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お兄様と念話の特訓


 人には幸福を追い求める権利があります。人は幸福になる為に生きているのですから。



 はい。という訳なので、私には遠慮なくお兄様に手を伸ばす権利があります。

 私にとってお兄様と幸福は切っても切り離せない関係なので。


「(どう、ソフィア? 聞こえるかな?)」


「(はい。お兄様のお声が聞こえています)」


 手を触れ合わせれば、頭の中に直接響くお兄様の声。


 これはいつもの妄想ではありません!

 現実のお兄様が、私の頭の中に声を届けてくれているのです!!


 念話が繋がる時の感覚だけでも身体がびびくんと反応しちゃうくらいなのに、耳元で囁かれるよりもさらに近い距離からお兄様の声が聞こえるだなんて私はもうどうしたらいいのだろうか。


 しかも手は当然のように恋人繋ぎ。

 これはもう私とお兄様が一体になったと言っても過言ではない。法的に言えばゼロ親等はつまり夫婦だ。私とお兄様は今、夫婦になったのだ。


 多幸感で頭がハッピー状態な私の耳に、今度は現実のお兄様の声が聞こえた。


「だいぶ安定してきたと思うんだけど、どうかな? 僕の声ははっきり聞こえた?」


「ええ、流石お兄様です。見違える程の上達ぶりでとても驚きました」


 いやほんと、お世辞でなく素晴らしい上達ぶりだ。これなら私以外の誰が聞いても無理なく言葉が判別できるね。


 前に聞いた時は幽霊か妖精か、はたまた宇宙人の仕業かってくらいの囁き度合いだったから、お兄様が遂に幻想上の生き物になってしまわれたのかともう妄想が捗る捗る。私の中のお兄様像が神秘的要素盛り盛りで薄布一枚だけ羽織った中性的な美少年inユニコーンの住む湖とかホンット妄想が想像がトップスピードで駆け抜けましてね。


 あの集中しないと聞こえない神秘性も良かったけど、ゼロ距離どころかマイナス距離で頭の中に直接反響するお兄様の甘い声ってのもこれはこれですんごく良い。とてつもなく良い。お金払ってでも永遠リピートしたいくらいには中毒性ある。まだちょっと背筋がゾクゾクとしてるし。


「じゃあ次は少し離れてやってみようか」


「はい。では……この辺りで」


 ああ、お兄様。向上心が、お兄様のその素晴らしい向上心がソフィアを惑わせるのです。


 お兄様の手助けをしたい。お兄様の力になりたい。

 脊椎反射で湧き上がってくる思いとは逆に、一度得た幸福をみすみす手放す羽目になる事に僅かな悲しみも覚えてしまうのです。


 即ち。


「ああっ、お兄様とのふれあいタイムが!」という落胆は隠せないと申しますか。


 ……いや、もしかしてこれ、隠す必要なかったりする?


 隠さなかったらお兄様が「ソフィアは寂しがり屋さんだね」とか言って毎日手を握ってくれるようになったりするかな?


 そんな妄想を繰り広げている間にお兄様からの念話が届いた。


「(……ソフィア? 聞こえてる?)」


「(はい、ちゃんと聞こえていますよ)」


 ふむふむ、感度は全く問題なし。ただ接続がちょっと弱めというか、何かの拍子に聞こえなくなりそうな不安定さはあるかな。


「意思を明瞭に伝えるコツは掴めたようで何よりです。後は、相手を定めて声を確かに届けるという点に注意して頂ければ、距離が伸びても安定するかと思います」


「そっか。……うん、気を付けてみるよ」


 問題点を指摘し改善のコツを伝えれば、お兄様は真摯に私の言葉を受け止めてくれる。


 その姿を見て「私の言葉がお兄様の中に浸透してる……!」なんて思っちゃうのは我ながら病気かもしれない。


 そう、病名は恋の病だね! ババン!!


 ……さて、次の訓練は、と。


 気を取り直して、今度は部屋から出て更に距離を伸ばして試そうかと扉に手をかけたところで、念話を使うコツを反芻して集中していたはずのお兄様から声が掛かった。


「あ、部屋から出るなら僕が行くよ。ソフィアは椅子にでも座って待ってて。ね?」


 こ、の、お姫様感!! 圧倒的紳士力っ!!


 このさり気ない優しさに女の子はずっきゅんと堕とされてしまうんじゃーい!!!


「はい、分かりました」


 もうね、もうね、これだからお兄様大好き。


 一人残された私はお兄様の部屋をソワソワと見回しながら、大人しくお兄様の念話を待つのでした。


幸福=お兄様。お兄様=幸福。

ソフィアの幸福はお兄様と共にある。

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