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元半身の熱量


 表のアネットとのおしゃべりを堪能した後は、裏のアネットさんとの真面目な話だ。


 とはいっても、私が真面目なトーンが苦手なので、自然と話は脱線しがちになる。


 え? そもそも脱線しかしてなかった?


 そういう見方もあるかもね!



「お兄様のどこが好き?」


「……ソフィアの事を話してる時の、優しげな表情、とか」


 笑顔で「好き」を連呼したのと同じ顔で、同じ言葉を口に出すのすら恥ずかしがるアネットin先生さん。


 うっすらと色付いたほっぺたとか、てれてれもじもじとしてる様子とか。とてもかわゆいと思います。


 恋する乙女の反応をニヨニヨと楽しく眺めさせてもらっていたんだけど、不意にその動きが止まった。そして俯いていた顔が見えるようになると、その表情から恥ずかしげな色が失われているのに気付く。


「待って下さい。この話、本当に必要ですか?」


 ……そこに気付いてしまったか。


 必要か必要ないかで言えば必要なんだけど、その説明をするのにはとても長い時間がかかるだろうね。


 私は質問への明確な回答を避けて、逆に質問で返してみることにした。


「あれ、敬語に戻しちゃうの? さっきまで『ソフィア』って親しげに呼んでくれてたのに」


「そんな畏れ多いことっ」


 うーん、相変わらずだなあ。むしろ私の方が畏れ多いんだけど……。


 私が彼女の生みの親なのは確かだし、それを理由に敬って当然という理論もまあ分からなくはないんだけど、彼女に引け目のある私としては騙して隷属させてるみたいでかなり居心地が悪い。


 ……そう何度も言ってるんだけどなあ。


 私の表情から不満を見て取ったのか、困った顔をしながら、それでも絶対に譲る気は無いのだと強く感じさせる声で、アネットは私に断らせない言葉を選ぶ。


「私にとってソフィア様はロランド様よりも上位ですから。ソフィア様にとってのお兄様以上の存在と言えば、私の気持ちも分かってはもらえませんか?」


「むむう」


 その言い方はずるいよう。


 私にとってのお兄様は世界の全てで何物にも代えられない唯一無二の存在だから、それ以上ってのはそもそも存在しないんだけど。

 でも少なくとも、私にとってのお兄様レベルで大切に思われてるって事はよーく理解した。


 ……したけど、私にそれほどの価値はないと思う。という私の意見も、少しは聞いてくれないかなあ……。


 もう聞く前から答えが分かるけど、一応、念の為、万が一ってこともあるかもしれないので聞いてみた。


「慕ってくれるのは嬉しいんだよ? でもその気持ちって、鳥のヒナが生まれて初めて見た生き物を親と認識しちゃうよーな現象に近かってりするんじゃないかなーって……思ったりして……」


 ……思わない? 思わないかな。でも懐き方と懐き度はかなーり似てると思うの。


 一縷の望みを託してちらりと見れば、アネットさんは何故だか嬉しそうな顔をしていた。


「刷り込みですね。知っています。本当にソフィア様の言うように私のこの気持ちが刷り込みによるものだとしたなら、それはとても幸運な事だったと思います。要は一目惚れという事ですよね? 初めて見た人がソフィア様で、尊敬できる人がソフィア様で、そして知恵と知識を得た今でも客観的な事実としてソフィア様以上の人物を私は知りません。刷り込みによる好意が無かったとしても、私はきっとソフィア様にお仕えしていたでしょう。それはとても運命的だとは思いませんか? 初めて好きになった人が、好きになって良かったと思える人物であった。とても幸福な事だとは思いませんか? ソフィア様もロランド様への恋心を自覚された時分には――」


「おーけーわかったもういい! よーくわかったから! その辺にしとこう! ね!? 話し方も変えなくていいから!」


「理解して貰えて嬉しいです」


 ヤバい。熱量がヤバい。すごい。流石は私の元半身って感じ。


 私にとってのお兄様以上というだけあって、私が「お兄様すきすき!」ってなってる時と似たような熱を感じた。それも身のうちの熱が勝手に口から溢れ出た様な勢いまで全く同じ。


 私の子供を自称するだけの事はある。

 とんでもない説得力だ……!


「えーと、それで、なんだっけ……ああそうそう。お兄様との結婚には何の問題もないよって事。あの時はつい不機嫌になっちゃったけど、多分もうお兄様とアネットが並んで歩いてても嫉妬しない。大丈夫だと思う。デートでも朝帰りでも好きにしていいよ!」


 私もお兄様について語ってる時はちょっと友人に引かれてたんじゃ……という不安を吹き飛ばすため、ことさらに明るくデートの提案までしてみた。その先に言及したのはサービスである。


 決して何回かして慣れた頃には私も混ぜて……なんて事を考えていた訳では無い。断じてない。

 ないったらないっていうのに、まさかの返事がきて私の心臓は竦みあがった。


「はい。ソフィア様の望むとおりに」


 アネットに向けていた笑顔が凍る。



 ……私の思考、少しならトレースできるとか言ってたっけ?


 ……偶然だよね?


ソフィアの思考をトレースだって?

ソフィアとの出会いを運命的と評する一連の流れは確かにソフィアがお兄様語りをしてる時とそっくりだったね。

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