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想像でも強いお母様


 災厄の魔物は私とは無関係です。私は悪い聖女ではありません。


 その論拠を示す為に、私は神様の存在を生贄にした。


 私が聖女になってるのだって生贄みたいなもんなんだから困った時に神の名を使うくらい問題ないよね? お互い様だよね?


 私が化け物をちょちょいと倒せちゃうとカレンちゃんに認識されるのも困るし、だからといって倒せないはずの化け物を倒したと王様に発表させるだけの裏があるとか思われるのはもっと困る。


 なのでみんな大好きな神様が世界を救ったというお話にしてしまおうと思ったのだ。


 あれ倒したのが神様だってのも実際間違ってはいないし、案外良い落とし所だと思うんだよね、うんうん。ソフィアちゃん冴えてるーう。


 そしてこの世界の人々は神の存在を疑わないので、話はとてもスムーズに進んだ。


「陛下の仰られた言葉にはそのような意味があったのか……。確かに神の御力でもなければ、あの異様な魔物は倒せまい」


「ええ。神に尽力頂けて本当に助かりました」


 ほほほ、と臆面もなく笑う。


 災厄の魔物を滅ぼしたのは神の仕業であるとすんなり受け入れてくれたガルフレッドさんとは反対に、カレンちゃんからはどこか疑うような視線を感じる気がするけど()えて気付かないふりをする。だってカレンちゃんは空気が読める良い子だからね!


 その事実を裏付けるように、神とはどういった存在なのかと興味を示すガルフレッドさんに対して私が「その件につきましては国王陛下から口止めをされていまして……」とカイルを言いくるめる時のように返事を選り好みしていたのに、その事実に気付いていただろうカレンちゃんが話の途中で口を挟むようなことは一切無かった。実によくできた娘さんである。


 ……その理想に近い娘として在り方を見ていて、ふと、ある考えが()ぎった。


「もし私がカレンちゃんみたいに大人しい子だったら、お母様もあんなに怒る必要なんてなくて、今よりも笑顔が多かったりしたのかな」と――。



 ――私があまり入る機会のない我が家の応接室。


 大切なお客様を迎えるその場所に、私はお母様の自慢の娘として同席を許されていて。


 向かいに座る貴族が私を褒めれば、それを受けたお母様は本当に嬉しそうな顔で「ええ、ソフィアは私の宝です」と優しく頭を撫でてくれて。


 ……その、愛情に溢れた触れ合いに、私も「お母様も私の宝物ですよ」なんて、返して。二人で、とても幸せそうに、微笑みあっ、て……、…………。



 ――ほんのちょっと、想像してみただけなのに。

 思いのほか強く、胸が痛んだ。


 けれど、その感傷も長続きはしない。


 想像上のお客さんが帰った直後、それまで「娘と過ごせる以上の幸せなんてない」とばかりに最高の笑顔を浮かべていたはずのお母様が胡散臭そうな顔で振り返り、「随分と大人しかったですが、今度は何を企んでいるのですか?」なんて、さもそれが確定事項のように告げてきたからだ。


 私の頭の中に住む鬼のお母様像があまりにも強すぎる。優しいお母様の存在を欠片ほども許しちゃくれない。妄想ですら優しさは幻想とかどんだけ私を叱りたいのお母様は。


 これはきっと現実のお母様が普段から私に厳しすぎるせいだね!

 お母様は海よりも深く反省して、私への態度を改めるといいと思うよ!


 具体的には私の機嫌を取るために下僕のようにお菓子を貢いで媚びまくり、「ソフィア様ごめんなさい、私が間違っておりました」と涙目で謝罪を――とまで想像したところで背筋が震えた。


 これあかん。死ぬほど復讐されるやつだ。

 夜油断して寝てる間に、国中から集めた虫の死骸で部屋中埋め尽くされたりとかしちゃうやつだきっと!!


 おおお恐ろしい! お母様ってばなんて恐ろしい事を!! そんなんされたら一生モノのトラウマになってしまう!


 流石お母様は格が違った。


 お母様も元々は悪意の存在しない、とても清らかな心の持ち主だったはずなのに。どうしてこんなにも歪んでしまったのか。

 人の悪意は大体私の影響って聞いてはいるけど、それでも元々の素質がないとここまで酷いことにはならないと思う。


 でもとても不本意なのだけど、それでもリンゼちゃんに言わせれば、お母様の汚染度合いは私なんかに比べたらまだまだ程遠いんだそうだよ。汚泥と水道水くらい違うんだって。喩えが酷過ぎると思いませんか。


 ……というか、なんで私は友達の家にまで来て、わざわざ嫌な記憶を思い起こしてるんだろうか。こんなの思い出してもいい事なんか一個もないのに。


 気分を切り替えるように頭を振ると、現実の筋肉が目に入った。


「……失礼した。神と対面したことのあるキミに対して、想像で神を語るのは失礼な事だったかな」


 とんでもない。むしろ話を聞いてない私の方が失礼な訳で。


 流石に申し訳ない気持ちになったので、しばらくの間、紳士な筋肉さんとカレンちゃんの三人で、楽しいお喋りに花を咲かせることにした。



 ああ、心が清められていくのを感じる……。


 友達って、いいよね!


「お父さんと仲良くていいなぁぁ〜」ってなってたハズなのに、何故かソフィアの意識には浮かばないソフィア父。

多分ソフィアの中では筋肉=強い=お母様の図式で繋がってる。

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