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敵性賢者


 お兄様との幸福な時間。


 いつまでもこの幸福に浸っていたいと望むのは、人として、またお兄様の妹として、至極当然の思考だと思うのです。


 だからね。


「ソフィア・メルクリス、早く来なさい。成績が優秀だからと驕っているようでは程度が知れるぞ」


 ヘレナ先生に代わっていつのまにか先生の位置に立って私たちの仲を引き裂こうとしてくるクソ賢者様は、間違いなく私の敵だってことでいいんだよね?


 ……って、あらやだ私ったら。

 お兄様が隣りにいるのに、クソだなんて……こんな醜い感情はポイしましょうね。


 ついでに賢者様の敵対心も、潰してポイッて、したいよね。


「すみません、今行きます」


 思考はクリアに。


 先生役のアドラス。助手かな? ネムちゃんが傍にいて、私が呼ばれた。

 アドラスがこの授業に呼ばれたのは初めてで、魔法を使う用意をしているようには見えなくて、でも私とネムちゃんに何かをやらせようとしている。


 ああ、アドラスの真似をして魔法を行使するような内容だったら、容赦なく面目を潰してやれるのに。


 移動の間に心を落ち着け、ネムちゃんの横に並ぶ頃にはいつもどおり、人受けの良い笑顔を浮かべる心の準備が整っていた。


「それで私は、何をしたら良いのでしょうか?」


 お兄様との時間を邪魔した罪。


 しっかりと償ってもらおうじゃないの!!



◇◇◇



「わーすごーい!」


「うわっ! わわわっ!?」


「あはは! 二人ともすごーい!」


「ふふんっ! 当然なのだ! さあ、もっともっと褒め讃えるといいのだ!!」


 ……ぐぬ、ぐぬぬ、ぐぬぬぬぬぬぬ!!


 おのれアドラスめ! なんでヤツはこう面白い魔法を知っているんだ!! お前の顔は明らかに「遊ぶ為の魔法など不要だ」とか言いそうな顔じゃんか!! 詐欺だ、こんなの詐欺だよう!!


「ネムちゃんすごーい」


「よっ、流石は魔王ネフィリム様! こんな見事な魔法は見たことない!」


「ふふ、ふふふふふ!! ふはははははは!! そうであろう、そうであろう!!!」


 ネムちゃんも大喜びだし……。


 どうにもやりきれない感情を抱えながら、私はネムちゃんの魔法に自分の魔法を合わせていく。


 アドラスがやらせたことは、仕組み自体は単純なことだった。


 中級の魔法である属性の合成。


 通常は火と風の組み合わせでしか使われることの無いそれを、風と光で組み合わせる事により、見栄えの良い学生受けのする魔法に大変身させたのである。


「さあ、風よ、光よ!! 魔王ネフィリムの名において命ずる! もっと激しく舞い踊るのだー!!」


 ネムちゃんが得意気に両手を広げると、また幾条もの光の線が緩やかな軌跡を描きながら踊り出す。


 それは自然と目の惹かれる、美しい光景で――。


「突然の魔力増大にも難なく応じるか。難易度の高い補助役であるにもかかわらず、魔力の乱れも一切ない。やはり異常な才だな」


 だからこそ、この光景を作らせたのがコイツだと信じたくない。


 これが完全にネムちゃん一人の作で、私の手伝いも要らなかったのなら、今頃はお兄様と二人で「綺麗ですね」「ソフィアの方が綺麗だよ」とかやってた可能性だってあるはずなのにっ!! なんとも口惜しい!!!


「賢者様に褒められるなんて光栄ですね」


 ともあれ、これで呼ばれた用件は済ませたでしょ? この完成度なら文句もないでしょ? ならさっさと私を解放してお兄様の元へ帰らせてよねっ! と笑顔のまま圧をかければ、みんなに尊敬される賢者様は私の顔を見て明確に眉をひそめた。


「褒めてなどいない。気味が悪いと言っている」


 なんだとこのやろう。


 ホントなんなのこの人。そんなに私と喧嘩したいの?

 私を煽る事で一体どんなメリットがあるんだと頭の中で可能性を探って、あるひとつの可能性に辿り着いた。辿り着いてしまった。


 そういえばこの人、お母様と因縁があるっぽかったよね。

 さては私を怒らせることで暴力でも振るわせて、その責任をお母様にでも取らせようとしているんじゃないか? 「娘の責任は奥さんに身体で払ってもらおうじゃないかげっへっへ」とでも思ってるんじゃないかこのエロ親父は。

 一体お母様の何を探究する気だこのやろう。賢者の称号は賢者タイムの賢者から取ったんじゃないだろうな!?


 全く全く、これだから男の欲望ってやつはやーね。醜いったらありゃしない。


 突然のヒラメキによって辿り着いた真実はおぞましく悪辣な計画ではあったけども、私の完璧なる頭脳がその企みを暴いた今、もはやその未来へと続く道は閉ざされた。


 ふふ、残念だったなエロ賢者よ。私はその程度の安い挑発にのせられたりはしないのだよ。


 何故ならば! 私は、かわいいから!! お兄様が認めた、とてもかわいい妹だから!!!


 だから変なおじさんに何言われたところでノーダメージなのです。おういえー。


 それにしても、私も甘く見られたものだね。

 私を思い通りに手のひらでコロコロできるのは、お兄様とお母様くらいだと知るがいい!


 私はそんなにチョロい女じゃあないんだよ!! がおー!


【探究】の賢者は、エロを探究する賢者だった……?

それはそれで、この世の真理に辿り着いてそうな気もしますね。

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