理想の爆発を求めて
濃密な二日間を過ごし、私はまた暇を持て余す日常へと逆戻り……なんてことはなかった。
「……爆発しない」
元来、私はひとり遊びが得意な方だ。
暇というものは暇と思うから暇なのであって、好き勝手にやりたいことをやれるのであれば時間なんていくらあっても足りることはないと思う。
――なので、今日は朝からお母様が家にいないというこの絶好のパラダイス日和に。
私は心置き無く魔法の実験をしていた。
もうね、悟っちゃったよね。
どーせ叱られるなら初めから叱られるような事をしようと。
気を遣っても叱られるなら気を遣うだけ無駄だもんね!
「ほっ」
気軽に。気楽に。でもそこそこ真面目に。
昔から使っていて手に馴染んだ木剣を振り下ろした。
本日のお遊戯会場は庭の林の中。
とはいえ普段の訓練場とも朝のランニングコースとも違う場所を選んだのは、カレンちゃんの家の状態へと近付ける為、あらかじめ地面を掘り返して土を柔らかくしておく必要があったからだ。
既に前準備が完了した地面へと向かって都合三度目となる魔力をたんまりと込めた剣を振り下ろせば、今度はドッ! と音を立ててぶつけた部分の土がちょっと沈んだ。ぎゅぎゅっと押し固められた感じ。
「……むむむ」
爆発への道は奥が深い。
そんなわけで、今やってるのはカレンちゃんの真似だ。正確にはあの爆発の原理の解明である。
ぶっちゃけ爆発させるだけなら魔法でボーンでもボカーンでもチュドーンでもなんでも出来るんだけど、剣を使ってってのがどーにも理解できない。
まあこの世界の剣士って自覚なく魔法使ってるから、純粋な剣技って訳でもないんだろうけど……。
土だって物体だ。
上から叩けば潰れるのが当たり前だし、剣士様お得意の衝撃波を真似た風魔法を使ったってせいぜい小爆発っぽく見える事象を引き起こすことしかできない。
地中から働きかけないと、あの規模の、半径数メートル級の陥没を引き起こす大爆発は起こせないと思うのだ。
もう地面にあらかじめ地雷が仕掛けられてたとか言われた方がよっぽど納得がいきそう。
いくら爆発しやすい地面だからといって、普通は剣一本で地面がボーン! とはならないと思うの。
しかもあれ、本来なら私を狙って使われてたんだよ?
もしも身体の一部にでも当たってたらどうなると思う? 私の身体があの地面みたく「ボンッ!」ってなってたかな? ははっ、わらえなーい……。
カレンちゃんの技の謎が解けたら次は身体防御魔法の改良でも進めた方がいいのかもしれないと思った。
でも、今はまずこっちが先だ。
やりかけだともやもやしちゃうからね。分からないから余計に怖いってところもあるし。
「んー……爆発の原理を再現した方が早いかな? カレンちゃんは一息に大量の魔力を動かすのが得意だから……」
爆発。地雷。上空を舞う土。瞬発力。
いくつかの可能性を組み合わせて、あの現象へと届く道筋を考える。
……やっぱり土中で爆発させてると思うんだよね。
でもそれだけじゃなくて、上方向からの指向性もあるはず……となると、あれかな。発勁、みたいな?
カレンちゃんの剣から放たれた魔力が土の少し進んだ場所で威力に変換されたと考えれば理屈は通る……かもしれない。
そんな芸当ができるのかは甚だ疑問だが、まずは爆発を再現しないことには始まらない。
とりあえず景気よくいってみよー!
「そいやーっ!」
イメージはモーニングスター。
釣り竿に掛かったお魚さんよろしく、木剣の先端に魔力の塊がぶら下がっているのを意識して、地面に向かってぶんと振り下ろす。地面と剣がぶつかれば、魔力塊はぐるんと土中へ消える。今だ。
ドパンッ!!
「ぶへっ!」
おお、おおぉお!? 土が、ダンシングつっちー達が襲って来たよ!?
幸いカレンちゃんにやられた時とは状況が違って魔法を隠す必要が無いので、服どころかもろに被った顔面すらも土汚れは付かなかったけど、その代わりにちょっと口の中に入った。土臭いしマズイし普通に最悪。すぐに水魔法を使って洗い流したがやる気はかなり減退した。
……そりゃね。土の中から爆発させてね。上方向に吹き飛ばせばそこには私がいるわけですよ。威力の全ては私の身体に降り掛かるわけですよ。
我ながらなんでこんな簡単なことに気付かなかったのかと嫌になるが、爆発の仕方自体は悪くなかった。つまり、後はタイミングと魔力の量、そして角度の問題だ。
思えばカレンちゃんは剣を少し遠く離して構えていた。
ミュラーが腰の前で構えるのに対して、ちょうど、そう。まるで剣道の構えのように。
つまりこうして――。
「よっ」
「こうかな?」
「おっ、この爆発痕はいい感じじゃない?」
ドォン! ドパァン! ドッパーン!
多種多様な爆発の実験は、騒音に驚いたお父様が止めに来るまで続いた。
そういえば開き直ったせいか音の対策忘れてたね。
……これ、隣りの屋敷にも聞こえてたかな? どうかな?
どうせ庭を爆発させた件で叱られるから関係ないか! あっはっは!
自重をきれいさっぱり捨て去ったソフィア。
娘の開き直った姿を見て、母は遂に、最後の手段の決行を宣言する。
次回、「母の決断」
ソフィアに抗う術はない。
母の用意した首輪を自ら嵌め、恭順を示すことになるだろう……。




