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まだまだ進化しそうなぬいぐるみ


 メリーとマリーの進化が(いちじる)しい。


 というわけで、お母様と一緒に現在のメリー&マリーの性能を書き出してみることにした。


「思考能力は学院に入学できる子供程度と考えて問題無いでしょう。学習能力に至っては極めて優秀。読み書き計算も問題はなく、教えれば教えただけすぐに出来るようになりますし、論理的な思考も可能。魔法陣の基礎を教えただけで実用的な陣もすぐに応用して描けるようになりましたから、魔法陣の才能に限って言えばソフィアよりもあるかもしれません」


「何を教えているんですか……」


 ぬいぐるみに、勉強で負けただと……。


 いや、違う。そうじゃない。

 コンピューターだって人間よりも勉強が得意だ。つまりはそーゆーアレだ。頭がめっちゃ良くて念話のできるぬいぐるみとかカンニングに抜群の性能っていうかウチの子たち優秀すぎィ!!


 私の魔法陣の教師であるお母様に「才能負けてる」とか言われてちょっとパニクった。

 学園で一番だった私が負けるとか人類がぬいぐるみに敗北する日も近そう。っていうか既に某賢者が……んんっ。


 お母様からの情報を噛み締めるのに時間がかかりそうだったので、ひとまず私の知ってるメリーたちの情報も先にお母様に開示することにした。


「私が知っているのは魔法関連でしょうか。言葉を介さず意思を伝える《念話》。言葉を発する《発声》。自身の身体を動かしたり、近くの物体を動かすのにも使える《念動》。同じく《浮遊》。あとは他者の心の声を聞ける《読心》ですね。少なくともこれだけの魔法は使えるはずです」


 メリーとマリーが使ってるのを見た事のある魔法を全て羅列してみたが、こうして並べてみると思ってたより凶悪ってわけでもなく、必要最小限の能力って感じがしなくもない。


 意思の宿ったぬいぐるみならおしゃべり機能は必須だし、意識があるのに動けないのは可哀想だ。

 浮遊はサイズ的な問題でひとりでベッドに戻れるようにとの配慮からだし、念動があれば物を持つことができる。トランプの相手になるなら使えなくちゃならない魔法だ。


 私がつらつらとオリジナルの魔法の名前を並べ立てるのを聞いたお母様は、額に手をやり、とても大きな溜め息を吐いた。


「……それだけあって、少なくとも、ですか」


 うん、そーなのよね。


 読心の魔法とか教えてないのにいつの間にか使えるようになってたからね。これからも何処かで勝手に魔法を覚えてくる可能性もないとは言いきれない。

 というか、今の時点で他にも何か使えたって私は驚かない。初級魔法くらいなら普通に使えそうじゃない?


 読心の魔法に関してはきっと、意思が宿って私の秘密の相談役という立場を失ったメリーたちが、自己の存在意義を取り戻す為に奇跡を起こした的な……なんて、ちょっと無理があるか。……やっぱないか。


 想像だけならいくらでもできる。

「読心って簡単な割に便利なんだよねー」とか「読心使いまくったら美味しいお菓子のお店ランキングが簡単に出来るかも!」とかとか。気の緩んだ自室で何も考えないままに発せられた無責任な独り言を、二人なりに解釈しちゃったのかなーって。使えたら私の役に立つとか思って頑張ってくれちゃったのかなー……みたいな?


 実際役に立っちゃってるから困る。


 もしメリーたちの読心の罪まで私が被ることになったら……なんて考えたらちょっぴり不安だけど、ペットならともかく、まさかおいたをしたぬいぐるみの所有者にまで責任取らせる法律はないでしょ。それに読心の魔法だって使った証拠なんか残らないしね!


 最悪の想定を丁寧にぷちぷち潰してたら、私と同じように不安そうな顔をしていたお母様がいつの間にか復活してた。


「……少なくとも、というのも問題ですが……。……ちなみに念動と浮遊というのはどう違うのですか?」


「違いですか」


 深刻そうな顔してるけど、お母様の娘である私にはその顔の裏に隠された真意が分かるよ。

 その質問、単なる知的好奇心だね?


 まあ別に隠すほどの事でもない。


「念動は……触れずに動かします。浮遊は、浮きます」


「それは分かります」


 あ、やっぱり? 言いながら私もそのまんま過ぎるかなーって思ったんだ。


 うーむむむと唸りながら、私は分かりやすい説明を捻り出す。


「念動は……目的の物に、こう、ぶすっ! と針金を刺して直接動かす感じで……。浮遊の方は、こう、広げた布に乗せて持ち上げて、傾きで移動させる、みたいな……?」


 こう、こう! とジェスチャー特盛りで頑張ってみたけど、我ながら酷い。


 頭脳が優秀なので難しい単語も覚えてはいるんだけど、適切な表現として扱う能力は頭の出来とは関係ないものらしい。

 今、切実に語彙力が欲しい。


 それでも雰囲気程度は伝わったっぽい。


「……なんとなくは理解しました」


 やめて。残念な子を見るような目で見ないで。説明下手なの自覚してるから。



 叱られるのは減ったけど、それでもやっぱりお母様からの視線は苦手という意識の抜けない私だった。


生後十年未満で明らかに人間より秀でたぬいぐるみたち。


百年後には、この国がぬいぐるみに支配されたぬいぐるみ王国になっている未来もあるかもしれない……。(ありません)

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