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抗えない脅威

◇注意◇ソフィアが吐き気を我慢するだけの回です。気にする人は見ないでね。

以下、飛ばす人用のあらすじ。


(あらすじ〜始〜)


目的地に到着し、ソフィアは寝込んだ。


(あらすじ〜終〜)


 着いた。


 目的地の、街に、到着した。らしい。


 らしいというのは、私が正常な状況判断能力を失っているが為に、自力での認識ができないからだ。


「うっ……、」


 あっ、やばい。また波が……、……ふ、うおぉぅ……。


 胸の奥からせり上がってくる不快感を意志の力でねじ伏せる。


 今はなんとか一時的な波を抑える事に成功したが、このままでは程なくして、乙女的に許されざる醜態を晒すことになるだろう。


 …………現状が既にかなりの醜態だという現実は、できれば見逃してくれると嬉しいです。ハイ。


「……大丈夫か?」


 馬車を降りた途端に息を整え始めた私に心配そうなお父様の声が届く。それと同時に、労わるような体温が背中に触れた。


 それは苦しむ娘に掛ける父の言葉として、あるいは優しき父の行動としては、正しかったのかもしれない。見るものが見れば「あれこそが父親としてのあるべき姿」と褒めそやす模範的なものだったのかもしれない。


 けれどもそれは、あくまで自身が健康体である他人の視点。

 今なお吐き気と格闘する私の側に立って見る者がいれば、結果こそが大事なこの場面においてのお父様の行動は完全に無駄であるどころか、むしろ逆効果である事に深い理解を示してくれるのではないだろうか。リバースしない為に精神集中をしている最中に何の益ももたらさないただの心配の言葉だなんて、対応する意識が持っていかれるだけの迷惑行動だと何故理解できないのだろうか。


 今必要なのは、水とか桶とか他人からの視線を隠す何かであって、衆目を無為に集めるだけの言葉などでは断じてない。


 てか大丈夫かどうかなんて見ただけで分かるでしょ。え? これが大丈夫そうな姿にでも見えますかあ? おおん? と内心だけで威勢良く声を上げるものの、現実世界の私は「やめて」の一言を発する余裕さえもなく、心配そうに背中をさするお父様の手を必死に払い退けるので精一杯な有様。


 それやられると本気で吐きそうになるからやめて。背中触んないでって……このっ、……や、やめろっつってんでしょ!? 言えてないけど父親なら分かれよ!!


 お願いだから、娘が可愛いなら人前で嘔吐を強要するような真似をしないでくれませんか!!!


 たかがお父様の手ひとつどかせない自分に泣きそうな気分になりながらも「とにかく、それを、止めろ」と必死になって腕の動きを阻害しようとした私の努力は報われたようで、お父様はようやくそれが私の望まぬ行動であると気付いたのか、渋々ながらも私の身体に触れるのをやめてくれた。正直とても助かる。


 でもね、それでも実は遅いっていうか遅すぎるっていうか、お父様との格闘のせいで私の抵抗力が大量消費されて今まさに限界がピンチっていうか、胃の中のマグマが噴火の時を今か今かと待ち構えてあちょやばばばば。


「……っ、…………早く休める場所に案内してください」


 お父様に要請すると同時、口に当てた手から空気を生成。物理的に胃の内容物がせり上がってこれないようにと力技で押し込んだ。


 食道が拡張される不快感はあるけど、ここでぶちまけるよりは……あっ、でもこれ嘔吐くかも……、ええいっ、根性で耐えるゥ!!


「あの、お嬢様を早くお運びした方が」


「あ、ああそうだな。悪いが部屋をひとつ、早急に用意して――」


 白く靄がかかった様に朦朧とする意識の向こうで、お父様が誰かに命令する声が聞こえる。


 私がなんとか耐えてる間に早くプリーズ。むしろ私の為を思うなら言われる前から動いておくれ……という失望を禁じ得ないが、ここは動いてくれただけでも感謝しよう。


 もしここにいるのがお兄様だったら、私の不調を感じ取った直後には必ず最速で最善の行動をしてくれるのにとどうしても考えてしまうが、お父様は所詮お父様なのでお兄様レベルを求めるのは酷というものだろう。人には人の限界がある。


 てかホントにダメだこれ。お父様ディスってる場合じゃない。


 揺れ対策あとで絶対するし吐き気対策も、ってう……っぐ!! な、波が……波が!! 個室の準備早くしてぇ!!



 ――その後私は、努力が無に帰す前になんとか人目を忍んでトイレに駆け込むことに成功し、げっそりとしたまま用意されたベッドへとその身を横たえる一時の安息を得た。


 魔法がこんなに無力だと思ったのは生まれて初めての経験かもしれない。


 そう思う程度には、私の中で馬車の脅威度が上がっていた。


 馬車、恐るべし。


ソフィアの魔法、敗北するの巻。

初めてに近い本気の不調と、そんな娘にオロオロするばかりの父親を見て、エンデッタは思った。


「私がしっかりこの子を守らないと」と。

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