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呪いは否定されました


 その日の夜。

 私は意を決して、リンゼちゃんにある質問をしていた。


「リンゼちゃん。すっごく聞き辛いんだけど……、……ってした事ある?」


「? よく聞き取れなかったからもう一度言ってくれる?」


 ふううー! 相変わらずの言葉責めにゾクゾクするね!


 とか言ってる場合じゃなくて。


「ちょっと耳貸して……ごにょごにょ」


 リンゼちゃんを招き寄せ、目の前に晒されたその愛らしい小耳に囁きかけるように、私の悩みを打ち明けた。


 まあ、なんていうか。


 ぶっちゃけますと。


 ……私が興奮してえっちな気分になりやすいのって、女神様関連の何かが原因じゃないかと思うんだよね。


 だってだって、そりゃ私がお兄様の事をそれだけ愛しているというのは事実ではあるけれど、でも明らかに異常なんだもん! 毎日のように処理してるっていうのに、全然収まらないんだもん! これはきっと呪いの類だ!!


 前世を含めても最大の愛をお兄様に捧げているからこんなもんなのかもって思ったりもしたけど、いくらなんでも前世と比べて発情の頻度が違いすぎる。我慢の出来なさが違いすぎる。


 一度でも道を踏み外したらそのまま色狂いにでもなってしまうのではないかという恐怖心が、私にリンゼちゃんへと確認をさせる最後のひと押しとなった。


 ……本当は、リンゼちゃんに聞くのだって怖い。


 だって精神魔法でもなくて、女神のうっかりとかで付与された状態異常的なものでもないのだとしたら、私のこの性質は、きっと……。


「世の中にはいやらしい事が好きな女性だっているでしょう。あなたがそうだったというだけではないの?」


 繊細な心の準備が整う前に、リンゼちゃんによって無慈悲な言葉が告げられてしまった。


 絶望した。

 リンゼちゃんに「いやらしい女性」だって言われて、絶望した!!


 私は机にでろんと崩れ落ち、全力で現実から目を逸らした。


「……他の可能性だって、きっと……」


 きっとあると思う。……あると良いなぁ。


 続けようとした言葉は尻すぼみになって消えていく。

 自分でも信じていない言葉は、気休めにすらならなかった。


「……?」


 私が重い溜息を吐きながら深く落ち込んでいる様子を見て、リンゼちゃんは不思議そうに首を傾げる。


 や、やめてー! そんな純真そうな眼でみないでー!

 私はいやらしいんじゃなくて、ちょっと愛が肉体に反映されやすい体質なだけなのー!!


 思わず心の中で否定してみたものの、よりエロティックな表現になってしまった気がして更に落ち込む。


 私はやっぱりいやらしいんだろうか……。


「いやらしい女性というのは殿方に喜ばれるものなのでしょう? 嫌がる必要はないと思うのだけれど」


 リンゼちゃん、それ慰めになってない。それに私、そーゆー相手いないし。


 一瞬お兄様の顔が頭に浮かんだものの、発情した私が「お兄様ぁん♪」と迫る姿を想像して、すぐに絶望的な気分になった。

 背とか胸とか色気とか、女としての武器となりうる全ての要素が残念過ぎて、お兄様に「そんな格好でいると風邪をひくよ」と諭されて終わる結末しか想像できない。それも内心はドン引きで。


 やっぱ乙女は清純路線こそが王道でしょ。


「私は可愛くて守ってあげたくなるような女子を目指してるからね」


 両手を合わせたまま胸のあたりまで上げて、うふふ、と愛らしく無邪気に笑ってみせた。


 本当は「綺麗な」という枕詞が欲しいところなんだけど、自分の容姿くらい把握している。

 このお子様体型では「人形の様に綺麗」と思われるくらいがせいぜいで、私が望むような「綺麗なお姉さん」方面の評価は得られようはずもない。


 ならばせめてと、聖女の称号に相応しいクリーンなイメージに走りたくなるのは自然な流れであるだろう。


 幼い頃に演じていた無邪気な私をお兄様がとても可愛がってくれていたので、やめ時を見失っているという面もあるんだけどね。


 ちょこちょことポーズを変えてかわいいアピールを頑張っていると、リンゼちゃんはその全てをスルーして、自分なりの見解を教えてくれた。


「……可愛いはともかく、守ってあげたくなるというのは無理でしょう? あなたが好きなのってロランド様なのよね?」


 むしろあなたが守る方でしょう、と目が雄弁に語っている。

 実際に守っちゃった事のある私としては、そう言われたらもう苦笑で返すしかない。


「お兄様だって私の方が強いと理解はしてるだろうけど、それでもちゃんと守ってくれるんだよ。守るっていうのは、身体のことだけじゃないからね」


 お兄様が守ってくれるもの。

 それは心だとか、笑顔だとか。目には見えないけれど、どれもとても大切なものだ。


 心にほっこりと宿った熱を感じた時、ふと、リンゼちゃんの境遇が頭を過ぎった。


 ……ヨルとかリンゼちゃんって、恋愛はしないのかな?


「リンゼちゃんにもいつかいい人が現れるといいね」


 探りも込めてそんな言葉を投げ掛けると、リンゼちゃんからは予想外の言葉が返ってきた。


「待ちなさい。ロランド様はあなたのいい人ではないわよ?」


 ……リンゼちゃんは恋人を作る前に、空気を読む能力を鍛えた方が良さそうだね?


正論パンチの名手、リンゼちゃん。

人間として数年程度暮らしたところで女神の倫理感は抜けないようです。

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