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話し合いの結論


「ソフィアちゃん、こっちに来てくれる?」


 ソワレさんからアイラさん側の事情を聞いている間に、二人の話し合いは終わったらしい。


 アイラさんにやり込められていた時の雰囲気は既になく、むしろ完全勝利を収めた後に見えるお母様と、同じように満足のいく結果を勝ち取ったとしか思えない笑顔を浮かべるアイラさん。


 二人ともが望んだ共通の結果なんて「とりあえず言い争いしてる暇があったらソフィア(ちゃん)を叱ろう」くらいしか思い付かない私にとって、アイラさんの一見優しく見える笑顔は、地獄に送るのを警戒されないようにしている仮面にしか見えなかった。


 誰かたすけて……。


 救いを求めて周囲を見渡してみても部屋にいる人が入れ替わったりはしない。


 ソワレさんは三人分のお茶の用意に忙しそうだし、アイラさんは笑顔のまま空いた一席を示して動かない。


 そしてお母様は、戸惑う私の心の内を見透かしたように、一言だけを告げた。


「ソフィア」


 たった一言。続く言葉ない。


 けれど、言葉に釣られてお母様と視線を交わした私には、続く言葉がありありと伝わった。


 お母様の目は雄弁に語っている。

 即ち、「逃がしはしないから、早く来なさい?」と。


「すぐ行きます」


 言葉にしなければいいってものじゃないと思うの。


 アイラさん言ってたじゃん。頭ごなしは良くないって。怖がらせたらダメだって。


 ちょっと前に言われた事すら守れないなんて、お母様こそもっと叱られるべきないんじゃないんですか!? と思いはしても、当然口には出せない。顔にも出せないし目だって合わせられない。だってお母様はエスパーだから。


 指定された席に着席しつつ「考える自由くらい誰か保証してくれないかな……」と考えていたら、自然とお母様を抑えられる人物に目がいった。


 でも残念、アイラさんもエスパーだ。


 そっと目を伏せると、心に諦めの感情が広がっていく。

 お父様のチョロさが、今はとても恋しかった。


「さて、それじゃあアイリスと話し合った事をソフィアちゃんにも伝えておくわね」


「はい」


 もう煮るなり焼くなり好きにしてーと投げやりな気分で返事を返す。


 アイラさんに酷い事を言われたら、お兄様に慰めてもらおう。


 結局いつもと変わらない、そんな逃げ腰な覚悟を決めて、二人の話し合いの結果とやらを聞いた。


「これからはアイリスがソフィアちゃんのことを叱りすぎないように、私が見張ることになりました。でね、その為にも、アイリスがすごいって褒めるソフィアちゃんの魔法を私も見ておくことになったの。人に驚かれるのが嫌で隠しているとは聞いているのだけど、もしソフィアちゃんさえ良ければ、色々と見せてもらえないかしら?」


 ソワレさんがテーブルに紅茶を並べるのに意識を向けていた私は、信じられない想いでお母様の顔を見た。そこには悪戯めいた微笑が浮かんでいる。許可は確かに出ているようだ。


 ……でも、本当にいいの?


 アイラさんがもう一度ショックで寝込む事態になるんじゃないかと心配になる。

 お母様はアイラさん相手には子供っぽいところがあるから、私の前でやり込められた腹いせに、ただ驚かせたいだけとか……いやでも、流石にそこまで単純な理由ではないと思うんだけど……いいって言うならいいのかな?


 お母様の表情だけでは分からなかったので、素直に詳しく聞いてみた。


「お母様が良いのでしたら、私は構いませんが……あの、何を見せれば良いのでしょう?」


「全部見せて?」


 全部……え、全部?


 それは流石に……とお母様に確認すれば、了承の返事がきた。マジか。


 え、えっとー、今までアイラさんに見せたことのある魔法は、治療時の魔力通すやつと、それから……、……え、それだけじゃない?


 異常と言われるけど私の中では格段に大人しい初級魔法すら見せてないのに、いきなり全部って、それ本当にアイラさん大丈夫?? 心臓止まったりしない?

 いくら治せるとはいえ、目の前でぽっくり逝かれるとかイヤなんだけど。


「……本当に全部見せるんですか?」


「見せてあげなさい」


 ……お母様が本気だ。


 ならもう、私に言えることは無い。

 わくわくとした様子のアイラさんは、きっと私たちの言う「全部」というのが全種類の初級魔法とでも思ってるんだろう。けど、その実は二桁に及ぶ新魔法のオンパレード。見た事も聞いたこともない魔法の展覧会となるだろう。


「よろしくね、ソフィアちゃん」


 純粋な目のアイラさんが見てられない。

 ひょっとしたらアイラさんと普通に話せるのも今日が最後になるんじゃないかな?


 空飛ぶ魔法、転移の魔法。身体強化に温度操作。アイテムボックスに念力風味の魔法とあと念話もあるし他にもいろいろ……。


 どれから伝えるのが適切で、最も心的疲労が少ないか。


 愉しそうなお母様の視線を感じながら、私はアイラさんに、まずは精神防御の魔法を掛けることを決めたのだった。


百聞は一見に如かず。

……ソフィアに関しては、一見程度じゃ百聞よりも訳が分からなくなる可能性もあるけど。

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