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アイラさんのお願い


 というわけで、ソワレさんに連れられてアイラさんの部屋までやってきました。


 いやあ、まさかお母様の覗き見してる所を発見されるとは夢にも思わなかったね。

 ちゃんとバレないように人が来ないであろう二階の窓を選んだし、たとえ人が来たって上なんか見上げないだろうという慢心が失敗に繋がったね。


 だけどまだだいじょーぶ。ソワレさんはアイラさんには絶対だから。


 ……お母様に覗き見をバラされない為にも、ここでソワレさんの報告を受けるだろうアイラさんの好感度を稼いでおかねば!!



 なんて思惑はあってもやることは変わらない。


 ソワレさんに宣言した通り、アイラさんの臨時検診を丁寧に終わらせ、相変わらず経過は順調だという結果が出た。


 その際、何故だか「私の苦手なニンジンをアイリスが食べさせようとしてきて困ってるのよ〜」なんて相談も受けたけど、その原因を私は知っている。


 お母様は以前「ソフィアはなんでも食べられて偉いねぇ」と言っていたお姉様の言葉になにか思うところがあったらしく、自分はもちろん、お父様の食べ物の好き嫌いまでをも無くそうと奮闘した時期があったのだ。


 前世日本とは違い、貴族社会では「嫌いな食べ物がある=悪い」という風潮はなかったんだけど、あの頃はほら、まだ私もまだ幼かったし。お姉様とは一番多く話してたし。それでもって、お母様も子供に尊敬されたい年頃だったし。


 そうそう、あの時のお母様の理不尽な要求にも笑って応えるお父様を見て、それまで苦手だったお父様に対する意識がちょっぴり改善されたんだよね。

 感情表現は豊かすぎてうるさいし、大声出されると唾が飛ぶしとあまりいい印象のなかったお父様の初めて見た良いトコロって感じで。愛の力ってすごいなー、なんて思ってた記憶がある。


 まあそんな懐かしのエピソードを思い出させてくれたお礼として、アイラさんには「お母様は苦手な食べ物を我慢して食べられることが立派な大人だと思っているんですよ。かわいいですよね」と伝えておいた。アイラさんもすぐにニマニマと嬉しそうにし始めたので喜んでくれたのだと思う。


 と、そこで。


「どうぞ」


 話が一段落したのを見計らったソワレさんが飲み物を出してくれた。


 甘く広がるこの香り。私の好きなロイヤルミルクティーだ。


 一口飲めば紅茶の銘柄まで私の趣味に合わせてくれていることが分かる。その細やかな気遣いがなんとも嬉しい。


 鼻を抜ける豊かな香り。舌に感じるまろやかさとほど良い甘みに、気分がリラックスしていくのを感じる。


 ……リンゼちゃんのも美味しいけど、技術としてはソワレさんの方が上かも。


 素材は同じだろうに、私が自分で淹れた時とは比べ物にならない。

 プロってのはすごいなぁ、二人とも花まるあげちゃう。と感心していると、そのタイミングを見計らった様に声を掛けられた。


「それで、ソフィアちゃん。ソワレと一緒に来るなんて随分珍しいわよね。なにかあったの?」


 おっとぉ、好きなものを与えてリラックスしたタイミングを狙って攻めてくるなんて、アイラさんったら狡猾ぅ。


 でもこれ美味しいしー、本当にリラックスしちゃってるしー、と誰にでもなく言い訳をしながら、私はソワレさんと会うまでに至った経緯を話した。


 なお、嘘を排して矛盾のない話を継ぎ接ぎした結果、締めくくりの言葉はこうなった。


「お母様のお仕事する姿をこっそりと覗いてみたかったのです」


 当然、最大の理由が「暇つぶし」であることは伏せておくと決定していたので、次点の理由である「お母様を観察し隊」活動を押し出してアピールしてみた。気分は親の仕事に憧れる可愛い娘である。


 二人とも温かい眼差しで好意的だ。

 無事に説明を終えた私も同じく笑顔を浮かべていると、ソワレさんがアイラさんに何やら目配せをしているのに気がついた。それを受けてアイラさんが口を開く。


「ところでソフィアちゃん? もし良かったらなんだけど、一つお願いを聞いて貰えないかしら?」


 ほほう、アイラさんが私にお願いとな。


 私みたいに「相手の弱みを見つけたらその場で交換条件を出すのが親切だよね!」なんて思ってるわけではなさそうなアイラさんからのお願い。これは「黙っててあげる代わりに言う事聞いてね?」という暗黙の脅しではなく、純粋に言葉通りの「お願い」なんだろう。


「はい、なんでしょうか?」


 最近のアイラさんは割と気安くて仲良くなれた実感がある。とても嬉しい。


 この機会にもっと仲良くなれたらいいなー。


 そう思ってニコニコしていると、アイラさんが露骨にソワソワしだした。それを見たソワレさんまでソワソワしている。なんだこれかわいい。私もソワソワするべきだろうか。うずうず。


「その……ソフィアちゃんの空を飛べるようになる魔法って、他人にもできる……のよね? 私たちにもやってもらえない?」


 あいきゃんふらーい。うぃーきゃんふらーい!

 ソワソワの原因にすごく納得した。


 だから私は、力強く了承した!


「おまかせあれ!」と!!


ソフィアとアイラ。

二人の共通の話題であるアイリス。


……この家の勢力図が塗り変わる時が、近づいているのかもしれない。

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