お兄様に慰めてもらおう
「ミランダ、あんまり笑わないであげて」
お姉様が微妙な立場ながらフォローしてくれる。
優しいなあ。
性格の悪い私とは大違いですね、へへっ。
「いいんです。私が悪いんですから。普段の行いのバチが当たっただけなんです……」
そう、私が悪い。
普段から人の恥ずかしがる様を見て喜ぶような悪辣な趣味をしていた、私が……およよ。
改めて字面にするとかなりクズな気がしてくるな、私。でもわざと恥ずかしがらせるわけでも……ちょっとしか無いし。うぅ、もうクズでいいや……。
紛うことなき自業自得。
でも分かっててもつらい。あ、癒しの担当のフェレットたち連れてくるの忘れてた……。
あかん。心折れちゃう。もう部屋引き篭ろうかな。
私を全肯定してくれるメリーとマリーが今は恋しい。
「お姉様……そんなに嫌がられていたとは知らず、申し訳ありませんでした……」
「ソフィア!? 止めて、頭を上げて!」
「ソフィア、元気出して。姉上だって、ソフィアに隠し通そうとしていたわけじゃないんだよ」
気の済むまで土下座かなと、頭を下げて膝をつきかけたところでお兄様に抱きすくめられた。
んむぅ、どうしよう。これじゃあ動けない。
顔も上げられないし。
お姉様の顔を見るのが怖い。
心配そうな声音。
普段なら、安心させるために笑顔を見せればそれで足りた。
だがそれさえも私の自己満足だったとしたら?
お姉様は優しいから、私の心配をしてくれているのは確かかもしれない。でも、私が笑顔を見せることで、『相談もされない頼りないお姉様』と思い込んだりはしなかっただろうか。
お姉様は頭だって良いのだ。
私が勝手にお姉様とお兄様の保護者気分でいるのとは違って、お姉様は長女で、その責任がある。
子は親を見て育つなんて言うけれど、姉兄がいれば当然その影響も受ける。
自身の少しだけ先を行く人生の先輩。
両親よりも身近で、共に時を過ごして。
弟妹が自分を見る目を、お姉様が気付かないわけがない。なら気遣わないわけがないんだ。
「ソフィアがお母様と何かをしていた時期があっただろう? お母様にあまり婚約者を会わせたくなかった姉上が呼べるのはその日くらいだったんだ」
自分が守っている。
そう思っていた相手に気遣われ、お姉様はどれほど傷ついただろう。
それに私は中身が子供じゃないから、基本的にお姉様よりも優秀だった。
もちろんそれは隠してきたつもりだけど、幼い頃からずっと一緒に居るんだ。とっくにバレてるだろう。
「本人が家に来ることもあるのに、本人不在の時にわざわざ紹介するのもおかしな話じゃないか。とは言っても、お母様が忙しい日はソフィアも忙しい。間が悪かっただけなんだよ。他意は無かったんだ」
「うぅ、ソフィア〜」
なんでこんな当たり前のことに気づかなかったんだろう。
子供の体に別の意識。
私はまごうことなく化物で、平穏なんて望むべくも無かったんだって……。
「こら、ソフィア」
「うに」
なんだなんだ!?
急にほっぺた引っ張るから乙女らしからぬ声が出ちゃったじゃないか!
「聞いてないね?」
「……」
……確かに聞いてなかったのは悪かったけど、私だって真剣に悩んでたのにこの扱いはひどいと思う。
いつまでほっぺた伸ばしてるんですか。
あんまり痛くないようにしてくれてるのは嬉しいけど、間抜け面になってるよねこれ? ミランダ様また笑い堪えてるから!
紳士なら乙女の名誉も守って!
「今ボク、真面目に慰めてたつもりなんだけど」
あれ、もしかして怒ってらっしゃる?
しかもお兄様の慰めとか、それ甘々なやつじゃないですか? 癒しが必要な今の私にぴったりなやつですよね!?
「ひゅみまひぇん聞いてまひぇんでした! もう一度、甘さ増量でお願いします!」
お兄様に抱きかかえられたままの締まらない格好で、途中までほっぺた引っ張られたまま叫ぶ私に、ミランダ様がまた楽しそうに笑い出し。
お兄様はため息をついた。
お姉様はポカンとしていた。




