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お兄様のプロ


 私は死んだ。


『こっちに来たら、もしかしたらソフィアに会えるんじゃないかと思ってね』


 お兄様に、ストレートに撃ち抜かれた。


『こっちに来たら、もしかしたらソフィアに会えるんじゃないかと思ってね』


 ――鼓膜をぶち抜いてきた弾丸が、心の臓を破壊せしめた!!


『こっちに来たら、もしかしたらソフィアに会えるんじゃないかと思ってね』


 あああああああ!!!!


 顔が!! 顔が熱いよおおぉぉおああアア!!!



◇◇◇◇◇



 脈拍。

 暴れ狂っております。


 体温。

 煮え(たぎ)っております。


 思考。

 こんがらがっております。


 ――お兄様。


「あはは。顔、真っ赤だ」


 ――無邪気で楽しげな微笑みを浮かべておられますうぅぅぅぅぅぅ!!!


 なにこれ尊い。神か。お兄様こそ神か。今の神降ろしてお兄様を神に据えようそうしよう。


 もうね、心臓バクバク。お兄様から目が離せない。顔が動かせない。

 何あの悪戯な笑みからの純真な笑顔は。死ぬわ。あんなの見ちゃったらお兄様教の教徒全員死ぬわ。そしてお兄様の素晴らしさを全世界に布教する為に蘇るわ。死ぬ度に蘇るわ。


 はあー尊い。

 眼球にお兄様の姿を映させて頂いた栄誉を光栄に思うほど尊い。


 この世界に生まれてよかった。お兄様の妹として生まれてよかった。私の生には意味があったと自信を持って言える。私はお兄様の笑顔を見るために生まれてきたんだ。


 お兄様さいっこぉう!!


「……お兄様が恥ずかしい事を言うからです」


 だが、私はお兄様の妹。

 この世に生を受けてからもっとも長い時間、お兄様の傍で生活を共にしてきた妹。


 耐性のない女性なら一撃で轟沈確実なパーフェクトスマイルを真正面から受けてなお立ち続け、その耽美なお顔もお茶目な行いも丸ごと全てまるっと全部を目に焼きつける権利を決して自ら放棄はしない、歴戦を戦い抜いた熟練熟達の愛の戦士(ラブ・ソルジャー)なのだ。


 お兄様に一番近しい女性として、無様な姿は見せられない。


 たとえ赤く染まった顔を揶揄されようと、その状況を利用して咄嗟にぷいっとツンデレ風味な反応を返すくらいのアドリブができなくては、至高であるお兄様の妹にしてお兄様ファンクラブ名誉会長という立場を名乗れない。


 私はいかにも「お兄様にからかわれて、妹は怒っています!」という様な雰囲気を出しながら、ちらちらとお兄様の顔を横目で窺う。


 さあ、来るがいいお兄様。


 私はそんじょそこらの女じゃあない。

 お兄様の愛を取り零すことなく受け止める為、自慢の優秀な頭脳をいかんなく駆使して対お兄様用シミュレーションを毎晩のように繰り返している対お兄様のエキスパートだ。


 いわばお兄様のプロ。お兄様専用妹。

 お兄様に激しくぶつかられる事を想定して毎日準備している妹とか、お兄様を受け入れる為に心身を解きほぐしている献身系妹等々、どーぞお好きなように呼んで欲しいっ!


「お兄様にされたい事百選」や「お兄様胸きゅんセリフ集」。あとあと、「お兄様のイケ顔ベスト100」や「お兄様が映える極上シチュエーション」といったありとあらゆるお兄様を想像して組み合わせて妄想の中で桃色風味な訓練を日々続けている私には、ちょっとやそっとのトキメキバズーカでは効果が薄いと知るがいい! なのでできたら極上品をお願いします!!


 まだかなまだかな、現実のお兄様によるトキメキの破城槌はまだかな〜とちらちらちらりんしていた私の目に、しかし信じられない光景が映った。


「キューイ♪」


「ん、はは。くすぐったいよ」


 エッテとイチャついていらっしゃるるる!!!


 しかもエッテ、ちょっ、お兄様のほっぺたにキス降らせすぎじゃないですかね!? いくらペットとはいえちょっと、あっ、は、激しすぎませんか!!?


 あわわわはわわとパニックになった私に気付いたのか、お兄様の視線が私に向いた。


 そして。


「ん? どうしたんだいソフィア。もしかして、羨ましいのかい?」


 はわわわわわわわわわ!!!


 羨ましい!? 羨ましいかですって!!?

 そりゃもちろん羨ましいに決まってますよ私だってお兄様のほっぺたにちゅっちゅって数え切れないほどのキスを落としてそれでお兄様に「ソフィアは本当に甘えたがりだね」とか言われながら頭を撫でてもらったりお返しのキスをほっぺたやおでこやそれからあとそのくくく唇にとかそれであのそのはわわわわ!!


 はっ、ハレンチ禁止ぃ!!


 あまりにあまりな質問に、私は声を大にして言い放った。


「羨ましいです!!」


 ぎゃーっ! 違うっ、間違った!!


 本当は「エッテおいで!」とか「やりすぎですっ!」的なことを言おうとしてその、あの、あわわ、あわ……。


 ちーん。


 ……かわいい妹のソフィアちゃんも、ここまでかもしれない……。


 絶望的な気分で沙汰を待っていると、足首にこそばゆい感触が。


「……エッテ?」


「キュッ」


 足元にエッテがいる。


 ん? と思っている首を傾げていると、お兄様の声がした。


「エッテはソフィアのペットだからね。僕に負けないくらい仲良くするといいよ」


 ……ん? 仲良く?


 …………んんん??


(ここで焦らすと〜ご主人様のかわいい姿が見られますよ〜?)

(それは見るしかないね)


ソフィアは裏切りを受けていた!!!

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