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見たくないものには蓋をして


 今日も一日お疲れ様、と自分を褒めてやりたい。


 朝には半分寝ながらにしてお兄様の愛を一片も取り逃さないという驚異的なスキルを身につけた後、教室で久々に会えたネムちゃんから熱烈なる愛情表現を受け、その時のことをクラスのみんなにからかわれるという午前を過ごし。


 昼になった途端、行先も告げずに手を引くネムちゃんに連れられ世にも奇妙な魔物との邂逅。

 期待に目を輝かすネムちゃんの望みをへし折る役を押し付けられ、下降した気分を盛り上げる為にヘレナさんの研究室へと移動。ヘレナさんにお決まりのお小言を貰いながらも心癒される一時を得た。


 午後の剣術の授業では「ミュラー、今日は誰とも戦わないの?」という事情を知らない生徒の質問に端を発した一幕により、戦闘民族な先生の介入でミュラーの我慢も消し飛ぶかと思われる場面あったが、心配も杞憂に終わり、結果から見れば普段通り大事無く授業を終えることができた。


 放課後には連日開催されているミュラー家での勉強会。

 明後日が本番ということもあって今日が最終回の総仕上げという段階にありながら、カレンちゃんアウトネムちゃんインという心配しかできないメンバー変更もなんとか乗り越え、ミュラーにも特別クラスからの降格がなさそうなレベルの教養はなんとか叩き込めたと思う。


 家に帰ってからは自分の勉強もしなくちゃと思いつつ、部屋に入ればどーせヨル(女神様)のお相手が待っている……と思いきや、リンゼちゃんからヨル不在の知らせを受けてひゃっほうとベッドにダイブ。メリーやマリーと戯れ、ここぞとばかりにストレスの発散を試みた。



 ……こうして並べてみると、私の一日ってかなりハードじゃない?


 充実してるのは確かなんだけど、こうまで忙しいとたまに前世でのお気楽生活が恋しくもなるよね。


 友達と駄べってお菓子食べて、宿題写させる代わりに缶ジュース奢ってもらったりして、帰りにクレープとかタピ活したりの当たり前で幸せだったJKタイムズ。


 二度と叶わない青春のキラメキがそこには……って言いたいトコなんだけどー……。


 こうして考えると、私って前世からお菓子の為に生きてる感あるよね。

 友達と楽しくお菓子食べてりゃ幸せ〜なアホっぽさ全開でやばみが深い。


 でもいいんだ。女の子の身体は甘味でできてるって誰かが言ってたし。


 女の子が幸せになって笑顔になれば、それを見た周囲の人達だってみんなハッピー! お菓子で広がる笑顔の輪!! それってとっても素敵だね!!!


 だからお菓子は正義なんです!! 夜に食べたくなっちゃうのも仕方ないんです!! これも世界平和の為の活動なんですぅー!!

 とか言い訳しつつ真夜中にコンビニ行って通り魔に会ってりゃ世話ないよね。JKの犯罪遭遇率を舐めてたとしか言いようにない。


 ああ、美しさって罪だわ……っ!


「また何か馬鹿なことを考えているわね」


 いつものように今日の出来事を振り返っていたら、思考が横道に逸れたタイミングでリンゼちゃんの辛辣なるツッコミを頂戴した。


 そーね。リンゼちゃんの言う通り、前世の私はそれほど美人って感じではなかったよね。


 でも今世では誰もが認める美少女なんだよなあ〜!!!


 自分の容姿に絶対の自信を持てるって最高。

 その分内面との格差に絶望することも割とあるけど、かわいければ全ては許されるのだよ! ふはは!


「リンゼちゃんもかわいくて良かったね」


「……」


 なんか変なものを見る目で見られた。


 どんな目で見られようと、リンゼちゃんがかわいいことは否定しようのない事実なんだよ! 諦めて私と一緒に美少女同盟を結成しよう!


「あなたはいつも幸せそうね」


 アホな思考を加速させていると、相変わらず冷静なリンゼちゃんから欲しかった言葉を掛けられた。


 そうとも、私は幸せなんだ。


 毎日色んな事が起きるけれど、そのどれもが私を形成する一部であり、私を幸せへと導く要素なんだ。


 失敗はない。問題もない。


 取り返しのつかない悲しみは全て回避出来ていて、それらは私がこれまでに培ってきた魔法の知識があってこそ可能だったものだ。


 だから、私は間違っていない。これからも、間違わない。


 心の奥底で大事に鍵をかけた想いを胸に秘め直し、私は今日も気楽に、無邪気に、自由と幸福を謳歌する。


「うん。優しいリンゼちゃんが居てくれるから幸せだよー?」


 なすがままに抱かれてくれる口だけクールなメイドちゃんを愛でながら、冷めた感情に蓋をする。


 不安も。葛藤も。躊躇いも。後悔も。


 何の役にも立たない感情を見なかったことにして、楽しいことだけを考える。


 ああ、そうだ。ネムちゃんに褒められた特製カスタードを使ってまた何か作ろうか。今度は量も兼ね備えたひとくちお菓子が良いかもしれない。


 視界の端で心配そうにこちらを見詰める小さな瞳に気付かないふりをして、私はうきうきと想像を膨らませてゆく。


 ――今日も、明日も、その次も。

 毎日が楽しい日々でありますようにと、願いを込めて。


アホの子がちょっぴり真面目なことを考えるだけでとっても優秀に見えるマジック。

アホの子ってお得だね。

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