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二通の手紙


 怒りというものは持続しない。


 怒った場面を想起し、何度も繰り返して怒ることで「怒り続けている」と錯覚するだけに過ぎない。


 だから、怒りに捕らわれたくないならば、思い出さなければいいのだ。


 それを知るが故に、私は――未だ怒りを持続させ続けていた。


 ……だって、また怒られたくないんだもの。


 怒られない為に、怒り続ける。

 それってなんだか哲学的だね? なんて身のないことを考えながら、具体的な怒り方を模索する日々。


 ……まあ「日々」というか、あれからまだ二日しか経ってないんですけどね。


 あ、お尻の疼きは一晩寝たらだいぶ収まったんだよ! わっしょーい!



◇◇◇◇◇



 今日は朝の日課が長引いた。


 ほぼ毎日やってる早朝ランニング。

 身体的な事情により昨日サボった分も走り終えれば、頭はスッキリと気分爽快。嫌な事はぜーんぶ丸めてポイしちゃおう! といういつも通りの境地に至れたので、難しい問題はポポイと頭から放り捨てて、やりたい事に一直線なゴーイングマイウェイ路線を再度突っ走る事にしました。


 つまり! お母様への報復は決定事項!


 その(こころざ)しは忘れずに隙あらば狙っていく方針で、でもお兄様やお父様を巻き込むのは基本的に無しかなって。お母様からの再報復で地獄見そうだし。


 やられたら倍返しでやり返す人が二人揃ったらこうなるっていう良い見本だよね、私たち。


 争いは悲しみしか生まない。

 だから無益な争いは止めましょう? って言いながら、でも負けたままで終わるのヤダから次で終わりね、をお互いに延々と繰り返してる感じ。


 世の戦争ってこーやって起こるんだろうなーと理解しつつも止められないのは、それが人の本能に刻まれた(さが)ってやつなんだろーね。だから私は悪くないもーん。


 案外ヨルの「全人類強制善人化計画」もそう悪いものじゃないんじゃないかと思えてきた、そんな昼前。


 私の元に珍しい人からの手紙が届いた。

 それも、同時に二通もだ。


 一件目はカレンちゃん。

 休みに入ってから顔を合わせる機会が無いから遊びのお誘いかなと期待したんだけど、その内容は「お父さんと会って欲しいので三日後に我が家に遊びに来れませんか」というもの。


 ……うん。まずは一言、いいかな?


 隠すならちゃんと隠そう?


 遊びって書いてあるけど、これ絶対遊ぶ気ないでしょ。面識のない友達の親に急に会わせられるってどんな遊びだい。結婚ごっこかな?

 もしもカレンちゃんに「ソフィアなら遊びって書いとけば釣れるかなと思って」とか思われてるんだとしたら、私は一度カレンちゃんとオハナシをしなければならないかもしれない。


 ってゆーかあまりにも隠すのが雑なお誘いのせいで嫌な予感よりも気の抜ける感覚の方が上回っちゃったけど、本当はどんな用件なのか想像もつかなすぎて逆に気になる。

 カレンちゃんの特異体質を治した件にしては遅過ぎるけど、それ以外に思い当たる節もないという微妙な感じだ。


 まあ暇だから行くけど。


 社交関連は面倒くさいばかりで好きではなかったとはいえ、一切出なければこんなにも退屈になるんだと初めて知った。


 この分だと休み明けに友達と話が合わないのも覚悟しとかないといけないなー、なんてことを考えながら、二通目に手を伸ばした。


 二件目はヘレナさん。……に加えて、シャルマさんからのお便りだった。


 こちらの手紙はまず、厚みがおかしい。十枚近くある。

 一枚を除いた全てがヘレナさんからのもので、その全てが闇水晶に関すること。しかも二枚目からは紙面いっぱいに文字が詰め込まれた上に文字自体も小さくなっている。書いても書いても書き足りないというヘレナさんの熱意が如実に伝わってくるお手紙だった。


 内容はまあ、貴重な闇水晶を調達してくれてありがとうってのがちょろっとあって、後は闇水晶の研究がどんなに楽しかったかの感想ドバーッ、みたいな。


 現物が小さすぎて心ゆくまでの研究はできなかったけれど、転移の魔法陣への利用に問題はなく、実験段階では無事に物品の転移を確認できたとの事。そこからまた闇水晶の素晴らしさと可能性についてがズラ〜っと書き連ねられている。


 ……何度見返しても「転移陣の開発に成功した」としか読めないんだけど、それにしては扱いが軽くない? 完全に転移陣がおまけ扱いなんだけど。


 また私が何か勘違いしてるんだろーかと思いつつシャルマさんからの補足のお手紙を読めば、(ヘレナさん)がこんなに喜ぶ程の品を用意してくれて感謝の念に耐えない、と。ついては送られた品とは釣り合わないが、せめてもの感謝の気持ちとしてヘレナさんの屋敷で歓待したいとのお知らせだった。


 その日時がなんと、三日後。

 カレンちゃんからのお誘いともろ被りだった。


 ……もしもこのどちらかの手紙が三日前に届いてたら、私のお尻も無事だったかもしれないのになあ……なんて世のままならなさを嘆きつつ、私は二通の招待状を封筒に戻した。


 さてさて、これは……どちらのお誘いに招かれようかな?


泣かされても仕返しは絶対諦めないウーマン、ソフィアちゃん。

その反省の色の無さに絶望して、彼女の母はこの日、半日ほど寝込んでいたそうですよ。

その事実をソフィアは知らない。

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