かされた事実
お父様は口がとーっても軽かった。綿菓子の方が重いんじゃないかと思う程度には軽かった。
そのお父様への聴取……じゃなくて、報告……でもなくて、えーっと……そう、懺悔。お父様からの懺悔とそのついでのお話により、私は私の知らなかったいくつかの事実を知った。
事実そのいち。
屋敷の食堂で、私をギャフンと言わせる為に画策されたあの勘当ドッキリみたいなやつは、まさかのお父様が発案者だった。
事実そのに。
お父様たちは、昔から続けてきた私の出生に関わるある隠し事を、ものすごく気に病んでいるらしい。
事実そのさん。
お父様は、私が本当はお父様のことが大好きなのに普段は照れてその感情をあまり表してはくれないから、この旅行中にたっぷりと甘えてくれるのを実はかなり期待していたということ。
あ、ちなみにこれ、私の中での重要度順ね。
勘当ドッキリの件は後で詳しく聞くのは確定だから、今は二番目に大事な「私の出生に関わる秘密」ってやつかな。三番目のはなんかどーでもいいや。勝手に期待が外れて落ち込んでいればいいと思う。精々観光の時に私のご機嫌取りでもするんだね。許す気ないけど。
私は頭の中で時系列を組み立てて、従順になったお父様により詳細な内容を話すよう命じた。
「それで? 私に隠していた、『いつか話そうと思っていた事』とやらはなんなんですか? 全部話してくれるんですよね?」
「ああ。……さっきも少し話したが、ソフィアは生まれてすぐに、預言の魔女殿から『災厄の芽』として名指しされたことがあるんだ」
……なんかそれ、聞き覚えあるよ? どこで聞いたんだったかな。かなり昔だった気はするんだけど……。
「『その子が生きているだけで禍が広がる』と。彼女の予言は当たるからな。多少騒ぎにはなったが、だからといって産まれたばかりの子供に何が出来る訳でもない。幸いソフィアは容姿に優れていたから、あちこちに連れ回すことで好意を集め、悪い噂自体はすぐに払拭できたんだが……」
あ、そうだ。着せ替え人形時代に聞いたんだった。
あの頃は行く先々でご婦人方にもみくちゃにされてたからね。
聞こうとしなくても色んな話が続々と耳に入ってくる環境で、その時耳についた言葉のひとつが今お父様の言った「災厄の〜」ってやつだったんだよね。
……まあ、連日大勢の人に弄ばれ続けるのに疲れ果てて記憶が曖昧になってた時期の事だから、もしかしたら勘違いかもしれないけど。
私が一人で納得しているのをよそに、お父様は大きな呼吸をひとつ挟むと、意を決したように厳かに告げた。
「……だが、現実に問題は起こっていた。ソフィアのせいで無いのだけは明らかだが、預言の通り、ソフィアの誕生と時を同じくして発生し徐々に被害を拡大し続ける、正に禍と呼ぶに相応しい事態が王国で進行しつつあったんだ」
……なんかものすっごい深刻そうだけど、それ予言の人の一言がなかったら私の誕生とか関係ないよね。私の誕生と同じくしてって事は、私の同世代全員に同じことが言えるもんね。
そう思ってはいても口には出さない。
空気の読めるソフィアちゃんは「そもそも予言とか眉唾じゃない?」なんて思っても、心に秘めておける良い子なので。
「原因不明の魔物の増殖。王国はあらゆる手段でその原因を探ったが……結局、その原因を見つけ出すことは叶わなかった」
お父様の言葉を聞いて、私は心の中で瞳を閉じた。
すいません。それ多分私が原因ですごめんなさい。
私が悪い訳では無いんだけど、私が原因らしいってのは女神様の証言付きで確かなことらしくてー……。いやー困っちゃうよねホント!
「魔物が、魔物の被害が増えている。……ソフィアも噂に聞いた事くらいはあるだろう?」
「はい」
具体的な数は知らないけど。
と言う心の声が聞こえた訳でもないだろうけど、お父様は私の答えを予測していたらしい。
「明日その実態を見せるつもりだったが、先に知っておいてもいいだろう。ソフィア、現在王国では多数の魔物を観測し、日々これに対処している。……十五年前と比べて、昨年の魔物の発生件数はおよそ何倍に増えたと思う?」
ここで突然のお父様クイズが発生した。
何倍? そんなワサッと増えたの? とは思ったけど、そういえばリンゼちゃんの話では確か、私を中心に悪意が広まるといった話もあったはずだ。なら実際に増えている魔物の数は私個人が原因で生み出されている数以上になるのも当然かもしれない。
「えっと……三倍、とかですか?」
それでも王国の人口は莫大だ。
私やその周囲の人達が十や百の魔物を産んでたとしたって、大した数じゃないはず……いや、実際に対処する人にとってはそれなりの違いになるんだろうけど……。
――そんな私の心配は、あまりにも的外れだと知った。
「約二百倍だ」
……私、まだこの世界のことってあんまり詳しくないんだけどさ。
この国ってもうすぐ滅ぶんじゃない?
知ってたけど知らないこと。知らなかったけど気にしなかったこと。
知識と現実が、今。結び付く。




