お兄様に管理されちゃう!
私がショックでぽや〜っとしてた間の説明を改めて聞いた。
その感想として。
「え? 私がした事の責任を、全てお兄様が……?」
……お母様はやっぱりえげつないという結論に至った。
今まで面倒な事は全てお母様がどうにかしてくれると思って好き勝手してきたのに、それが今日から突然全てお兄様の責任なるって。そんなの、そんなの……!
何も悪いことできないじゃん!!!
思わず魂が叫んでしまったけど、すぐにその考えを否定した
いや待て、違う。ソフィアちゃんわるいことしてない。
わるいことしてないけど、でもでも、おにーさまにめーわくかけたくないの。だっておにーさま、なにもわるくないもん。
咄嗟に幼児退行して責任逃れをする文言を思い浮かべたけど、こんなに可愛らしく罪の軽減を要望しても想像上のお母様は心底見下した目で見下ろしてくるだけで要望を聞き入れることは無かった。きっと現実の反応もこれに限りなく近いと思う。
どーしたらあれだけ私の愚痴を言っていたお母様にまた私の保護者としての立場に戻ってもらえるものかと考えて、考えて……やがて、別に戻ってもらう必要も無いのかもと思い直した。
だってほら、冷静に考えてみて?
私がしたことの責任はお兄様の責任。私の罪はお兄様の罪。
一心同体とも言えるその関係って……なんだか夫婦みたいじゃない!? そう考えたらお兄様に優しく窘められちゃう私ってばまだ妻という立場に不慣れな新妻さんみたいな! みたいなね!?
お兄様に管理される私……ありだね! あり寄りのありだね!!
お兄様が「また言いつけを破ったのかい? いけない子だね……」って顎クイしてきたりとか、失敗してしゅんとしてる時には「ソフィアには僕がついていないとダメみたいだね……」とかとか、あっ、あと悪いことしちゃった時には「これはお仕置だね……覚悟はいいかい?」なんて言われちゃって、夜のベッドで激しくも優しくなんてぉああダメっ、ダメですそんなっ! お兄様ってば大胆ッ!! ソフィア、従順に躾られちゃううぅッ!!
これはむしろご褒美なのではなかろうか。
お母様に怒られすぎた私を不憫に思った女神様がお母様に進言してくれたのではあるまいか。
そう考えたらこれからの日々がバラ色に見えてきた。
うぇるかむお兄様に管理される生活。グッバイお母様に支配される生活。
私は今日、愛と自由を同時に手に入れたのだ。
「ちなみにロランドの方針でもソフィアの更生ができなかったと判断した場合、ソフィアには私のお父様の元で暮らしてもらうことも考えています」
「私、お兄様の元でいい子になります」
お母様の言葉を聞いて秒でいい子宣言を返した。
いや、今もいい子だけどさ。ほら、言葉にするのって大事じゃん?
お兄様に預けた途端、お母様が私に抱いていた全ての問題が解決されたともなればお兄様の評価も爆上がり間違いなしだ。お兄様の為なら私は魔法を使うだけの奴隷にされたって数日くらいは頑張れる自信がある。
……奴隷、奴隷か。
どうせならお兄様の奴隷にしてもらって、こう、お風呂の世話とか夜のご奉仕的な仕事を――。
「ソフィアはやればできる子だからね。僕は何も心配していないよ」
「お兄様のご期待には必ず応えます」
頬に手を当ててにっこりと微笑んだ。
うん、表情はちゃんと取り繕えてる。
素敵な妄想でうっかりだらしない顔を浮かべちゃったかと思ったけどそんなことは無かった。
私はお兄様の理想の妹なので、えっちな妄想をしてでへへ笑いなんてしないのだ。
「……私の期待にも応えて欲しかったものですが」
お母様がものすっごい不満そうに見てくるけど、過ぎた事をいつまでもネチネチと言うのは良くないと思う。人は前を向いて生きるべきなんだよ?
「お母様は理想が高いですから」
だから無理です無理でした、と言外に込めた意思は十分に伝わったらしく、お母様の視線の温度が一段下がった。
怖い怖い視線に射抜かれて心細くなっちゃったので、私はまたお兄様のお胸に顔を埋める。
視線を切れば怖さも半減……いや、一割くらいは減る……減ってる気がしなくもないので。
コアラのように引っ付いた私の頭を撫でながら、お兄様が耳元に口を寄せ、優しく囁く。
「それだけ母上はソフィアに期待しているんだよ」
はああぁ〜っ、そうそう、褒めるならこうして褒めてくれないと! お母様もこのお兄様の手腕を見習うといいよ!
私は煽てられれば簡単に木に登るんだから、やっぱり褒めて伸ばしてくれないと!!
「私、お兄様の元でなら頑張れる気がします」
「うん。一緒に頑張ろうね」
嗚呼、これぞ美しき兄妹愛。
お兄様との理想の関係に酔いしれている私の耳に、お母様の独り言のような呟きが届いた。
「……本当にこれでよかったのかしら」
何を仰る、良かったに決まってるじゃありませんか!
これからお兄様と私による、愛のサクセスストーリーが始まるんだからね! 刮目してみよ!
早速浮かれているソフィアに不安を隠しきれないアイリス。
そんな二人を観察しながらロランドは一人、いつも通りの顔で微笑むのだった。




