お姉様の味方をしよう
薄々は気付いていた。
成人。減った来客。パーティへの不参加。お母様の態度。
結婚。
お姉様、行き遅れてますよね?
「ソフィアがいない生活なんて、耐えられない……」
「耐えなさい」
嘆くお姉様に冷たく言い放つお母様。
こんな場に私を連れ出すなんて、お母様ったら。
帰っていいですか?
「姉上。正当な理由無く結婚を遅らせるのは良くないと思うよ」
私だけでなくお兄様まで呼ばれていることからお母様の本気度が窺える。
良い姉であることを標榜するお姉様の逃げ道を塞ぐこの所業。
それだけ腹に据えかねていたのだろうか。
これは言質を取るまで居座りそう。
「姉として可愛い弟妹の行く末を案じて――」
「他人の心配をする前に自分の心配をなさい」
被せられても反論すらできないお姉様。正論って割と暴力的だよね。
「学院を卒業する時、貴女はなんと言いましたか? 婚約者は決めてある、心配いらないと。そう聞いた記憶があるのですが、間違っていますか?」
「間違ってません……」
……気の所為だと思いたいんだけど、お母様の嫌味レベル上がってるよね?
これってやっぱり私の影響だよねぇ……。
お姉様ごめん。下賎な生まれなもので。
あ、勿論この家じゃない方です。
「本来こういったものは当人同士で済ませるものですが、念の為にと先日、お相手の方に話を聞きに行ってきました」
「え!」
お姉様の顔色が悪い。
旗色は最初から悪い。
「とても有意義な話が聞けましたよ? 勿論、貴女が彼を利用して目論んでいたことも……」
笑顔のお母様も怖かったけど、無表情も怖い。ヤバい。
お姉様だけじゃなくお兄様まで動けなくなってる。
あ! もしかして無言の魔女ってこういう……止めとこ。なんか背筋ゾクッとした。
触らぬ神に祟りなし。
「申し開きがあるならば今のうちに言いなさい」
「……申し訳ありません」
コワイヨー、コワイヨー。
こんな時、いつもならフェレットちゃんたちに癒されるのに!
こうなることを見越して今日はフェレットの同伴禁止だったんだね。
居たとしてもこの空気の中で可愛がれる自信ないけど。
「では十日以内に結婚の約束を取り付けてくること。それが出来なかった場合、貴女の結婚相手はこちらで用意します」
「え? ええ!?」
わぁお、急展開だね!
他人事だから物語みたいな展開にちょっとわくわくしてるけど、将来私も同じこと言われる可能性あるってことだよねこれ。怖すぎる!
「……姉さん、どうするの?」
言いたいだけ言って出ていくお母様を止める者はいなかった。
だって、ねえ。
お姉様の年齢考えたらお母様が厳しくなる理由も分かるっていうか、なんで結婚して家を出ないのか気になりつつも聞けなかった感じでしたし?
むしろお母様はよく今まで我慢してたなと思うよ。
「どうしよう……」
いつも朗らかなお姉様が明らかに消沈していた。
さすがにこんな状態のお姉様を見捨てることはできない。
よかろう、私も覚悟を決めようじゃないか。自業自得だろうと私はお姉様の味方をするよっ。
「元気を出してください、お姉様」
これだけ敗色濃厚だと大変そうだけど、お姉様の為にこのソフィアちゃんが一肌脱ごうじゃないの!
もちろん、お兄様もね!
結婚できないのではない。しないだけだから。嘘じゃないから。