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燃え上がるお尻


 悪意ってあるじゃん。抜き取られると喪神病になって意識がなくなっちゃうキケンなやつ。


 その悪意の代表的なものが怒りだって聞いた覚えがあるんだけど、あれって実は間違ってるんじゃないかと思うんだよね。


 ――じんじんと痛みを発するお尻からなんとか意識を逸らしながら、私はお母様への不満を募らせていた。


 そうでもしないと……今にも泣き出しそうで。


 ……ッ、大体さあ! 本当に度を越した怒りが喪神病の引き金になるんだったらお母様が喪神病になってない理由とかなくない? 椅子に座れなくなるまでお尻叩くとか怒り以外の感情できるわけなくないですかあ!? 暴力は純粋な悪意に分類して良いと思うんだけど、その辺女神様的にはどうなってるんだって今本気でヨルを問い詰めたい気分!


 ってゆーかこのおしおきと称したお尻叩きだって「ソフィアに効果的なお仕置きを存じませんか」ってお母様に聞かれたリンゼちゃんが発端なんだけど、その時点からしてもう色々と間違ってませんかねえ? リンゼちゃんが誰の世話係なのか忘れてるんじゃないのかとか、私の前世含む実年齢を知ってて何故その罰を選んだとか、そもそも聞いたにしたって実行に移さないでしょ普通はさあ!? お母様ってば空で悲鳴あげすぎて頭のネジどっかで落としてきたんじゃないの!!? 本気で信じらんないんだけど!!!


 怒りのあまり、手近にあった枕に向かって、ダンッ! と拳を叩きつけた。

 振動が僅か、患部に響く。まだまだ引きそうにない痛みに涙が出そうだ。


 ……つーか、この歳になってから人生初のお尻叩きとか、精神的にかなーりクるよ。マジ恥辱。


 本気で叩きすぎだとか想像よりも遥かに痛いだとか言いたいことはいくらでもあるけど、せめてパンツくらいはそのままでも良かったんじゃないかと思うんだけどそのへんどーよ。アイラさんもいる前で脱がせる意味とかなくない? お母様の前でお尻突き出すのだってそれなりに躊躇うレベルなのにね。


 もうまじ最悪。ムリ。ありえない。


 もー本気で怒ったかんね。お母様には絶対仕返しする。今日のことは一生忘れないし機会があったら必ず復讐する。そう、必ずだ!!


 ……そんな威勢のいい事を考えてたって、現状は自室のベッドでうつ伏せに寝そべってることしかできないんだけどね!


 何せ相手が悪すぎる。

 私の性格と魔法をあらかた知っているお母様とリンゼちゃんによるお仕置き計画とか、事前に知ってたって対処出来たかどうか怪しいもんだ。


 防御禁止、治癒禁止を言い渡された上でおしりペンペン百叩きをされて私の可憐なおしりはもう見るも無惨に腫れ上がってる。パンツは頑張って履いたけど、スカートも頑張って履いたけど、布団をのせるのは無理。座るのなんてもってのほかよ?


 もうね、ちょー痛い。何もしてなくてもヒリヒリする。


 部屋に戻ってからもおしりだけ突き出した無様な体勢が一番楽でね……もうずっとこの姿勢から動けないの。


 こんな姿勢を強いられているのはホントまじ屈辱の極みなんだけど、お母様が夕食前に勝手に治してないか確かめに来るっていうから治癒もできない。あの人ほんと悪魔だと思う。


 それにね、悪魔はお母様だけじゃないんだ。


 私は室内にいる、もう一人の小悪魔ちゃんに視線を向けた。


「リンゼちゃん。飲み物!」


「……構わないけれど、さっきも飲むのに苦労してたのに本当に欲しいの?」


「いいから!」


 このかわいい小悪魔ちゃんは、私の従者のくせして、私を裏切ったんだ!! しかもそれを悪いとも思ってない!!


 これはお仕置きが必要だよね!


 ってなるじゃん。普通。

 するじゃん。お仕置き。


 そしたらこの子どうしたと思う?


「大人しくしてなさい。まだ痛むんでしょう?」とか言いながら私のお尻突っついてきたんだよありえなくない!!?


 しかもその後、ご主人様が痛がる姿を見て「あら」とか言いながら更なる追撃加えてきたんだよこの裏切りメイドさんは!!! 人の弱みに付け込むとかどうかと思うの!!


 だからお仕事を増やしてメイドとしての自覚を促してあげるのはご主人様である私の責務なのだ。

 これは決して八つ当たりなどではない。正当な権利である。


 ……まあ、お尻が痛すぎて下手に動けないので、他にやることが無いってのはちょっとある。


 ちょっとだけね。


 意識した途端にまた疼き出した痛みに唸り声を上げていると、飲み物の準備を終えたリンゼちゃんが、再び私のお尻を狙っているのに気が付いた。心に恐怖が去来する。


 そんな弱い感情を隠して、私は低い声で威嚇した。


「……なに?」


「……そんなに痛むものなの?」


 ふざけんなって怒鳴り散らしたいくらいには痛いですけど?


 今の私の状態は、例え最愛のお兄様に何時間でもなでなでして貰える権利があったとしても、血涙を流しながら辞退するくらいには非常事態だ。そのくらい、どーにもならない。


 こんなになる原因を作ってくれたリンゼちゃんに、私は万感の想いを込めて答えた。


「リンゼちゃんもなってみれば分かるよ」


「……このスパンキングが、お兄様の手だったら……」

そう妄想して百叩きに耐えてたようです。

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[一言] 魂のシャウト回だwww
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