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想定された事態


 会話の主導権を得た私は、無事に私の魔法についての追求をやめてもらうことに成功した。


 ……うん、無事に。嘘じゃないよ?


 嘘じゃあないけど……ちょっと話題選びを失敗した感は、あるかな……?



 パンが無いならお菓子を食べればいいじゃない。の逸話からヒントを得た、名付けて「パンを食べられたくないならお菓子を与えればいいじゃない」作戦。


 興味のある話題から話を逸らすために、より興味を引ける話題を提供する。


 そんな単純で、しかしだからこそ効果的な一手は見事にハマった。……いや。


 ハマり過ぎた。


「やはり、やはり見えていたか! そうだろうな、でなければあの【剣聖】の娘が勝負を望むわけも無い! 私は剣姫の実力は知らないが、カレンの実力なら知っている。そしてカレンが剣姫に(かな)わぬ事も知っている! ふふ、はっははは!! カレン! お前は実に恵まれているぞ!! お前が全力でぶつかっても受け止めてくれる好敵手(とも)が二人もいるとは!! これはそのうち俺も追い越されるかもしれないな!」


「ふふ、覚悟しててくださいね? お父様の剣、すぐにもらっちゃいますから」


「ハッハッハッハ!! ……やれるものならやってみろ!!!」


 暑苦しい。ていうかうるさい。

 声もうるさいしやたらイキイキしてる顔もうるさい。もうやだどうしてこうなった。


 それもこれも全部筋肉が悪い。目を逸らしても何故か視界の中心に戻ってる筋肉が全ての元凶に違いないのだ。


 ガルフレッドさんはカレンを治療して見せた私の秘密に興味を持ったみたいだけど、所詮はただの好奇心。見える弱点(きんにく)を抱えたガルフレッドさんは私の予想通り、戦いの話を始めた途端に面白いくらい食いついた。


 そしたらカレンちゃんが、ポロッと……私が剣聖の娘であり本人も【剣姫】の二つ名を戴くミュラーの()()()()()三連撃を回避したことをバラしてしまったのだ。


 その時のガルフレッドさんの変化……凄かったよ。


 喰われる、って思いました。


 幸いそのめっちゃ恐い目はすぐに引っ込んで、元の好奇心と興奮に溢れた表情に戻ったんだけどさ。あれ絶対なにかのスイッチ入ったよね。


 だって瞳の動きが今までと違うんだもの。

 大笑いしながら話してる時、さりげなく私の身体のあちこちを観察する視線になったのが分かるんだもの。


 やっぱ感情を隠すなら(まばた)きを制御するのが大切だよね。視線の制御だけじゃまだまだですよ。


 ……まあ分かったところでどうしようもないんですけどね!


 どーせろくなことにならないだろうという不安は、驚くほどの即効性を持って証明された。


「そうだな、良かったらこの後二人で運動でもしてきたらどうだ? 今日は丸々空けておいたから俺が直接見てやれるぞ」


 ほらみろほらきた。どーせこうなるんだと思ってたんだちくしょうめ。


 戦うことしか脳に無い人種の人たちには是非とも運動という言葉の意味を正しく理解して欲しいと思う。筋肉貴族なガルフレッドさんを交えたあやとびとかだったら私だって喜んで参加するのに。


「それは……えっと、ソフィア。どうする?」


 提案を受けたカレンちゃんは、一見すると私に決定権を委ねてくれているようにも見える。だがその期待に潤んだ瞳は「やりたいとてもやりたいソフィアと戦いたいソフィアボッコボコにしたい」と強く訴えかけてきている。瞳の奥の狂気が怖い。


 やだよう、ボッコボコにされたくないよう。

 二人で一日中おしゃべりしてようよう。


 ていうか剣持ったカレンちゃんを受け止める気なんてさらさらないのに。そーゆーのは全部ミュラーの担当で、私は平和でかわいいカレンちゃんの担当なのに。脳筋さんはホント娘さんに変なことを吹き込まないで欲しい。カレンちゃんが本気にしたらどうするんだ。


 ……もしもカレンちゃんと戦うことになったら、この子も本気で切りかかってくるんだろうな。


 そんな嫌な想像に完全に及び腰になった私を見て、ガルフレッドさんは言葉を重ねる。


「キミはかなり《加護》の扱いが得意なんだろ? なら何も心配はいらないじゃないか。うちは剣聖さんのところとは違って力自慢が集まってるからケガも多くてな。俺も治療には自信がある。万が一が起きても首さえ繋がってりゃ大丈夫だ」


 一瞬耳を疑った。


 いや、いやややや待って! 大丈夫だと!? それ聞いて余計やりたくなくなったんだけど!!


 その万が一って一体何を想定してるの!? 首以外はどうなってるの!? 聞きたくないし想像すらしたくないーー!!!


 絶対グロいから聞きたくない。けど、何がどーなら筋肉さん的には大丈夫な範疇なのか気になる気もする。ってかそれ絶対大丈夫じゃないやつでしょ。


 お、恐ろしい。筋肉さんの思考は恐ろしいよ!!


 この家に来る事が決まった時点で模擬戦程度は覚悟していたとはいえ、流石に首以外グチャっとされる覚悟まではしていない。そんな未来は……いやいや、ない。ないですから!


「……そんなに、イヤ?」


 思わず振った首を勘違いしたカレンちゃんが、今にも泣き出しそうな顔で呟く。


 だから泣きたいのはこっちなんだってば!!!


ソフィアの弱点。

憂い顔の似合う美少女に責められること。

……泣きそうな顔で迫られるも追加で。

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