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聖女の煩悶


 悪意は、目には見えない。

 だからこそ注意しなくてはならない。


 気付かぬうちに許容量を超えた悪意が、取り返しのつかない事態を引き起こす前に――。



「――的なことを考えてました」


「そう。何も無くて良かったわね」


 私の心配、どうやら杞憂だったようです。


 杞憂ならそれが一番ではあるんだけどさ。

 どーにも納得いかないってゆーか、腑に落ちないってゆーか。


 私は未だに悪意というものについての理解が足りないらしい。


 リンゼちゃんがあまりにも淡々と説明するので、また何か「聞かれなかったから」とか言って致命的な情報を欠落させてるんじゃないかと気を付けてはいるんだけど、今のところその兆候は見られなかった。


 ……どれだけ気を付けてたって知らない事を質問できないのには違いないんだけどさ。


「悪意って急に増えると危ないって言ってたじゃん。メリーとマリーは本当に大丈夫なの?」


「人とぬいぐるみでは違うわ。当たり前でしょう?」


 当たり前と言うならそもそもぬいぐるみは動かないし自我もないのが普通なんですけど?


 相変わらず常識にとてつもなく深い溝を感じる。

 この溝は一生かかっても埋まる気がしないけど、溝越しに会話するのにはだいぶ慣れたきた感ある。


 これが絆パワーか。あるいは主従の仲良し度?


「あなただって大丈夫だと思ったから子供たちの悪意を彼女たちに吸わせたのでしょう? なぜ今更になって確認を?」


 マリーたちのことを「彼女たち」と呼ぶリンゼちゃんにほっこりしながら、私は至極真っ当な意見を述べた。


「事前には確認したけど、実際にやってみたら予想外のことが起こったって可能性も十分に考えられるでしょ? だから念の為の確認だよ」


 言いながら思う。本当に、少しくらいなら予想外のことが起こっても良かったのに、と。


 リンゼちゃんとメリーにマリー、それに加えてフェルとエッテにまでも事前に否定されていた「私一人の悪意より子供部屋で集まる悪意の方が多いでしょ?」という予測。あの皆の予想だけは外れてくれたって良かったのに……ちくせぅ。


 子供部屋に来た子供たち全員と、ついでにその場にいた使用人の大人達全員からも間違いなく集めたハズなのに、それでも余裕で私の圧勝とか全然全く納得いかない。


 メリーとマリーが自慢できるご主人様ってのは悪くないかなーと思わなくもないんだけど、その肝心の内容が「誰よりも濃くて純粋な素晴らしい悪意の創造者」ってそれ、一般的には褒めてる内に入らないんだよう!! 私はどこぞの子供向け番組の親玉ですか!?


 そんな褒められ方するくらいだったら与えられた役割である聖女ちゃんを頑張った方が百倍いいわ。字面通りの心清らかな乙女になってあげるから覚悟しなよ!


 ……なんて想像の中で宣言しただけで、同じく想像上のリンゼちゃんが「望むことを止めはしないわ(できるとも思わないけれど)」と副音声付きでとても残念な子を見る視線向けてくるの悲しい。心から悪人になるよりはよっぽど可能性あると思うんだけどなー。


 人生、成せばなる。成さねば成らぬ何事も、なので!

 私は! いい人になりたーい!!!


 と、毎回思いはするんだけどねー。


 こんな衝動が今回初めてな訳もない。

 似たような衝動が沸き起こる度、どーせすぐに諦めることになるんだろうなーという諦観も同時に湧いてくる程度には繰り返された、もはやお決まりになった思考パターンなのよねこれ。


 素晴らしい悪意だとか、ずる賢いとか、性格がひん曲がってるとか言われる度に「そんなことないよ! 私はクリーンなソフィアちゃんだよ!」と反論したい気持ちが萎えることはないんだけど、じゃあ私は本当に善人なのか? とか考えちゃうとね。

 この世界の大多数、私からの悪意の感染を受けてない人レベルの善人になれるか? って考えると、絶対無理ってのが考えるまでもなく分かるからなー、はあ。


 だってもう、思い知ってるもん。比べちゃうと、私は悪人以外の何者でもないって。


 例えばそうねー。こっちの世界の人だと、もし道端でお金とか拾っても自分の物にするって考えすら浮かびそうにないよねー。真顔で「落とした人は困ってるかも。どうしましょう」って言い出すよきっと。それで、その「どうしましょう」の中には「ネコババしちゃおうか」なんて考えは微塵も入ってないんだよ。考えないようにしてるとかではなく、初めから選択肢にないの。


 さて、そこでもし落ちてるお金を見つけたのが私だったらどうするでしょう。


 行動自体は同じかもね。

 でも私は断言するよ。そんな場面に立ち会ったら、私だったら絶対に「もし落とし主が見つからなかったらこのお金は私のモノだな!」って考えるわ。なんならその金額で何が買えるかまで考えるわ。


 そんな心の汚れてる私がこの国の聖女であります!!


 世の中って間違いで溢れてるよね。


「エッテ、おいでー」


「キュイ?」


 劣等感とか無視して開き直ってないと、やってられませんよーホントにぃ。


 キューイ。


カイル「ソフィアが清廉潔白な善人になったら、それはもうソフィアじゃないと思う」

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