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ロトットルの街


 お母様の昔を知るアイラさんから色々と興味深い話が聞けた。


 小さい頃のお母様がどれほど愛らしかったか。

 今のお母様がどれほど大人らしくなったか。


 アイラさんの前では随分と子供っぽくなるなと思っていた私にとって、アイラさん目線のその話には中々考えさせられるものがあった。


 ……やっぱりお母様は、アイラさんが眠りについた前後で性格が全然違うんだなって。


 アイラさんも元気になった事だし、お母様も感情豊かだったという昔みたいになれればいいな、と。


 私は純粋にそう願った。



 さてここで問題です。

 人が元気になるには何が必要でしょうか? 私は美味しい食べ物があると良いと思いますまる。


 というわけで私は現在、王都から遠く離れたここ、ロトットルの街へとやって来ていまーす! わーいぱちぱち〜。


 以前お空をバビューンとひとっ飛びした時に見つけておいた街のひとつなので、移動は転移でらくらく簡単。家から徒歩十秒というお手軽さなのである。ワープばんざい!


 もちろんお母様にはお伺いをたてましたよ。「一緒に美味しいものを食べに別の街へ行きましょう!」って。そしたらお母様、「そんな暇があるように見えますか?」とか言うんだもん。これは行く気ないなと思って「なら一人で行ってきます」って報告したら「行かせるわけがないでしょう。そんなに暇なら私の仕事を手伝いなさい」って自分の仕事押し付けてきて、私の午前は潰されたわけよ。酷くない?

 外出許可を取りに行ったら休みを潰そうとしてくるとかありえないよね。お昼食べたあとに抜け出さなかったら夜までこき使われてた可能性もあったと思う。


 まあそんなこんなで頑張った自分へのご褒美として、私は見知らぬ街の探索を強行したのだ。


 ロトットルは王都からは遠く、やや温暖な気候にある街だからなのか、通りを歩く人々の雰囲気が王都とは微妙に違う。やけに元気のある人が多いというか、陽気な人が多い気がする。


「おぉーい! こっちだこっちぃー!」


「でかくてうまい肉串だよー! 食べ応え抜群で安いよー!」


「あーん、ママー! 待ってー!」


 あちらこちらから響き渡る声。忙しなく行き交う大勢の人。


 王都の街ですらろくに出歩かない私にとって、色んな年齢層の人達がごった返しになっているこの光景は、普段目にすることの無いものなのだと改めて気付かされた。


 ……学院に向かう馬車に乗ってる時は大抵お兄様とご一緒だから、外とかほとんど見てないんだよね。


 それでも買い物くらいはしたことがある。


 私は目に付いた果物屋さんに近付いていった。


「おうそこの兄さん! どうだい、ひとつ見てってくれよ! 疲れた時にゃ甘くて美味い果物がおすすめだぜ!?」


 黒光りするハゲ頭にねじり鉢巻きをした筋肉ムキムキマッチョとかいうどうみても漁師にしか見えない男性が、道行く男性に白い歯を見せながら声を掛けていた。


「え、俺? いや、俺は肉を買ってくるように言われていて……」


「肉か!! だったらレモンかけると美味いぞ〜! 肉汁にミカン混ぜるのもいいな! 兄さんはミカンみたいな顔してっからどうせミカン好きだろ? どうだ、いいやつ選んでやっから来いよ!」


「いや、だから……」


 なんて強引な押し売りなんだ。私、貴族に生まれて良かった。


 ちゃんと買う予定の食材に合わせた有益な提案をするなんて顔に似合わずやるなぁ、なんて思ってたのに。顔がみかんだからみかん好きってどんな理屈だ。てかみかんみたいな顔ってどんなだ。


 あまりにも気になって声を掛けられている男性に目を向けると、顔にぶつぶつがたくさんできている見目があまりよろしくない男の人だった。


 ……ニキビがみかんとそっくりってこと? いくらなんでも失礼すぎる!!


 ガハハハと笑う店主からは悪いことを言ったという反応はうかがえない。この店ではきっと、毎回こんなやり取りが行われているのだろう。


 奥の方に見えるバナナが気になっていたんだけど、違うお店に行こうかな、と店の前で無防備にふらついていたら、見事に交渉をまとめてミカンを売りつけた店主の男性と運悪く目が合ってしまった。驚いたような顔を浮かべたあと、ニカッと笑った口から白い歯が覗く。


「おう嬢ちゃん、迷子か? 買い物か? 買い物だったらサービスするぜ!?」


 私が次のターゲットにされたと気付き、思わず頬がひきつった。


 ……でっかい男の人って、やっぱり怖いね。


許可を取りなさいとは言ったが許可を出すとは言っていない。

これは間違いなくソフィアの母親。

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