騎士隊長から見た災厄の魔物の話
聖女になったら楽な仕事で贅沢ぐらし。
そんな未来予想図を思い描いていたのに、これじゃなんだか話が違うよ!
カレンちゃんのお家でまたもや謎の感謝責めを受けそうな状況に陥った私は、とりあえず辛い現実からは目を背けて、私を聖女に仕立て上げたお母様に憤慨することにした。
そりゃ私だってね、怒られるよりは感謝される方がいいですよ。
いいことしたなーって良い気分にもなるし、助かった人もいるしで良いことづくめ。誰も損しない素晴らしい関係ですよ。
でもこの聖女関連はちょっと事情が違う。
感謝される理由も説明されれば一応、納得もするし、方向性も合ってるとは思うんだけど、それ以外の全てがズレてるというか……一言でいえば過剰なんだよね。感謝の量が。
「ありがと!」だったら「どいたま!」で終わるのに、硬っ苦しい顔で「本当に、本当に感謝している。受けた恩は一生をかけて――」とかやられるとお母様にポイしたくなる。
てかお母様にポイで思い出したんだけど、私が聖女になったらお仕事は部下に丸投げで大丈夫みたいな話なかったっけ? あったよね? ねえ、なんで部下がまだいないのに仕事だけ先にきてるの? これじゃ仕事ポーイって投げる先がないじゃないか!!
本来ならこの挨拶だって私の部下にさせるべき仕事なんじゃないか。そう思ったら、やっぱり諸悪の根源はお母様なのだという結論に落ち着いた。
私が苦労してるのはお母様のせい。どれもこれもお母様のせい!
……でも直接文句言うとまた物理で叱られそうだし、もしも「なら一切の干渉をやめます」とか言われたら今の比じゃない苦労を背負い込む羽目になりそうだ。
あれだね、お母様は私に手の届かないところで私の防波堤になっててくれるのが一番いいね。
私は手のかかる子供なんて絶対に作らないぞという決意を固めながら、そろそろ現実さんと向き合うことにした。
「もちろん私も向かった。部下からの報告を疑っているわけではなかったが、魔物への耐性は隊の中で一番だったからな。私がどの程度抵抗できるかで魔物の格が測れるかと思ったんだが……結果は部下と大差ないものだった。まるで近付くことすらできなかった……」
あ、まだ終わってなかった。部下のこと思い出したのこれ聞き流してたせいかな。
ガルフレッドさんは拳を握り、悔しさを噛み締めるように感情を震わせ熱く語る。
当時を思い出しているのだろう、身振りを交えた臨場感たっぷりな語り口に、カレンちゃんも前のめりなご様子。
まだまだ続きそうだったので、また聞き流しながら先に聞いた簡易版の要点を思い返してみた。
えっとね、ガルフレッドさんって白の騎士団の隊長さんらしくてね。災厄の魔物が初めて観測された時にガルフレッドさんの隊が威力偵察に出たんだって。だから災厄の魔物の強大さを知ってて、これは国に甚大な被害が及ぶのは免れないと覚悟してたんだけど、それを降って湧いた私がやっつけちゃったわけでさ。戸惑いもあるけど、国と、そこに住む大勢の国民。なにより隊と家族のみんなを守ってくれた事に感謝するって災厄の魔物の討伐者である私に頭を下げてたって訳。
でも当然、いくら国王様のお言葉とはいえ急遽【聖女】の二つ名を拝命しただけの子供、それも自分の娘と同い歳の子供があの恐ろしい化け物を討伐しただなんて言われてはいそうですかと簡単に受け入れられるわけが無い。私が災厄の魔物討伐パレードで死んでる間に、無理を言って現地へ確認に向かう部隊に同行していたそうだ。
だが、以前見た場所に黒い絶望はいなかった。どこにもいなかった。
山が。川が。谷が。平原が。
それらの地形だけが、ここに何かとてつもなく巨大な存在がいた痕跡を残しているのみだった。
――みたいな事をね、いま長々と語っているわけでね。
男の人ってこーゆー自分語り好きよね。
まあガルフレッドさんは話が上手いからこっちも聞くのが苦痛じゃない。というか、私の妄想シールドを貫通して現実の話の影響を及ぼすなんて中々の話し上手だ。お陰でカレンちゃんと二人、思いっきり聞き入ってしまった。
とはいえ話に出てくる明らかに胡散臭い子供ってのが私なのが悲しいところなんですけどね。
自分以外の視点の話って新鮮だけど、これは……。
うーん。知りたくはなかったけど、今こういう話があるんだって知れて良かったような微妙な気分。
私って傍から見たら、黒くてデカい化け物を使役して王様脅した危険人物に見えてたりしない? 大丈夫なのこれ?
国防の職に就く人が「国がヤバい」と判断した魔物を一人で倒した子供とか怪しすぎるでしょ。それ絶対裏で魔物と繋がってるよね。災厄の魔物を直接目にした人ならあれが人の力でどうにかできるモノじゃないって分かるもんね。
人の力で無理ならどうやって倒したのか。そんなものは決まっている。
「ここだけの話ですけど、アレ倒したのって実は神様なんですよ」
私はあっさり秘密を暴露した。
王様ごめんね?
白の騎士団は国防の要。
練度も随一の彼らが駆り出されて「アレは無理」と判断したその事実は、ソフィアの想像よりも余程重い。




