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お兄様大好き仲間


 愛とはなんだ。お兄様の求める、愛とは……。


 最近思考が迷走している自覚のある私はお兄様大好き仲間であるアネットの元を訪れていた。


 お互いに色々と忙しいせいで最近はあまり顔を合わせる機会がなかったが、招かれた部屋にはまた新たに開発したと思われる商品が増えており、新しい物好きのノアちゃんがここにいたならば飛び上がって喜ぶだろうこと間違いなしと思える素敵アイテムがいくつも目に付いた。


「商売、上手くいってるみたいだね」


「全てソフィア様のお陰です。私はただ、構想を形にしただけですから」


 謙遜して穏やかに微笑むアネットは、既に中身が入れ替わり済み。


 ひとつの肉体に二人分の意識が存在するという特殊な事情を抱えた彼女たちだけど、特に問題もなく穏やかに日々を過ごせているようだ。


「こちら、ご注文の品です。お確かめ下さい」


「ん、確かに。受け取りました」


 前回頼んでいた玩具や便利グッズが注文分あるのを確認して、その場でアイテムボックスを展開。箱ごとまとめてポイッと放り込んでおく。


 代金は前回の注文時に研究費用もまとめて払い終えているため、今回の取引はこれにて終了だ。


「……やはりその魔法は便利ですね」


 私がアイテムボックスを扱うのを見て、改めてその利便性に心奪われたらしい。


 それでも、「はあ」と切なげな吐息をひとつ零しただけで意識のスイッチを切り替えられるのだから、彼女は相変わらず優秀だと思う。


「……やっぱり、まだ?」


 さっきの反応だけでも十分に答えは分かるが、一応問いかけてみる。が、答えは予想通りみたいだ。首が力なく横に振られた。


「はい。アイテムボックスの魔法も、魔力を増幅させる魔法も、使えないままです」


 ふむ……。


 彼女には返しきれない恩があるから、望みは全て叶えてあげたいとは思っているんだけど……うーむむ。


 どんな想像をして魔法を使っているかとか、魔力はどのように流れるのかとか、教えられる事は全て教えた上で使えないとなると、それ以上は……んーむむむ。


 深く深ーく熟考してどうにかなる方法は無いものかと考えていたら、「あの、でも……」と少し躊躇うような声が掛けられた。


「確かにそれらの魔法は使えませんが、使える魔法もありますから。それにソフィア様の魔法は使えなくとも、私にはソフィア様から頂いた知識と、この商会があります。だから、その様に気を遣われなくても大丈夫です」


 淑やかに微笑む姿は、「本当に満足しているから何も心配は要らない」と思わせる安心感がある。


 ……ほんと、別人だよね。顔は同じはずなのに、あの元気なアネットとは全然違う人に見える。年の離れた姉と言われれば納得してしまいそうだ。


 でも、姿形は間違いなく同一人物。


 異なっているのは、その身体を使う魂だけ。


 ……人格は私を模倣してるって話だったし、私も猫かぶってる時はこんな風に見えてるのかな? だとしたら、結構な自信つくかも。


 私は首肯して、でも自分の考えだけは伝えることにする。


「分かった。でも前から言ってる通り、出来る限り協力したいって気持ちに変わりはないから。ヘレナさんの方でも何か進展があったら知らせるね」


「ありがとうございます」


 なんの迷いもなく素直に感謝を捧げる姿を見て、心の内でまた、複雑な感情を持て余す。


 ……協力、か。我ながら都合のいい言葉だよね。

 私のせいで他人の裏人格となってしまっている彼女になんとか贖罪したいと願うのは、単なる私のわがままなのに。


 既に許されている私には、どれだけ彼女の望みを叶えたところで、赦されるという道は残されていない。


 分かってはいても他に思いつく(あがな)い方のひとつもないのだから、せめて、と思うくらいでないとやってられないのだ。


 我ながら女々しくて感じて鬱陶しい気がしなくもないけど、喜んでくれるうちは続けようと思う。


 ……で、それはそれとして。


 私は一度目を閉じて内心の憂いを振り払うと、口元をニヤリと歪ませ気になっていた事を尋ねてみた。


「ところで最近、お兄様とはどうですか? もうすぐお兄様は卒院式ですが準備は進んでいますか? お兄様からの愛の言葉はもうもらいました?」


「んえ!? ももももらってません!!」


 わー照れちゃってかーわいい。でもこの時期になっても準備が終わってないってのはちょおーっといただけないなー。


「それはいけません。折角だから私がお兄様に言ってあげましょうか。アネットがお兄様からの愛の言葉を待っている、とか……」


「やめてくだ……ホントー!? それすごくいい!! ぜひぜひおねがいっ、ソフィアちゃんっ!!」


 ちょっとからかおうと思ったら、否定の言葉の途中からグンッと身を乗り出して目をキラッキラさせたアネットが私の両手をいきなり掴んでぶんぶんと激しく振り回し始めた。


 一瞬とても驚いたけど、これ本体のアネットの方だね。


 期せずしてアネットの望みを叶える事になったが、これはこれで楽しそうな気がする。


 お兄様はアネットに一体どんな言葉を送るのかなー?


アネット(裏)はソフィアの魔法を色々知ってはいるけれど、使えないものの方が多いようです。

そして当然、アネットが知っているということは……?

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