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今は猛烈に反省してます!!


 気球の様に高度を上げたり。


 飛行船の様に大空を回遊したり。


 風を操作して鳥の一団に近くを通過させてみたり、はたまた水を操作して綺麗な虹を描いてみたりして。


 初めての大空という、人生に一度きりの感動を余すことなく堪能してもらう為に、私は色々と頑張った。



 ――そして、今。


「きゃあああっ!!」


「…………ッ!!?」


「そ、ソフィアっ! 速っ、速いぃ!!」


 ソフィア航空が誇る空中ジェットコースターは、現在急転直下に落下している真っ最中だったりします。


 んー、やっぱり絶叫系は絶叫があってこそだよね☆


 いやね、私も本当はこんな動きをするつもりはなかったんだよ?

 でもアイラさんが意外とイケる人だったからぁ。主賓のお客様にご要望を受けたらしょーがないよね? ねえ?


 お母様によくよく言い聞かされてたから平穏無事な超低速航行をしてたってのに、「こんなにゆっくりしか動かせないの?」なんて挑戦的なことを言われたらねぇ。受けて立つしかないでしょうよ。


 急下降。急加速。

 Gのかかる急旋回に、風を切って進む疾走感。


 アイラさんがいい感じの悲鳴を上げるまではと様々な絶叫マシーンを再現していたら、私も再現率を高めるのに熱が入っちゃって。お陰様で急な動きに合わせて適切な風量をお客様の顔面にぶつけるのがやたら上手くなった実感がある。

 こーゆー技術が思わぬ場面で役に立ったりもするから、遊びといえどバカには出来ないと思う。


 なんて、夢中になりすぎてて。


 気づいた時にはお母様の悲鳴に大分泣きが入っていたので、そこで急遽大空のアドベンチャーは中断となりましたとさ。


 ソワレさんも地上に降りた時には足がガクガクしていた。今は少し反省している。


「はーっ! 楽しかったわね!」


 そんな面々の中でただ一人、空中でのアクロバティック機動中も常に笑顔だったアイラさんだけは実に満足した様子だった。


 ご満足いただけたようで何よりである。


「…………ソフィアぁ……」


「アイラさん! アイラさんが希望したように空を飛ぶ魔法ではあんな事も出来ます!! きっとアイラさんにとっても一生モノの思い出になったのではないかと!」


 うっひょぉう! 今背後になんかいた! 霊的ななにかが私に取り憑く寸前だった!


 助けてアイラお姉様!! と駆け寄り救助を求めれば、興奮冷めやらない様子のアイラさんは満面の笑みで応えてくれた。


「ええ! さいっこうに楽しい思い出になったわ! ありがとうねソフィアちゃん!」


「わぷ」


 そして感極まったアイラさんに抱き締められた。


 ……お、おおう。やっぱり純粋な感謝って苦手。照れた顔を隠せたのは不幸中の幸いかも。


 アイラさんの胸に押し潰されたままほっこり温まりかけていた私の感情は、しかし背後から聞こえてきた靴音を耳にして一瞬で冷めた。

 足音にまで対象を心から黙らせる効果を付与できるとか、お母様の無言力はバケモノか。


「良い思い出になったようで良かったわ。ところで姉さん。その子に約束の大切さを教え直さないといけないから、こちらに引き渡してくれないかしら?」


 声が、声がめっちゃ冷えてる。キンキンに凍てついていらっしゃる。


 あれ? おかしいな。さっき上空で私、ちゃんと気温の調整してたよねぇ??


 何故か「心胆寒からしめる」という言葉が脳裏に浮かんだ。

 アイラさんの身体から伝わる熱を感じるのに、寒くて寒くて仕方がない。


 振り返るのが怖いのに振り返らないのも怖いというどうにもできない状態に陥った私は、アイラさんの服をギュッと掴み、震えていることしか出来なかった。


 そんな私を安心させるようにアイラさんの抱擁が強まった……が、これは私の本能だろうか。

 アイラさんでは今のお母様に太刀打ちできないと心のどこかが囁いてくる。早く諦めた方がいいよって、余計な希望は持たない方が後々楽だよって心の声が聞こえる。せめて夢くらい見させて。


「そんなに怖い顔しないの! なによ、楽しかったじゃない。あの程度で怖がるなんて、アイリスもまだまだお子様ね」


「そういう話はしていないわ。私は今回の飛行に関して、あらかじめいくつかの条件を指定しておいたのよ。ソフィアはそれを破った。お仕置が必要でしょう?」


「う〜ん……。約束を破るのはいけないことよねぇ」


 トントン拍子で話は進む。が、その内容は看過できないものだった。


 は? はあ? はああ!!?

 あっ、アイラさんがもっと速いのがいいって言うからわざわざスピード上げたんじゃんか!? お母様だって「姉さんが望むのなら……」って空飛ぶ許可を出したんだし、これくらいは許容の範囲内でしょう!?


 流石にこれは文句を言うよっ!? って怒りをぶつけるつもりで振り返ったら、それ以上の怒りを湛えたお母様の冷ややかな眼光に射すくめられ、私の気勢は秒で鎮火させられた。こっわ。お母様こっわ!!


「ソフィア。何か言いたい事が?」


「ございません」


 ……本気(マジ)怒りじゃないですかこれ!!?



 お兄様、ソフィアはどこで間違えたのでしょうか。


 不肖の妹は、今日が命日となるやもしれません……よよよ。


ソフィア、調子に乗る。

「きゃあああっ!!(楽しい悲鳴)」

「きゃあああっ!!(怖がる悲鳴)」

ソフィア、更に調子に乗る。


その結果が今である。

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