秘密の魅力
本来、わざわざ確認する事でもないのだが。
一応、念の為。万が一にでも認識の違いがあるといけないので、ここで改めて確認をしておこう。
いいかい? 心して聞きたまえ。
つまりだね。
「お兄様以上に魅力的な男性など、存在する筈がありません」
これこそが、唯一不変の事実だと。
私は今世紀最大のドヤ顔で断言したのだった。
◇◇◇
そもそも、この世に完璧な人間なんていない。
いないけど、それは何を持って完璧とするかが明確に定義されていないせいだ。
例えば、一人のズボラな男性がいたとしよう。
彼のその性格は、人によっては我慢のならない欠点と映るだろう。
ズボラであるという欠点を内包しているが故に、完璧とは掛け離れた人間であると断ずる人もいるかもしれない。
だが、彼を好意的に捉える人物から見た時。彼のズボラと称された性格は果たして、欠点だと受け取られるだろうか?
もしも彼に恋する女性が現れたなら、彼のズボラという欠点は、もしかするとこう評価されることもあるのではないだろうか。
――即ち。
「彼っていつでもやりたい事に向かって一直線なの。豪快で格好良いのよ」と。
◇◇◇
私は頭の中で始まった脳内劇場「私の彼はズボラなひと 〜でもそこが好き(はぁと)〜」を適当なところで打ち切ると、深く頷きながら話し始めた。
「気持ちは分かります。とてもよく、分かりますとも」
お兄様の秘密が気になる? 当然だ。
魅力的な男性の事を少しでも知りたいと願うのは女として生まれた者の性と言っても過言ではない。
でも、待って欲しい。
少しだけ落ち着いて、ちょっとだけ考えてみて欲しい。
本当に貴女はそれを知りたいと願っているのか?
お兄様の秘密を暴き、お兄様を丸裸にする事を望んでいるのか?
お兄様の丸裸とかいう蠱惑的なワードから勝手に連想されてしまった様々なお兄様の扇情的ポーズを必死で脳内から振り払い。
私は再度、力強く断言する。
「でもですね、みなさん。……秘密のある男性だからこそ、より魅力的なのだとは思いませんか?」
それは、この世の真理。
もちろんお兄様はただでさえ超絶最強に魅力的だし魅惑的だし理想を遥かに超えたレベルで完成されきっている究極無敵のお兄様、略して超兄様とも崇められてもおかしくないような御方だけど、それはそれとして。
ねえ、知ってる?
秘密を抱えたお兄様って、普段の色香なんて比じゃないくらい、ヤッッッバイんですよ……?
お兄様が意味深に微笑んだり、「秘密だよ……?」なんて唇に指先置いた時の仕草なんてもう、あああああ!!! って発狂するくらいの破壊力なんですよ!!? あまつさえお兄様と秘密を共有しようものなら、普段は凛々しく頼りがいのあるお兄様がイタズラっぽく口角を上げちゃったりなんかして、子どもっぽくキラメク瞳は夜空に輝く星々なんか目じゃないくらいに私の心をドキドキさせちゃって、もう心臓が破裂してしんじゃうよ!!!?! ってなるくらい、お兄様と秘密の取り合わせは相乗効果抜群の魅惑のエッセンスなのですよ!!!
っ、はあはあ。ちょっと思い出しただけで、激しい動悸が……。
……とにかく! 秘密は、暴く為にあるのではなく!
「秘密は、秘密だからいいんです!!」
それが、お兄様ソムリエたる私の結論。
お兄様を最大限魅力的に仕立て上げている、重要な一要素なのである!!
――気分良く言い切った私は、高揚しすぎた熱気を冷ます様に息を吐き、周囲の反応を窺った。
「ソフィアがそう言うなら、そうなんだろうね」
「そーだねー。ソフィアだもんねー」
「相変わらずと申しますか……」
「熱い」
うむうむ。クラスのみんなにもご理解頂けたようで何よりである。
若干いつもよりも生暖かい目で見られているような気がしないではないけど、クラスで一番身長の低い私にはもはや日常的とも言える種類の視線ではあるので、深くは考えないことにした。
「でも秘密がある人が魅力的ってのはなんか分かるなー。ほら、リチャード先生とかもそんなとこあるじゃん?」
「あるある! 大人の魅力だよねー!」
ほんわかとしていた空気の中、私の主張に協調する声が上がればすぐに同意の声が続く。
やはりクラスの女の子たちにとっては接点の少ないお兄様の話題よりも、普段から顔を見る機会の多いリチャード先生への関心の方が強いようだ。
「そういえばあたしのお祖母様も、よく『秘密が女を綺麗にする』って言ってたかもー?」
「それうちのお姉ちゃんも言ってたー! そのあと『隠し事は秘密とは言わないの!』ってお母さんに怒られてたけど! あはははは!」
わいわいと、楽しげな声がこだまする。
みんなが笑顔で、何の疑問もなく。ころころと話題の変わるおしゃべりに没頭している。
……無事に追及は免れた、かな?
お兄様の話題を出すだけでこうも簡単に話を逸らせるとは思わなんだ。
ふふ、ふふふ。
やはりお兄様は最高にして最強なんだね!!
なおこのクラスの公然の秘密として「ソフィアのお兄様語りを止めてはいけない」というものがあるらしい。
大好きなお兄様について語る姿が愛らしすぎて誰もがその決まりを守ってはいるが、実は発案者の意図した理由は別のものだとか……?




