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暇つぶしを目撃されたソフィアの対応


 暇だ。


 暇である。


 暇すぎてお母様用の執務室を外から覗くなんて非常にリスキーな遊びを決行してしまうくらいには暇だ。


 ベランダもない二階の窓から覗いているのがバレたらどんなお叱りを受けるのか怖くて仕方がない。


 それと同時に、予想外の場所に現れた私に対してお母様が「ひゃあっ!」なんて可愛らしい声を上げたりしてくれないかなー、なんて期待もちょこっとだけある。が、見つかって怒られるのも嫌なのでお母様の動きは魔力でバッチリ観察中。油断さえなければ振り向こうとする動きすら気付いてから対応できる。


 バレる心配がないってのはいまいち面白みに欠けるんだけどね、本当にバレたらかなーり怒られそうだからね。


 と、ちょうどそんなことを考えていた時でした。


「……え?」


 魔法でふわふわ、足場も何も無い二階の窓近くの壁にぴたりと張り付きこっそりと中を覗き見ていた私の耳に、女の人の驚いたような声が聞こえた。下方、庭とも呼べない壁と木々の間からだ。


 え? さっきのってフラグでした?


 と背筋を襲う寒気に震えながら声がした方向を見下ろせば、そこには「信じられないものを見た」と言わんばかりの驚愕に目を瞬かせているソワレさんがいた。


 ……今日は珍しくアイラさんと一緒じゃないんだね。


 お母様には気付かれていないことをもう一度だけ確認した後、私はソワレさんを刺激しないようにゆっくりと地に降り立ち、優雅に挨拶を始めた。


「おはようございますソワレさん」


「……おはようございます」


 うわーん警戒されてるぅー! 昨日までソワレさんからの好感度MAXだったのになんでぇー!


 やっぱり降りる時に天使風の輪っかとか純白の翼とか天使の梯子とかそれ系のエフェクトを使った方が良かっただろうか。でも演出過剰っていうのも自己顕示欲の強い女みたいで嫌だし、何よりさっきはソワレさんがここに現れた理由について考えるのに必死で、そんなことを思いつく心の余裕がなかった。


 つまり、お母様に私の行動をバラされないためには、ここからが大事!!


「アイラさんのお加減は如何ですか?」


「……お陰様で順調に回復しております」


 よし、よし! いい感じ! グッドコミュニケーションの文字が見えたよ!


 このまま失われた信頼を取り戻そう!


「それは良かったです。きっとソワレさんの献身の賜物でしょうね。あんなに甲斐甲斐しく世話をされたのなら『早く元気な姿を見せなければ』と思うでしょうから」


「恐れ入ります」


 ふふふ。感じる、感じるぞぅ。


 警戒で固く閉められたバリケードの隙間から「あれ、これっていつものソフィアちゃん? 私、警戒しなくてもいいのかな?」と顔を覗かせる心のソワレさんが見えてるぞう!


 怖くないよー。優しくて可愛いいつものソフィアですよー。と心の中で唱えつつ。

 私はパーフェクトコミュニケーションを取りにいった。


「そうだ、これからアイラさんの検診に行きましょうか。最近は問題なく活動できるようになっていますけど、何年も寝込んでいた影響というのはどこでどのように出るか分からないでしょう?」


「ありがとうございます。とても助かります」


 ソワレさんは深く頭を下げ、私に強い感謝を示した。


 ……ふっ。まあ、私にかかればざっとこんなもんよ。


 というかソワレさんってアイラさん第一主義だからね。

 アイラさんの為に。アイラさんを心配して。って感情を前面に出していけば余裕で信頼を勝ち取れるのです。


 もっと自分を大事にして欲しいんだけどってアイラさんが愚痴ってたけど、そう話す顔はとても嬉しそうだったのを覚えている。とてもお似合いの二人だと思う。


 で、このままアイラさん談義に花を咲かせていれば、自然と私の醜態への驚きは意識から消えるでしょ? その時になってさらりと「あ、さっきのはみんなには黙っててね。ホント大したことじゃないんだけど」と、あくまでもさらりとお願いしておく。そして追加の質問を許さぬアイラさん話を山と積み上げ れば、後になって残るのは大分薄れた私への懸念と、機会があったのに聞きそびれた僅かな自責のみとなる。


 つまりこれは、「大したことじゃないと言っていたし、問題ないわよね……?」と自己を正当化させて、全てを無かったことにしてうやむやにしちゃう作戦なのだ。


 ふふ……急な事態にも難なく対応出来ちゃう自分の才能が恐ろしい……! こんなに完璧な作戦を立てられるなら、悪意が強いってのも悪くないね!


 心の内で自画自賛して、想像の中ではもう完璧に事態を収拾せしめた。


 ……でもね。


 私、知ってるんだ。

 現実はそんなに優しくないんだって。


「ですが、その……そちらの用事は宜しいのですか? 私が邪魔をしてしまった様に見受けられたのですが……」


 案の定、純粋なソワレさんが純粋な疑問を口にする。


 実はあの作戦にはおっきな穴があってさ。

 私がソワレさんを言いくるめること前提なんだよね。


 できるよ? できるけどさ。


 見てよソワレさんの申し訳なさそうな顔。



 嘘をつくのって、勇気がいるよね。


「ソフィアちゃんって空を飛べるのよ!」と聞いてはいても、実際に目の前でやられるとは思っていなかったソワレさんの対応がこちらになります。

内心は割と好奇心の嵐。

元々ソフィアには好意的ですしね。

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