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ヘレナ目線:ヘレナのメガネ


 ソフィアちゃんが私を見てる。



 ずっと見られているわけじゃない。


 アイリスと話していたり、資料を探していたり。


 つまるところ、私が何かをしている時にふと視線を感じ振り返ると、ソフィアちゃんと目が合う。

 けれど、すぐに逸らされてしまう。


 少しだけ気になった。



 そんな疑問も吹き飛んだ、女神様の御業に触れた実習室からの帰り道。


「メガネって初めて見ました」


 ソフィアちゃんが私を見つめていたのはメガネが気になっていたからみたい。

 言おうかどうかずっと迷っていたらしい。


 そういえば、私も自分以外で掛けている人はあんまり見たことがなかったかもしれない。


「確かに、眼鏡を掛けている人って珍しいものね。これは私の祖母が愛用していた物と同じ型でね、普段は不真面目な人でも賢くなれちゃう魔法の眼鏡なのよ」


 アイリスにも話した事がある、懐かしい、笑い話。


 普段はだらけているだけの祖母が、眼鏡を掛けた時だけは誰もが目を見張る才気を見せる。


 仕事の時にだけ引き出しの中から取り出す祖母の眼鏡が、私には魔法のアイテムに見えた。




 祖母は私の憧れだった。


 当時、父に指導しつつ父よりも数段早く書類を決裁する祖母の姿は、幼い私の目には誰よりも魅力的に映った。


 そんな祖母が普段は誰よりもだらしないのが不思議で問いかけたことがある。


「お仕事の時はしっかりしているのに、どうして普段はだらけているの?」


「それはね、お仕事の為さ。普段はだらりとして頑張る力を溜めているんだ。お仕事が終わったなら、次のお仕事までにまた頑張る力を溜めておかなきゃいけない。だからアタシは今こうして、全力でだらけているのさ」


 その言葉を無邪気に信じた私が真似をしたら、祖母は母に叱られていた。


 祖母はホラ吹きだった。


 ただ、仕事のできるホラ吹きだった。


 普段だらしがないのは本当に仕事の為なのではないかと信じてしまいそうになる程に、仕事だけはできた。


 仕事の腕だけで周囲を黙らせる祖母が、格好良く見えた。


 家族は適当なことを言っているだけだと聞く耳を持たないけれど、祖母の言葉は合理的だと、それに気づける私は祖母と同じ優秀な人間なんだと思った。


 学院で魔法を学び始めると、その想いはより強くなった。


 魔法の威力を上げたいなら、魔力を増やす。

 そんな当たり前のことしか教えてくれない学院の教師達。


 それは例えるなら、仕事の能率を上げるために、人を増やすような。


 祖母は違った。


 祖母のやり方を、魔法に当て嵌めたなら。


 魔力を増やすのではなく、休ませて、質を上げる。質のいい魔力だけで、魔法を発現させる。


 祖母という前例があるのだからと、この考えは正しいのだと証明するため、研究に明け暮れた。


 実際に使えたのは卒業の間際というギリギリではあったけど、同等の魔力量でより効果の高い魔法を発現させた実績で、私は晴れて天才たちの仲間入り。


 研究が認められ国に召された喜びを、一番に祖母へと届けた時の反応は生涯忘れない。


「あんな嘘信じて、馬鹿なことしたねえ!」


 祖母は、みんなの言う通りのホラ吹きだった。


 だけど、私の研究が認められたのを一番喜んでくれたのも祖母だった。




 魔法の眼鏡のお話が終われば、ソフィアちゃんも楽しんでくれたみたいでぱちぱちと拍手をされてしまった。


「楽しそうなお祖母様ですね。今はどうされているのですか?」


 問いかけられて初めて気付く。


 私は誰かに聞いて欲しかったのかも知れない。

 あの優秀で、それ以上に怠惰だった祖母の顛末を。


 自然に答えようとする口を閉じ、差し障りのない言葉で返す。


「今もピンピンしてるわよ。仕事をしなくなった分、全力で遊び回っているみたいね」


 何がきっかけかは分からない。


 突然仕事を引退した祖母は、有り余る力を発散するようにあちこちを飛び回っては遊んで暮らしているらしい。

 一番新しい手紙では海の男とイチャイチャしていることしか分からなかった。


 かつての憧れだった祖母も今では、「旅先でいい男みつけたからお前にも分けてやろうか」なんて余計な世話まで焼きたがる、ただの色呆け婆さんだ。


メガネはファッション

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