魔法の源を探そう
ともあれ、実験としては成功だ。
「魔法が体を覆うように動いていた。これは、体の外からも魔力を集めていたということ」
ヘレナさんはすっかり真面目モードだ。切り替えが早いのは美点だね。
「魔法が発動しているときの流れを見る限り、魔力は殆ど外から引っぱってきていた。どこから? どうやって?」
私に聞かれましても。
魔素? とかじゃないのかな。知らないけど。
「地面から集めていたようにも見えるけど、違う。集まる速度、密集率。流れもそう。バランスが良すぎる。まるで魔力が湧きだしているみたいだった」
へー。そーなんだー。
「なにより、それらの工程は呪文詠唱には全く含まれていない! 呪文自体は何の変哲もない初級の風魔法、それなのに! そう、それなのにあんな事象が起こせるということは、全ての魔法でも同じように自身の保有魔力という生まれ持った才能に縛られることなくっ、全ての魔法が扱える可能性があるということ!!」
めっちゃ盛り上がってる。
ふはははとか笑いだしそう。
「これは、これはすごいことですよ!? こんな技術が広まれば、世界は改革の時を迎えます! 魔法が、世界の魔法が変わりますよ!」
興奮しすぎてて倒れないか心配になってきたよ。
お母様、あれは止めなくていいのですか?
「さすがはアイリスの娘! 【無言の魔女】と畏れられた賢者の娘! 私にもそんな才能が欲しかったーっ!」
「ちょっとヘレナ」
いやいやちょっとお母様。それを止めるなんてとんでもない。
無言の魔女? 賢者?
なんですかその香ばしい称号は。ソフィア、お母様のお話、もっと聞きたいなぁ〜。
「愛か、愛なの!? 【無言の魔女】と【情熱の騎士】の娘がこれほどの才能を見せるなんて女神様の祝福もらいすぎでしょ! あの恥ずかしい戯曲でもまだ物足りないと言うの!? 続編何本作る気よ!」
やっばい、この人お母様の面白い話いっぱい知ってそう。
お父様が情熱の騎士? 恥ずかしい戯曲ってなに? そこのところを是非くわしく!
パチン!
暴走ヘレナさんの独壇場に異様に鳴り響くフィンガースナップ。
それもそのはず、指を鳴らした後には静寂が場を支配していた。
ヘレナさんは変わらず大げさな身振り手振りをしているというのに、声だけが抜け落ちたように聞こえない。
天を仰いでは何かを嘆き、胸元は握りしめては何事かを熱弁している。
口は動き続けているのに、その声が聴けないなんて!
ああ、その声には、どれだけのお母様の面白エピソードが込められているのか!
勿体ない。実に勿体無い! 最後まで全部聞きたかった!
「お母様!」
こんな強硬手段に訴えるなんて!
もうお母様の恥ずかしいところ結構知ってるしいいじゃん!
今更恥ずかしい話の一つや二つくらい増えたって変わらないって!
「ヘレナにも困ったものですね」
やれやれ、とでも言いたげだけど、誤魔化されないよ!
「無言の魔女」
ほら、肩がピクってした。
「賢者。情熱の騎士」
言葉を投げる度にお母様がピクピクッと反応する。
面白いなコレ。
「恥ずかしい戯曲って、なんですか?」
ビックゥ!
一際大きい反応をしたのに、答えは返ってこない。
まだ逃れられるつもりでいるのか。
顔を見てやろうと正面に回り込んでも、顔を背けられてしまう。
ん〜? と顔を追いかけ続ければ、体を捻って意地でも隠そうとしだした。
なんて可愛い反応だろう。嗜虐心が疼いちゃうよ?
「ねぇねえお母様。お母様ってばぁ。魔法の研究をしてるとは聞いてましたけど、本当は賢者様だったのですか? 無言の魔女様だったのですか?」
腰に抱きついて、ねぇねぇねぇねぇと幼子の様に鬱陶しく揺さぶってみた。
うふふ、私って性格わるーい。でもたのしーい。あははー。
「………………め」
「え?」
夢中になってじゃれてたら、いつのまにかお母様は顔を背けるのをやめていた。
見たこともないほど真っ赤になった顔で、ブルブルと震えながら、ヘレナさんを睨んで。
「ヘレナめ……覚えてなさいよ」
ふふふ、と低く笑っていた。
こわっ。
ヘレナさんが我に返るまで、それから更に10分ほどの時がかかった。




