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予想外の行動


「いらっしゃいソフィアちゃん! 待ってたわよ!!」


 初めて訪れたヘレナさんのお屋敷。


 御者が開いてくれた扉を抜けて馬車から降りるとそこには、学院では見た事のない女性らしさを感じさせる服を身に纏いながら、何故だか仁王立ちをして私の事を待ち構えたヘレナさんの姿があった。


 その手には何かの書類も握られているが、間違ってもお出迎えに必要な装備とは思えない。


「ようこそおいで下さいました、ソフィア様。主共々、この日を心待ちにしておりました」


 そんなヘレナさんの後ろから、癒しの天使ことシャルマさんが滑るように現れ笑顔を咲かせる。


 うーむ。社交辞令と分かってはいても、シャルマさんのこの笑顔の破壊力は凄まじいね。こうも歓迎されてる雰囲気を出されたら心が自然と弾んじゃうよね!


 普段から美味しいお菓子で私の心を満たしてくれるシャルマさんの歓待が如何なるものかと、私もこの日を心待ちにしていたんだと伝わるように、心を込めて挨拶を返した。


「お招きありがとうございます。それと、ヘレナ様にはこちらの品を。魔法陣の完成、心よりお祝い申し上げます」


 貴族モードの私。通常運転のヘレナさんにシャルマさん。


 見慣れたようでいて見慣れないその光景に、自然と笑顔が溢れた。



 ――と、対応したのが間違いだったんだよねぇ……。


 後悔先に立たずとは言うけれど、招待を受けた側としてある程度の形式は抑えておく必要があったと思う。そこは間違ってはいないと断言出来る。


 間違いだったのは、出会い頭に渡したお土産の内容を聞かれるままにバラしてしまった事だ。


 食堂に招かれる最中、楽しげに闇水晶の有用性を語っていたヘレナさんが不意に「そういえば、さっきくれたのって何?」と尋ねてきたものだから、何も考えずに「闇水晶の追加です」と答えちゃったのがマズかった。


 その答えを聞いた途端、ヘレナさんだけではなくシャルマさんまでもが時の止まったように硬直し、いち早く再起動したヘレナさんは「ありがとう」と満面の笑みを浮かべた後、シャルマさんに食事の用意が出来ているか確認してくるよう命令を出した。


 その直後、彼女が逃走すると誰に想像できただろうか。


 現在ヘレナさんは使用人から奪い取った闇水晶を持ち込み、自分の研究室に立て籠っているらしい。


 闇水晶は光を当てると劣化する特性を持つ。その為、部屋に押し入ると客人である私が用意した超希少な素材をダメにしてしまう可能性がある。


 私のお土産を人質に取った見事な逃走劇だった。


「本当に、本当に申し訳ありません……っ!!」


「いえ、私は構いませんけど……」


 シャルマさんの猛烈な謝罪を受けながら私は考える。


 ヘレナさん、ちょっと喜びすぎではなかろーかと。


 喜んでくれるのは嬉しいのよ? 闇水晶の在庫なんてまだまだ沢山あるし、むしろ気軽に手渡せるよう加工をお母様に頼む方が大変なくらいなんだから。


 今回だって、闇水晶の加工を頼むついでにヘレナさんに招待されたことをお母様に伝えた時、また「勝手に招待を受けるなんて」と叱られかけたりもしたし。


 私しか招待されていないからーとか個人的なお礼を受けるだけだからーとか、正論で頑張って抵抗したけど、やっぱり怖いよね。だってお母様ってば、さりげなくちらちらと私のお尻を狙ってたんだもの!


 あれはきっと、味をしめた獣の目ですよ。

 リンゼちゃんに唆されて私のつるるんぷりんとした魅惑のお尻触感に気付いてしまったお母様は、また難癖を付けて私のお尻を触ろうと狙っているに違いないのだ! もしくはいよいよサドの才能が開花したとか! ああ怖い!


 そんな苦労をして入手した闇水晶(遮光処理済み)だから、思わず全てを投げ出しちゃうくらいに喜んでくれるのは、うん。嬉しくはあるんだ。驚きも同じくらいにあったけどね。


 だからまあ、問題があるとしたら……。


「自ら招いておきながら考えられないことですっ! 本当に、なんとお詫びしたらいいか……」


「本当に気にしてませんから……」


 シャルマさんが今まで見たことないくらいに気に病んじゃってる事かな。


 私もほら、超美味しいお菓子とかもらったら味見するまでは注意力散漫になったりとかしそうだし。ヘレナさんの態度は失礼ではあるんだろうけど、それを上回る喜びで感情が支配されてるんだろーなーってのが分かるからそんなに責める気にはなれないんだよね。


 どうしたものかなーと思案していると、鋭敏な私の嗅覚が何処からか漂う美味しそうな匂いを察知した。そういえば、本来ならこれから食事の予定だったか。


 それに気付けば方針は決まった。


「とりあえず食事をお願いしてもいいですか?」


 問題はとりあえず先送りにするのがソフィアちゃんクオリティー。

 目の前の欲望に忠実なだけと言えなくもないけど、それが人間らしいってことなんだと思うんだよね。


 だって味覚に最大の信頼が置けるシャルマさんのお料理なんだよ? 期待しない訳が無い!


 このご飯の為に朝食も軽めにしてきたんだからね!


超高級品をポンポン渡すソフィア。

客人を招いておきながら引き篭るヘレナ。

果たして常識外れなのはどちらでしょうか。

どっちもですね。

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