魔法を考察してみよう
小さな風が起こせるようになった。
部屋に戻ると実感が出てきたのか、顔が緩むのを止められない。
魔法が使えた。私にも、魔法が使えた!
思わず喜びの舞を踊りだす。作詞作曲は私だ。偉大なる魔法~♪魔法の力でなんでもできる~♪
上がったテンションが元に戻り冷静になれば、ちょっと恥ずかしくなってきた。
どうも最近、精神年齢が肉体年齢に引っ張られて行動が幼くなってる気がする。我に返ったときに自分の行動を省みて恥ずか死しちゃう。いや、でも上目遣いは必要なことだったし……。
いかん、このままでは立ち直れなくなる。
こういうときは頭を切り替えるのがいいんだ。そう、魔法! 魔法が使えるようになった理由についてとか!
そう考え出すと、魔法学の矛盾が気になり始めた。
摂理とか言うから物理学みたいなのを想像してたのに、その内容はほぼ精霊頼り。てゆーか精霊に願っても効果無かったし。
それに呪文。
大空にそよぐ風をここに、って、窓閉まってるんですけどどこから入ってきたの? 召喚? 実は風召喚魔法なの?
たぶんだけど、前提が違うんじゃないかと思う。
今日一日魔法の練習をしていて感じたこと。魔法世界テンプレのどれが当てはまっているのか考えていたから、気付いた。
詠唱呪文は条件付けなんだ。
呪文を唱えると、魔法が起きる。そう思い込むことで、魔法の発生を簡略化させる。
実際には呪文を唱えなくても魔法は起きる。必要なのは想像力だ。
どこに、どんな現象が発生するのか。
ここに、大空にそよぐ風を、起こす。
精霊の文言は思い込みの補強。神に類する存在の助力があるから、人にも超常現象が起こせる。これは神の力を使わせてもらっているだけだから。だからできる。魔法が使える。
手のひらに視線を向ける。
「≪光を≫」
思い浮かべたのは蛍の光だ。淡く小さな光点が、明滅しながらふらりふらりと舞い踊る。
弱々しい光だけど、消えたりはしない。私がそこに”在る”と思っていれば、消えない。
やっぱりできた。
精霊に感謝を捧げていない。呪文は足りない。けれど光は生まれた。
想像することさえ、できれば。
お父様は、魔法で空は飛べないと言った。それは事実だろう。
誰も空を飛べた事が無い世界で、魔法で空を飛ぶ事はできない。
だけど、私なら。
前世でだって空を飛べる人はいない。だけど空を飛ぶ人ならいくらでも見てきた。
漫画で、アニメで、人が空を飛ぶなんて日常茶飯事だ。ありふれていると言ってもいい。それは、当たり前にできることだ。
だから、私も空を飛べる。
魔法で空を飛ぼうと思った時、初めに思い浮かべたのは鳩だ。
くるっぽー。人間よ、餌をくれ。
追ってくるな、なにをする、やめろ! 翼をパタパタ、近くに着地。ふぅ〜、飛ぶのは疲れるぜ。
私の鳩に対するイメージはこんなものだ。
あのふてぶてしい顔は絶対作ってる。偏見だって? 知ってるさ。妄想するだけならタダだからね。
すぐ横道に逸れる妄想・思考は私の標準装備だ。残念ながら死んでも治らなかったが、たまには役に立つ事もある。
だってもし飛べなかったら、こんなにムカつく鳩が「ぷっ、お前さん飛べないのかい? まぁ人間にしては頑張った方じゃねぇかな」とか上から目線で言ってくるんだよ? 許すまじ。
だから意地でも空を飛んでやる。
妄想の中で鳩が飛び立つ。飛んだ先にいたのは、六枚羽の大天使。これだ、これが私の成るべき姿。
集中してイメージするんだ。背中に白い翼が生え、大きく羽撃く様を。
飛行力学など知った事か、翼は空が飛べるものの象徴だ。翼があれば、飛べる。翼の生えたキャラクターはみんな飛ぶ。常識だ。しかも魔法があるファンタジー世界だよ? 飛べなきゃおかしい。
背中から翼が生えているのが分かる。思い通りに動く。
さぁ、次だ。翼は動く。動くとどうなる? そんなものは決まっている。
そして私は、たしかに宙に浮かんだのだ。
空を飛ぶ魔法は、呆気なく成功した。
「私は大天使ソフィアエル……生意気な鳩を支配下に置く者……」