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天使の集う楽園


 綿菓子。


 トランプ。オセロ。布製の積み木。ぬいぐるみ。


 スコーン。ゼリー。たまごボーロ。野菜入りの動物型クッキー。


 オモチャとお菓子を駆使して、子供たちの人気を買った。買い漁った。


 私こそがみんなの一番大好きなお姉さんであると認識されるように、子供の性別に合わせ趣味に合わせ個性に合わせて攻め方を変え、関心を引いて懐かせた頃合いに仲良くなれそうな子供の輪に紹介しまくっ。私、超頑張った。


 ――その努力の結果!!



「わぁあん!! わぁぁああん!!」


「おねーちゃんはあたしと遊ぶの!! こっちきて! こっち!!」


「……えうぅ」


「よわむしー! おんなにまもられるよわむしー!」


 私は私の望み通り子供たちに好かれ、「やめて! 私のために争わないで!」な事態が発生する地位まで上り詰めたのである。


 人気者ってつらいね。


「こっち!!!」


「わぁあん!!」


「……ぐすん」


「やーいやーい!!」


 思わずでへでへとだらしなく緩みそうになる顔を取り繕う。みんなのお姉さんはいつでも優しい笑顔であるべきだから。


 みんなに愛されて嬉しい。でもちょっとだけ困ってる、という雰囲気を醸し出す慈母の笑みを浮かべた。


 あらあら、困ったわ。私はみんなに仲良くして欲しいだけなのだけど。

 私の身体がひとつしかないのがいけないの? 私が好かれすぎてるからいけないのかしら?


 あー困った。人気がありすぎて辛いわー!


 たっぷりと人気者感を堪能したところでそろそろ問題の対処を始めることにする。泣く子が増えると連鎖して泣き出す子供とかもいるからね。楽しくない雰囲気は無くしておくに限る。


 よし、まずは一番簡単そうないじめっ子の篭絡から始めようか。


「ん? キミも撫でて欲しいの? いいよ、おいで? お姉さんが優しく撫でてあげる」


 私は聖女。なでなで教の第一人者。

 お兄様から受けた至高のなでなでをを模倣した、題して「他のことはどーでもよくなっちゃうなでなで」を試してあげようと純粋な笑顔で声を掛ければ、彼は私の差し出した手と、私の背中に隠れる小さな男の子を慌てた様子で交互に見た。


「はあっ!? い、いらねーよ! バカ! バーカ!!」


 顔を赤くして、捨て台詞を残して逃げていく少年のなんと愛らしいことか。


 今のはどういうことかな? 私への照れ隠しか、それとも私の肩に張り付く男の子への照れ隠しなのかな? 後者だったら大変美味しい。

 中性的な男の子に年上の男の子が素直になれずに意地悪しちゃうようなシチュエーションだったりしたのなら、私は持てる力の全てを使ってキミ達の恋路を観察することを神にだって誓っちゃうぞう。


 まあ実際はそんなめくるめく薔薇色な関係なんてことはなく、私を通じてお兄様の撫でテクの偉大さを察して男としての格の違いに急に恥ずかしくなったとか、多分そんなところだろう。


 お兄様は偉大すぎて当然なんだから恥ずかしがることなんてないだけどな。


 紳士は一日にして成らず。

 理想の男性像を知った少年の今後の成長に期待しよう。と、去りゆく小さな背中を見ながら思いましたとさ。まる。


 さてお次は……っと、こっちの女の子はかなり乱暴だなー。服は伸びないけど大声は耳に響くし、あちこちを叩かれるのは女の子の手がケガをしないようにするのに気を遣う。こちらは強制的に剥がしちゃうか。


「おねーちゃんっ!! あたしと……えっ、なに? ひゃわっ!? あっ、あたしのお人形! まってぇ!」


 私の腕を掴んでグイグイ、その後肩やら頭やらを遠慮なくバシバシ叩いて壊れた家電のように親しみを込めて扱ってくれた女の子には、ちょこっとだけ不思議な現象が襲い掛かります。てかそのぬいぐるみはキミのじゃない。私のだから。


 透明化を施したフェルが女の子の手からくまのぬいぐるみであるマリーを救い出して、遠くにポーン。


 そのままコロコロと転がしておままごとをしている子達のところへと乱入。実に見事な誘導である。


 これで残るはちっちゃい女の子とちっちゃい男の子。それも気弱な者同士。


 この組み合わせ、利用するしかなくない?


「わぁああん! ああぁあん!」


「よしよし、もう怖くないからねー。……キミも慰めてあげてくれる?」


「えっ……?」


 躊躇う男の子の手を取って、女の子の近くに誘導する。


 初めはオロオロと戸惑っていたけれど、女の子の泣き顔を見て可哀想に思ったのか。すぐに壊れ物を扱うような優しい手つきで、そっと、女の子の頭に触れた。


「……よしよし。……なかないで? へーき、だよ?」


 んんんっ! 私が平気じゃなくなってしまうっ!


 なおも泣き続ける女の子を、よし、よし、とひたすらに優しく慰め続ける姿は私なんかよりよっぽど聖人してる。てか尊すぎて私の方が我慢できなくなりそう。


 このままだと肉食系お姉さんになっちゃいそうだったので、アイテムボックスからべっこう飴を取り出して二人に与えた。


「はい、泣き止んだご褒美。キミには優しくできたご褒美、かな?」



 ――ああ、なんて幸せなんだろう。


 ここが天使の集うの楽園か。


餌を投げ入れれば入れ食い状態で好感度が爆釣なんですって。

子供の世話を頼まれた人の感想がそれでいいのだろうか。

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