規格外ということ
私の魔法は規格外。
どのくらい規格外かっていうと、国で認められた魔法の達人であることを証明する『賢者』の称号を持つお母様から「ありえない」とのお言葉を新魔法見せる度に貰えるくらいには規格外らしい。
更に言うと、会ってすぐの時は「あの私以上に魔法を扱える存在はいないわ」と自信満々に言ってた元女神様が、私の魔法をいくつか見ただけで手のひらくるーっと回して「あなたの方が上手そうね」というくらいには私の魔法は規格外である。
ビバ女神様のお墨付き。いえーい。
ってならないから。
明らかに何かがおかしいっぽいんだけど、神様陣営としては私がその気になれば女神様とだって戦える戦力を持ってることに問題は無いらしい。というか、奪い取ろうとして反抗されるくらいなら放置するという方針みたい。神様をビビらせるレベルなのかとか考えてはいけない。平和なのはいい事だ。
で、そんな女神様も認める私の魔法、人の世界でバレたらどうなるかな。
前世なら国に囚われ実験材料とかありそうだけど、この世界の人間は女神様の介入により悪意というものが存在しない。悪行という概念すらも遠い過去のおとぎ話なのだ。
なので、人外と認識されると自動的に天使になります。人を悪魔だと考える人がいないので。
この善い人しかいない世界で。
唯一悪意を知り、カイルに悪戯してはニヨニヨしてるよーな性格の悪い私が。
誰もが認める天使。
数年と持たずに精神が耐え切れなくなる自信があります。
人ってね、こう言うとますます性格悪く聞こえるだろーけど、自分より劣ってる人を見て心の平穏を得るようなところがあると思うの。
正と負、正と邪の両面が混じりあって、両方があって、初めて人らしくあると思うの。片方だけじゃダメなの。
そりゃ女神様の手ずから丁寧に悪意を取り除かれてる人達は普通に生きていけるかもしれないよ? でも心の清らかすぎる人達に囲まれたふっつーの人間である私がこの歳まで生きてこられたのはなんでだと思う?
自分の汚さを事ある毎に見せつけられて自己嫌悪に塗れながら、誰かに相談したところで同情は得られても同感は得られない。そんな地獄のような環境にいちはやく適応して、感情を溜め込むことを止めたからに他ならない。自身の醜さを受け入れたからに他ならない。
私はー! この世界で一番性格の悪い人間でーっす!!
そう開き直ることで、心を守った。
でも……私だって夢に夢見る、女の子だからね?
……人っていっぱいいるし、流石に一番ってのは自意識過剰なんじゃないかとか……ねえ?
私、前世でも悪口は言ったことあっても、犯罪はしたことなかったし。それほど悪人って訳でも……ねえ?
みたいな感じで一縷の望みに託してました。
私が知ってる人、つまり私の知ってる世界の全員が善人っぽいことは確かだけど、それってほら、全人類からしたらちっぽけな数だし。コイン数回投げて全部表が出たからってこれからも表しか出ないとか普通は無いし。
だから善人に囲まれて「天使様〜」なんて本気で言われそうなヤバい環境は断固阻止して、私は狭い世界をできるだけ広げず、周りに埋没して生きていくのだ。
……そんな後ろ向きな目標に邁進してたんだけど。
私の悪意って、広がるみたいなんだよね。
聞いた時は「感染症かよ! 私は病原菌か!!」って怒ったもんだけど、これが中々、良い仕事してて。
お兄様はたまーに腹黒い一面を隠しきれてなくて、その迂闊さが呼吸の仕方も忘れる程にかわいかったりするし。
お母様も最近の叱り方、イジワルなのが増えてきたよね。あれ絶対私を苛めて楽しんでる。私のSセンサーが反応してるから間違いない。
それにカイルも、生意気にも私を罠に嵌めたりするようになったしね。
そんな変化が、たまらなく嬉しい。
だからね。
「……………………」
まだ悪意が感染してないだろうアイラさんには、別に魔法見せる必要なかったんじゃないかなって。
目をまん丸にして固まってるじゃん、可哀想に。
部屋の中で浮いただけでコレだよ? こんなのまだまだ序の口だよ?
これからもアイラさんとは家の中で何回も会うのに、私はどうしたらいいんだろうか……。
「……く、くるくる〜」
とりあえず回ってみた。
両手を肩の高さまで上げて、フィギュアスケート選手を意識してそれなりに優雅に見えるように回ってみた。
ソフィア選手、渾身の四回転ジャンプ! いや、五回転、六回転……。ま、まだまだ回る……ッ!?
あ、やばい酔った。おぅ、おぉ、吐き気が……ッ!!
なんとかリバースする前に飲み込んだけれど、私が自爆してまで披露した渾身のネタはアイラさんとソワレさんを解凍するには至らなかった。ツラい。
「……っ、……」
とか思ってたら、お母様が顔を背けて肩を震わせてるの見つけたんだけど。
これ、怒ってもいい場面かな? どうかな?
聖女 は ふしぎなおどり を おどった。
しかし、なにもおこらなかった。




