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お兄様と逢うたび禁忌が生まれる


 結論。


 メリーもマリーも、異常なし!


 これまで通り家の外では普通のぬいぐるみとして過ごすのなら、特に問題は無いだろうということになった。


 本当にそれでいいのかとか、実は面倒くさくなって対処を諦めただけなんじゃ……、とか思っても口に出してはいけない。


 この件は解決したのだ。

 それでみんなが幸せになるのだから、何も問題は無いのだ。


 ……既に対処不可能なレベルだったとかじゃ、ないよね?


 もしくはあの、いざ問題が起こったら全部私に放り投げて、魔法で何とかさせればオールオッケー♪ とか考えての放置だったりは……しないよね?


 一抹の不安を残しながらも、お母様との話し合いは終了した。



◇◇◇◇◇



 二、三回くらいは脱線してトンデモぬいぐるみの誕生についてのお説教をされる可能性も考慮してたけど、嬉しいことにすんなりと話し合いを終えることが出来たので、時間がたっぷりと余った。


 さて今日は何をしようか。

 と考えたところで、先日の不始末を放置しっぱなしだったことに気がついたので、思い立ったが吉日。

 早速お詫びに行くことにした。


 あれよあれ、お兄様との婚約が目に見える形でお披露目されて幸せそーぉうにしてたアネットへのお詫びですよ。


 今でもあの時の光景を思い出すと胸の中で言い知れぬマグマがぐらぐらと煮え立ってるのを感じるんだけど、でもこの婚約は認める他ない。だってアネット以外がお兄様の相手とかもっと嫌だし。


 手土産はもちろんシュークリーム。

 別に何持っていったっていいんだけど、シュークリームを食べてる時のアネットの「あ、クリーム零れるっ! あっあっ、反対側から出たー! ……食べるの大変だけど、やっぱりこれ、美味しいんだよねぇ〜〜〜」と言わんばかりの豊かな表情が好きなので。


 しかし、贈り物用に可愛く盛り付けもしてもらって、準備は万端いざ出発! というという段になったところで、偶然にもお兄様とエンカウントした。


 何たる幸運、何たる僥倖。

 私には運命の歯車が回り出す音が聞こえたね。


 エッテを肩に乗せて颯爽と歩く姿がなんとも絵になるお兄様が、陽の光を浴びてキラッキラと輝きを振りまきながら歩いて来る。


 たとえ今、お兄様の前世が天使だと誰かに言われたとしても、私は疑うことは無いだろう。


 そのくらい神秘的な光景だった。

 いつもの廊下が、お兄様が現れただけで天界になった。


 流石はお兄様(さすおに)


「やあ、ソフィア」


「ごきげんよう、お兄様」


 淑やかに挨拶。


 私は一瞬で高貴なご令嬢になった。


「まさかお兄様に、調理場に出入りする所を見られてしまうなんて……。恥ずかしいので、お母様には内緒にしておいて下さいね?」


 だが高貴なご令嬢は調理場に出入りして料理人にあれこれと直接指示を出したりなんかしない。


 私は化けの皮が剥がれる前に先手を取って、照れくさそうに頬を染めてみた。


 上目遣いでうりゅりゅんっ!


「恥ずかしがることはないと思うけど……ソフィアがそう言うなら分かったよ」


 優しいお兄様は当然のように私の要望を受け入れてくれる。


 目を細めて浮かべる笑みは私の心臓をキュンとすくみあがらせる効果を発揮し、一瞬息をするのすら忘れてしまう。


 そんなお兄様の胸きゅん笑顔をお兄様の肩の上という超至近距離で見ていたエッテも、なんだかうっとりとしているような雰囲気を漂わせているというか、ぽーっと背景に花が浮かんで見える様な……気のせいかな。


 どうでもいいけどその位置羨ましすぎるんで代わりませんか? せめてその位置からの写真だけでも、と叶わぬ願いを想像してた私に、唐突に天の声が降ってきた。「代わりたければ、入れ替わっちゃえばいいじゃない。エッテになって堪能しちゃえばいいじゃない」との誘惑の声が。


 変身、魔法……ッ!!


 新たな魔法の着想を得た瞬間だった。


 物事の発展はエロと軍事からっていうけど、あれ、真実だと思う。


 もちろん悪用なんてしないよ!!

 もし本当に変身魔法が使えるようになっちゃったら、アネットに変身してお兄様との初夜も夢じゃない……? とか考えてないよ!! そこまでの勇気も覚悟もないよ!


 ただこれから毎晩、ちょっと妄想に新たなシチュエーションが加わっちゃうだけだから!!!


 本物のお兄様を前にして妄想のお兄様をひん剥き始めた思考を止めるべく、私は現実のお兄様と会話を続けた。


「ありがとうございます。それにしても、お兄様がこちらの方へ来るのは珍しいですよね? 何か探し物ですか?」


 それは例えば、精を付ける料理であるとか。って違う。


 私はかわいいソフィアちゃん。

 お兄様の前で汚れた私なんかいらない。出てくんな。夜中の出番までゴーアウェイ!!


「うーん。探し物といえば、探し物かも」


 私が心の闇と対峙している最中にも、小首を傾げるお兄様の仕草に見とれてしまう。


 やっぱお兄様、いいわぁ。


 ぼうっと見上げる私に向かい、お兄様は悪戯な笑みを浮かべた。


「こっちに来たら、もしかしたらソフィアに会えるんじゃないかと思ってね」


人の顔を見てエロと言い切るその愛情……。

何処まで罪を重ねるのか……。

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