伝説のアイテムだったらしい
偉い人の相手って疲れるよね。
たとえ相手が偉そうにしてなくたって疲れるよね。だって偉い人なんだもの。
私がどうして偉い人が苦手か、そのプロセスを説明しよう。
偉い人に頭を下げさせる→慣れたから平気。
偉い人に頭を下げさせるなんて、とお母様に怒られる→平気じゃない。
偉い人に頭を下げさせるなんて、との噂が貴族の奥様方に広まり、お母様に超絶怒られる→超絶平気じゃない。
まあこんな感じかな。
頭下げたい人は勝手に下げればいいと思うけど、それで私に被害が向くのがよろしくない。
あれよ、犯罪はバレなければ犯罪じゃないみたいな。ん、ちょっと違うかな? まあいいや。
とにかくそんな訳で、私はむやみやたらに敬ってくるタイプの権力者がちょっぴり苦手なのである。
偉い人は偉そうにしててくれた方が対応楽よね。
「このお詫びは必ずや何かの形で――」
「共同研究です。役割分担です。詫びが必要になるようなことではないんです。私が素材を提供し、ヘレナさんが研究を受け持つ。お互いに利のある対等な関係なんです」
でね。このご当主さま、ヘレナさんのお父さんね。
ヘレナさんが闇水晶持って引き篭った事をめっちゃ謝ってきたの。もう全面降伏って感じ。メリーの言いなりになってたどこぞの賢者さん並に言うこと聞きそうだったよ。無意味な服従ポーズとか損しかないからさせないけどね。
どうにも態度が過剰だなと思ってたら、実は闇水晶って超希少ってレベルじゃないんだって。いわゆる伝説級。
え? 聞いた事はあるけど実在するものだったの? って感じみたい。
存在を知ってはいても誰も実物は見た事がない系統のおとぎ話というか与太話というか。
お金をいくら積んでも手に入るものではなく、もし万が一手に入ったとしてもそれをおいそれと他人に譲渡するなど常識ではとても考えられない事なんだとか。
なのに私は、そのお金で買えない価値がある闇水晶をヘレナさんにぽーいと譲った。
それも二個も。対価なしで。
その慈悲深い御心、聖女と呼ぶことすら畏れ多い!
ソフィア様こそが聖女の中の聖女! 真の聖女!!
いや、その崇高なる存在がこの時代に誕生した事こそが真の奇跡! 略して奇跡の聖女!! って感じなんだとさ。ふーん。
だから私のことを本気で素晴らしい現人神様だと思ってて、敬い崇めるのはむしろ当然なんだってさ。へーぇほーぉふーん。
常識ない方で残念だったね。
まあ思い込み激しい人にもそろそろ慣れた感あるよね。
この人も案の定そんなタイプで、私がいくら「それは闇水晶の価値を知らなかったからで」とか言ったところで全部「お気遣い下さり本当にお優しい」だとか「私は全て分かっております」と聞く耳を持たない。もうそれでいいよってなるよね。
ってゆーか誰よ、私に闇水晶の常識伝え忘れたの。そこからこの事態に繋がったんだよ。
えーと、初めはたしかヘレナさんから欲しいけど手に入らない素材って事で聞いてー、それから各種商会に顔が利くアネットに手に入らないかって相談しに行ったら家が建てられるほど貴重な物だって聞いてー、そんな高いなら自分で取りに行こーって取れる場所の情報集めてもらったんだよね。
つまりはアネットが元凶か。
私が今苦労してるのは全て――と思ったけど、当時の状況をよくよく思い出してみれば、「もし私が売るなら――」という条件での値付けだった。物が無いので価値が計れないとも聞いて……聞いてたね。……うん、聞いてた。
………………じゃああれだ、お母様だ! お母様だって闇水晶のこと知ってた! 遮光処理だって昨日お母様にやってもらったばかりだし!!
だからこれは、私がヘレナさんにあげる為に闇水晶の遮光処理をお願いしたと知っていたにも関わらず、プレゼントする品の価値が高すぎる事を一切忠告しなかったお母様に問題があるっ! 全てはお母様の責任なのだっ!!
……って、闇水晶の価値知ってたら絶対止められてただろうなぁ。だってあのお母様だし。
私のお給料さえ私にくれない、ケチんぼお母様だし!
どうせ遮光処理の件だって他の何かで遮光処理のやり方だけ知ってたとか、闇水晶の特性に聞き覚えがあったとか、どーせそんなとこだろう。
闇水晶出した時の驚き方だって闇水晶の存在自体じゃなく、日に当たる場所で出した事に驚いてた感じだったしねー。はーあぁ。
誰か私に常識教えてくんないかな……。
半ば本気でそんなことを考えつつ、私は逃げるようにヘレナさんの家を去った。
その後、帰りの馬車の中で食べたお土産用のお菓子も相変わらず美味だったけど、シャルマさんと一緒に食べたお菓子には少しだけ劣る気がした。
……今日お兄様は何処行く日だっけ? 早く帰ってくるといいなあ。
闇水晶、既に二個ほど渡しちゃった問題。
「そんなに気にしなくても……まだ沢山持ってますから(二、三十個くらい)」
「そういう問題ではありません!(数少ない手持ちを……!)」
どこまでも噛み合わない二人。




