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闇水晶、納品


 私の要望を聞き、お菓子を持って来てくれたシャルマさんが、私のほっぺたに執着するヘレナさんを窘めてくれた。


 やはり大人の女性に必要なのは優しさと包容力ですよ。ヘレナさんもシャルマさんをよく見習うといいと思う。


 そんなことを考えながら、まるで餅のようにぐねぐねとこねくり回されたほっぺたがまだちゃんとくっついているか確認していると、「大丈夫ですか?」と心配してくれるシャルマさん。

 私の頬に手を当てて優しく労わってくれるその姿を見れば、どんな男もコロッといっちゃいそうな慈愛に満ちているのが一目瞭然で……と考えていて、気付いてしまった。


 ヘレナさんって、基本的にいつもシャルマさんと一緒にいるよね?

 つまりヘレナさんとシャルマさんは常にセットで、常に見比べられる位置にいるわけで……。


 そりゃモテないよねぇと納得したわ。完全にシャルマさんの引き立て役になってる思う。


 ヘレナさんも接してみると良いところは割とあるんだけど、美人で優しくてお菓子作りが得意な上に一歩引いて控える謙虚さをも持ち合わせてるとかゆー男の理想見たいなシャルマさんが相手ではどう考えたって相手が悪い。シャルマさんが相手なら私だって結婚したいくらいだわ。


 そんな誰もが惚れずにはいられないシャルマさんの優しさも、今は私だけのもの。


 ほっぺたをさすさすしてくれる手指からも甘い匂いが漂ってくるようだよ! これぞ女子力って感じ!


「……? すみません、痛みましたか?」


「いえ、大丈夫です」


 ……私も鍛えよう、女子力。



 さて。

 あれだけ好き勝手にされてもノーダメージな頑丈ほっぺたのお陰で無事に言語を操る術を取り戻した私は、これからヘレナさんにプレゼントを渡します。


 決して女子力低い仲間として認定したからとかではない。


 そりゃシャルマさんと比べたらちょっと……いやそこそこくらいは劣ってるだろうけど、ヘレナさんと比べたら私の方が優っているという自信がある。まだ若いし。


 ……咄嗟に若さに頼るあたりが既に女子力の決定的不足を自白してるような気もするけど、とにかく!!


 ヘレナさんへのプレゼント企画である。


「渡すモノがあります」「ヘレナさんが欲しがってたモノですよ〜」と焦らすことでほっぺたの復讐をしつつ、満を持して、私は机の上にその物体を置いた。


「ててーん!」


「……何?」


「箱ですね」


 そう、箱である。闇水晶入りの箱である。


 私はちゃんと学習するので、ヘレナさんたちが勝手に箱を開けちゃわないうちに、闇水晶の取り扱いにおける注意点を伝えておくことにした。


「これ、闇水晶なんです! あっ、でも箱を開けちゃダメですよ。闇水晶は光を当てると消えちゃいますから」


「闇水晶……? あ、いや。それは知ってるけど……」


「闇水晶……。私が調べた時には現存しているようなものでは無いとのお話でしたが」


 あ、あれ。なんか思ってた反応と違う。


 もっとこう、「ええーっ!」とか、「ななな、なんですってぇー!」とかとか、「これ欲しかったのよー! ソフィアちゃんさいっこうー!」みたいな反応が来るかと思ってたのに。


 二人の反応は懐疑的なもので、驚きと言うよりは戸惑いが強いように思う。


 そしてこの手の反応に、私は覚えがあった。


 前世で友達が「ツチノコの子供、見つけちゃったの……!」とか真面目な顔で言いながら、腹が潰れたヤモリの干物を見せつけてきた時の私たちの反応に似ている。


 その時の感情を言葉として正確に表すなら、「あっ、この子信じてるんだ……」か「いやこれ絶対違うでしょ」だ。そして私は後者の感想を抱いた。


 私、残念な子扱いされてるようです。


 しょんぼりとしつつも、まあ仕方ないかなという気持ちもある。

 二人は私が自由にできるお金が少なくてこの部屋にお菓子を食べに来ている状況を知っているし、そうでなくとも子供が持つには貴重過ぎるモノだと理解はしている。


 なので信用されそうな人の権威を借りようと思う。


「ちなみにこれが闇水晶だというのは、お母様にも聞いて確認は取れています。遮光処理を行ってくれたのはお母様ですから」


「……へえ、そうなの」


 ……お? ヘレナさんの雰囲気がちょっと変わった気がする。


 いつものだらしないお姉さんみたいな雰囲気がなりを潜めて、研ぎ澄まされた集中力を感じるというか、なんというか……。


 その証拠に、いつもはだるーんと気を抜いてシャルマさんの用意してくれたお茶菓子を全力で味わう事をモットーにしているこの私が、ちょっぴり居心地の悪さを感じているもの、もぐもぐ。今のヘレナさんは間違いなくピリピリしてるね。うむ、今日のお菓子も美味しい。


「シャルマ、大事に保管しておいて」


「かしこまりました」


 ……癒しの空間を求めて来たハズが、なんなのこの場違い感!!


 空気読めない子を演じるのもそろそろ辛くなってきた。


「ソフィアちゃん、ありがとうね」


「あ、ハイ」


 え、待って、どうしよう。


 真面目なヘレナさんが、なんだかちょっとだけカッコイイよ!?


お忘れの方がいるかもしれませんが、ヘレナは魔法陣や魔導具開発の研究者です。

その道のプロなので、魔法の研究をしているソフィアの母より素材については詳しいんですよ?

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