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ノアちゃん初めての綿菓子


「あっ、ソフィアちゃんだ」


 むしり取って手の中で食べやすい形に整えていた綿菓子が理想的なサイズに出来たことに満足していると、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。


 顔を向けた先にいたのは友人でいるマーレの妹、ノアちゃん。


 部屋には案内されたばかりのようで、私が子供部屋に入る時に扉を開けてくれたのと同じ人が(かたわ)らに立っていた。


「ノアちゃん、いらっしゃい」


 私がいらっしゃいと言うのもおかしな感じだが、部屋の中央で綿菓子機を扱う私は傍目から見ればこの部屋の中心人物で間違いないだろう。だって中心にいるので。


 という冗談はともかく、綿菓子作りに飽きたアーサーくんは私にその役目を押し付けると、私が用意したトランプを持って自分の友達と遊びに行ってしまったのでここにはいない。飲食物の置いていない端の方のスペースで今頃楽しく遊んでいるはずだ。


 とてとてと近付いてきたノアちゃんが不思議そうに綿菓子を見ていたので、あーんと口を開けさせ、その中に一口大の欠片をひとつ押し込んであげた。その瞬間「ふぇっ!?」と素っ頓狂な声が上がる。かわいいなぁもう。


「えっ、なにこれ!? 甘い! けどすぐなくなっちゃった! ソフィアちゃん、もっと! もっとちょうだい!」


 はやくはやく! と口をパクパクさせる様子は雛鳥を連想させる。


 その姿に癒されながら、私は手に持つ綿菓子を小さくちぎっては与えまくった。気分は完全に餌付けである。


「はむっ! んー♪ あーむっ! んんー♪」


 ヤバい。ノアちゃんが可愛過ぎて変な気持ちになってきた。

 小さな子の笑顔ってなんでこんなに輝いて見えるんだろうね?


 輝く笑顔のノアちゃんは私が差し出す綿菓子をパクパクと食べる。口に上手く収めることに失敗して唇に張り付いた綿菓子を手で触ったりもしているので、口の周りも手もベタベタになっている。それを恥ずかしげもなく美味しそうに舐めとる姿も可愛いんだけど、これはちょっとマーレの両親たちには見せられないかなと思う。あまりにはしたなくて、原因を作った私も責任を感じてきた。


「ちょっと動かないでね。……ごし、ごし、と」


 綿菓子係に就任させられた時に用意してもらったおしぼりでノアちゃんの口元と両手を拭う。


 だが、綿菓子を持ったまま作業をしたせいか、最後の手を拭いている最中に我慢しきれなくなったノアちゃんが顔の近くにあった綿菓子にかぶりついた。大きな塊がむしり取られ、ノアちゃんには立派な白髭が生えた。その顔はとても満足そうだ。


「……これ、あげるから。ゆっくり食べてね? あと、食べ終わったらこれで顔を拭くこと。分かった?」


「わはっは(かった)!」


 ああもう、そんな顔中ベタベタにして……。ほっぺどころか髪にまで当たるんじゃないかとひやひやして見ていられない。見ていられないので、満足するまで好きにさせることにした。


 食べかけの綿菓子を渡しておしぼりを近くに置くと、さっきから綿菓子機の近くで所在なさげにしていた女の子に声をかける。


「待たせてごめんね。綿菓子、食べる?」


「……うん」


 ノアちゃんよりもさらに幼い、六歳くらいの女の子だ。


 引っ込み思案な子なのか声もかなり小さいが何も問題は無い。

 なぜなら、私の耳は地獄耳。かわいい女の子の可憐な声を聴き逃さない為にフル活動している聴覚は、部屋中に散らばっている少年少女の話し声をまるで至近距離で囲まれながら話されているかのように届けてくれる優れものなのだ!! ビバ、子供ハーレム!


「ねえ、綿菓子ってなーに? あたしも食べたい! ソフィアちゃん! あたしにもちょーだい!」


 多種多様なロリショタの存在を間近に感じて心の中で歓喜の雄叫びをあげていると、私の袖を引いたノアちゃんに遠慮の全く無いおねだりをされた。


 おねだりはいいんだけど、ベタつく手で触らないで欲しいなあ……てかまだ綿菓子残ってるじゃないの。


「綿菓子ってノアちゃんが今食べてるそれだよ? まだ食べたいの?」


「食べたい!!」


 即答である。それならまあ、作るか。


 ノアちゃんからも注文を受けた私は、綿菓子機に再度火を入れて材料を用意した。


「それじゃあ作るからちょっと待ってね。ノアちゃんはその子の後ろに並んで」


「ん!」


 うん、いい子だ。でも急いで食べるのはやめてほしい。棒が喉に刺さるんじゃないかと心配になるよ。


 さてと、じゃあ先ずは忘れないうちにノアちゃんに掴まれた部分の汚れを魔法で綺麗に落としちゃって、と。


 温度もそろそろいいかな?

 準備ができたら綿菓子の芯となる新たな木の棒を取り出して〜、綿菓子作りの再開だあ!


「美味しいの作るから待っててね〜」


 女の子から返事はない。が、その瞳が期待を込めて私の手元を見つめているのが分かる。


 期待に応える立派な綿菓子を作るとしよう。


顔立ちの整った貴族の幼子が集まる子供部屋。

そこは、ソフィアにとっての天国であった。

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