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そしてラスボス同士の争いが始まった


 真のラスボスはアイラさんだった。



 お母様にも反論を許さずに立ち向かえて、私のお貴族スマイルも通じない。


 我が家の二大巨頭を封じたアイラさんは私の謝り方に細かい注文を付けた。


「ソフィアちゃん。今度から謝る時にはもっと細かく言ってくれない? 何に対して謝ってるのか。お説教を聞いてどんな風に感じて、どう反省したのかを自分の言葉で伝えるの。できる?」


「え? えーと……」


 できるかできないかで言えば、できるだろうし、できる以外の返事は求められていないことも分かる。でもちょっとハードルが高い。主に羞恥心的な意味で。


 お母様とアイラさんの視線が注がれる中、私の頭の中でぐるぐると回る言葉を必死に繋ぎ合わせた。


「さっきの謝罪は、アイラさんを煩わせてしまってごめんなさい、ということです。えと……確かにアイラさんの言われる通り、私は反省が足りてないように思いました。なので、これからは注意します……で、いいですか?」


 私は懸命に言葉を捻り出すと、二人の顔色を窺う。

 アイラさんは満足そうに頷いていたけれど、お母様は私の言葉を聞いて、これみよがしに大きな溜息を吐いた。


「違うでしょう、色々と」


「あなたも間違っているのよ、アイリス」


 私は何を言わされているんだろうか。アイラさんは何をさせたいんだろうか。


 叱られると思った時にはお母様が叱られていて、気を抜いた時にはやっぱり私が叱られていて。アイラさんはお母様とは違って優しそうな笑顔なのに、何を考えているのかが全然分からない。


 ただ、よく分からないまま従っているけど、それでもひとつだけ分かることもあった。


 ……これ、いつもみたいにお説教聞き流すよりツラくないかな?


 私の謝罪に否を唱えたお母様に、アイラさんは流れるように注意点を列挙する。


「否定だけで済まさないの。まずはちゃんと謝れたことを褒めてあげて、それから順に訂正してあげなさい。どうせ不都合があると黙るくせも治っていないのでしょう? ただでさえあなたは言葉がキツいのだから、ちゃんと褒めるべきところは褒めてあげて。それから悪かった部分を教えてあげなさい。否定するだけの方があなたは楽かもしれないけど、ソフィアちゃんの為にはきちんと反省させることが必要よ」


 なんか……。……なんかツラい。とてもツラい。


 アイラさんはド真面目なんだろう。でも話を聞いてると、私は悪い点ばかりが目立って良い点なんて見当たらないけど、反省させやすくする為にとりあえず褒めとけって言われてる気がする。


 被害妄想も入ってるかもしれないけど、大筋間違ってないんじゃないかな。


 それにね、その「とりあえず褒めろ! んで優しく叱ろう!」な方針は私的にはとても馴染みがあってその効果についてもそれなりに信頼がおけるものではあるんだけど、私の認識としてはどーしても幼い子供に言い聞かせる方法って感覚が強くて、自分にその手法が使われることには抵抗を覚えるというかなんというか。


 そりゃ私だってつい最近ミュラーに対して似たような事してたし、子供に有効なら大人にだって有効なのは当たり前で、使えるなら使うべきだってのは分かってるつもりではある。あるんだけど……複雑な気分になるのは止められない。


 ……でも、褒められるの自体は、ちょっと興味あるかも。


 普段から賞賛の言葉を滅多に口にしないお母様から出る褒め言葉……とてもワンパターンになる予感がする!


 事務的な褒め言葉にならないようにアイラさんに監修して貰えないかという野望を密かに抱きつつ、二人の様子に意識を戻せば、何故かさっきまで私とお揃いで叱られる側へと堕していたハズのお母様が、アイラさんを訝しげを眺めつつなんだか偉そうな普段通りの姿に戻っていた。


「……何故急にこんなことを言い出したのかは詮索しないけれど、目的はなんとなく把握したわ。姉さん、親らしい事をしたいだけなら自分の子供を作ってその子にしてあげて。忠告には思うところもあったし多少の感謝もしているけれど、ソフィアで親子ごっこをするのはやめてちょうだい。この子は普通とは違うのだから、姉さんの感性では測れないわよ」


「その決め付けが良くないという話をしてるんでしょう! ソフィアちゃんだって普通の女の子よ。アイリスも適わない才能があるのかもしれないけど、人を思いやれる優しい子で、親に叱られたらしょんぽりと落ち込む普通の子よ。アイリス、ちゃんとソフィアちゃんの事を見てあげてる? ソフィアちゃんはあなたの愛に飢えているのよ」


「姉さんこそ思い込みが激しすぎて真実が見えていないように思えるけれど? ソフィアに対する認識がその程度で――」


 ぎゃんぎゃんとやり合う二人は次第にヒートアップしてお互いの姿しか見えていない。私、完全に蚊帳の外。


 かといってあの中に混ざりたくもないし、どうしたものかと途方に暮れていた時、肩にぽんと手が置かれた。


「ソフィア様。あちらでお茶でもいかがでしょうか」


 ソワレさんマジ天使。


親っぽいこと&姉っぽいことの両方を同時にしようとして妹に看破されちゃったラスボス(姉)。

気遣いは嬉しいけれど、ソフィアの異常さを知らない的外れな指摘にぷっつんしちゃったラスボス(妹)。


話の中心である少女はお茶を飲みながら静かに想う。

触らぬ神に祟りなし、と。

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