カイルは新しい能力に目覚めた!!
カイルの魔力を強化しようと道場へ行ったけれど、気が変わったので場所を移した。
そう、移り気な私の気が変わっただけ。道場では何も無かった。
……何も無かった!!
全ての目撃者の記憶を封じ、真実は私の心の中だけという状況。
ミュラーに改めて貸してもらった一室でカイルに惰性のマッサージを施していると、そのカイルから思いもよらぬ言葉を投げられた。
「ソフィア、お前さ……無理してるんじゃないか?」
びっくぅ!! ってなるよね。
なんで? 記憶消したじゃん?
まさかあの恥ずかしい場面を覚えてるのか今すぐ忘れろ謹んで忘れろさもなくば貴様の脳の記憶領域を物理的に消すぅ!! と若干パニックに陥ったが、少しだけ冷静になって考えてみたら、あるひとつの可能性に思い当たった。
カイルの魔力だ。
つまり、私がさっきからコネコネしているこれである。
カイルの魔力って私のに性質が近いから、記憶の改竄が効き目弱かったんだきっと。だから変な記憶が残っちゃってるんだね。
教えてくれてありがとうカイル。
言われなければ、私は気付かないままだっただろう。
雉も鳴かずば撃たれまいに、と思いつつも感謝を込めて、今度こそ完璧に完全に一欠片も残さずに記憶を消してやろうと魔力をひたすらに練り上げていると、何かを感じとったのか振り返ったカイルが、魔力マシマシの私の手を見てギョッとした顔になった。
「おまっ、それなんだよ! 俺に何する気だ!!」
「……なんのこと?」
「なんのことじゃねぇ!! いいから離れろ!!」
まるで暴漢に遭った少年のように暴れ回るカイルから言われた通りに身体を離す。
急になんだい、乱暴者だね。
「そっ、それ! なんだ!?」
「どれ?」
「それだよ!!! その手のヤツ!!」
もはや喚き散らすだけの喧しい存在となったカイルは、ビシッと私の右手を迷いなく指さしている。
……これ、もしかしなくても視えてる?
カイルは魔力視できなかったはずだけど……と思いながらも質を重視して練り上げていた魔力を解放し、魔力の量をドドンと景気良く増やしてみた。
「う、うわあぁぁあああ!!?」
完全に視えてるねこれ。
「カイル、魔力視って聞いたことない?」
あまりの慌てっぷりに少し驚いたけど、私も初めて魔力が視えるようになった時はそれなりに興奮していた記憶がある。
ここは先達として、おねーさんが魔力視のことを教えてあげよう! と純然たる厚意でした質問は、しかしカイルの耳には一切入っていかなかったようだ。
「は!? なに!? てかそれ、手は大丈夫なのか!!?」
いや私の心配してくれるのはありがたいけどさ。お話聞いて? ね?
初めはカイルの狼狽える姿見てるのも楽しかったけど、カイルってば驚いてばっかりで全然話聞いてくれないんだもん。そろそろ相手するの面倒になってきたよ。
てかいくらなんでもビビりすぎじゃないかな。
「全然だいじょーぶ。こんな事だってできるよ」
ベッドの端まで逃げたカイルを安心させる為に、左手側でも魔力をボーンと溢れさせてみた。
どう、カイル。良く見えるでしょう?
こんな景気の良い魔力の塊、私以外じゃそうそう見せられないんだぞ〜。
「……っ!!」
左手でも右手と同等の魔力を放出すれば、カイルは驚愕に目を見開き、声も出ないといった様子で身体をプルプル震わせていた。
うーん、いい反応だねー。
でもなーんか違うんだよなー。
こうも一方的だと面白みに欠けるっていうか、カイルは反抗してこそ味があるといいますか。
驚かせて楽しむだけならもっとちっちゃい子相手にしてた方が百倍は楽しいんだよね。
カイルの魅力ってくっ殺的な、「悔しいっ、でも負けないっ!」みたいな適度に反抗してくれるところだと思うのよ。なのにこんな簡単に驚きに呑まれてたら、折角のカイルの魅力が半分以下! そこいらの知らない人を相手に見世物してるのと変わらなくなっちゃうよ。
こりゃ想定外の事態に対処する訓練もつけなきゃダメかもしれないね。
ミュラーの時だって、カイルが何の防御もしてない無防備な状態で受けたからこそあそこまで被害が大きくなったわけだし、カイルの本当の弱点は不測の事態に対する対応力の無さなのかもしれない。
兎にも角にも、魔力を垂れ流した状態だとまともに会話が出来そうにないので、とりあえず魔力は引っ込めて、と。
「カイル。マッサージの続きと魔力視の説明、どっちがいい?」
「え……、あ?」
いやこれは、どうにも驚きすぎちゃったカイルを正気に戻すのが先かな?
うーむ……。
これ、カイルの強化計画、今日だけで終わるのだろうか……。
カイルくんの魔力視には次の様な光景が見えていました。
「魔力ドドン」→ソフィアの右手を中心に三メートル級の火柱。
「魔力バーン」→ソフィアの左手を中心に三メートル級の火柱。
手加減してあげて。




