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カイルが弱いのが悪い


 寝不足である。


 私はとても寝不足である。


 昨夜、リンゼちゃんにより辱められた私は、正気を保つために自らの思考を放棄するという選択をした。


 ――現実はいつだって、私に哀しみをもたらす。


 そんな哀しい現実を直視する事に耐えられず、私はひたすら魂についての考察&研究を重ねることで、余計な思考を排し続ける事に成功した。


 そりゃもう必死で頑張りましたよ。


 寝て忘れようとすると想像上のリンゼちゃんが「ああ……やっぱり我慢できなかったのね」とか言ってくるんだもの。我慢せずに想像上のリンゼちゃんを襲ってやろうかと何度思った事か。


 そのくらい精神的に追い詰められていたので、普段は遠ざけていたシリアスさんにも御来場いただいて、恥ずかしい感情なんかぽーいしてね。すっかり綺麗なソフィアちゃんに大変身ですよ。

 はは、いつも綺麗にはしてるんだけどね。見た目だけは……。


 ……はいっ、そんなこんなしてた為に現在大変寝不足気味で頭ぽやぽや状態の私ですが! 天才美少女の名を欲しいままにする魔法少女ソフィアちゃんの手に掛かれば睡眠不足もなんのその! 推理考察なんて御茶の子さいさいなんですねー!!


 深夜テンションで思考のとっ散らかり具合が半端ない状態でも、相変わらず優秀な私の脳細胞! この灰色の脳細胞ちゃんが、既にひとつの結論を導き出していたのでしたーその結論とは!!


 ズバリ! カイルが弱いのが悪い!!





 ……とか考えた所までは覚えてる。残念ながら覚えてる。


 朝起きて、多分、日課もこなして……?

 眠たいながらもいつもながらの朝を過ごして、その後お兄様と学院へ向かう馬車に乗ったのまでは確かだと思う。それ以降の記憶はない。


 だというのに、私は何故か自らの足で立ち、お兄様と別れの挨拶を交わしているんだ。


「それじゃあソフィア。また後で」


「はい、お兄様。また後ほどお会いしましょう」


 昨夜リンゼちゃんから聞いた話が確かならば、お兄様だって私の夜のひとり遊びを知っていた可能性がある。


 そんな小っ恥ずかしい状態で普通なら絶対にお兄様の顔なんてまともに見られない筈なのに、寝惚けたままの私は普段とは何も変わらず、むしろ普段以上に穏やかな気持ちで階段を昇っていくお兄様の後ろ姿を見つめていた。


 習慣ってすごいね。


 って、今はそうじゃない。寝たままの状態でさえお兄様の前で猫を被るとは流石は私だと自分を褒めてやりたいが、そうじゃない。


 段々と思考能力が蘇ってくる中、私は思い出したひとつの事柄について考えていた。


 つまりは「カイルが弱い」問題である。



 ――昨日、私は改めて実感した。


 死は、前触れなくやってくると。


 前世での理不尽な死を経験した私は、それをよく知っていると、そう思っていた。


 けれど、予想が付かないから理不尽なんだ。前触れがないから、抗えないんだ。


 人に殺されたくないなら、人に気をつければいい。

 人に恨まれないように生きて、常に気を張って。物理的にも精神的にも殺されないように対策を打って。


 思いつく限りのことをしたって、安心できない。


 私が気付いていない殺意が、今も私を狙っているんじゃないかと、笑顔の裏で怯えていて。


 ……そんな思考が、いつしか、逆転していた。


 ――早く殺しに来てくれれば良いのに。

 そうしたら、犯人を殺しさえすれば、私はやっと安心できるのに。


 だけど、違った。


 私は永遠に安心することは出来ないと、気付いてしまった。


 殺意なんて、原因の一つに過ぎない。

 人の死は、故意を防いだだけで安全が保証されるような単純なものではなかった。


 ――ほんの、偶然。


 偶然、カレンちゃんが恋物語に飢えてる時で。


 偶然、私がカイルを盾にする作戦を思いついて。


 偶然、ミュラーが力加減を間違えて。


 そして、偶然。カイルが受け方を間違えた。



 ……分かってる。誰が悪い訳でもないって。


 でも、あれは防げた事故だった。

 誰かが何か違う行動をしていれば、きっと違う結果になってたはずなんだ。


 カレンちゃんがいつもよりも饒舌だった。私がカイルを護る魔法を使っていなかった。ミュラーの力加減のミスは、きっと直前に「私と戦っている」と意識を向けさせたから起きた事。カイルをぶつけるのだって、私が、もっと気をつけて、って……。


 ……どれだけ後悔しても、起きた事実は変わらない。

 だから、結論はひとつしかなかった。


 カイルを死なないように鍛える。


 私が死んで欲しくないと願うみんなに、理不尽に抗えるだけの力を備えて欲しいと、そう思ったんだ。


 ……で、そう考えた時に、一番死にやすそうだったのがカイルって訳で。


 ミュラーもカレンちゃんも、ネムちゃんも強いからねぇ。仕方ない事ではあるんだけど……。


 頑張れ、男の子。


「……んっ!!」


 心の中でよわよわカイルにエールを送りながら教室の扉を開けると、そこで妙な声を聞いた。


 ……ん? この声って……。


「ソフィア!!」


「ネムちゃん!?」


 おー、おーおー、ネムちゃん復活!?


 今日は祭りだー!!


ソフィアは寝ぼけながら動いている時の方が可憐で清楚な可能性。

あると思います。

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