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悪いことしたらごめんなさいしよね


 お母様、私の髪が一部刈り取られた事に激おこの巻き。


 何故か私の髪を切った犯人に異常な執着を見せるお母様をなんとか宥め、報復措置なんてしないで欲しいと繰り返し嘆願してようやく納得してもらえたのはいいんだけど。


 ……なんでお母様はしょんぼりしているのだろうか。


 そんなにしたかったのかな、仕返し。


 そういえばお母様って、昔はよく私のことを着せ替え人形にしてたし、自分にはない銀の髪を存外大切に思っていたりしたんだろうか。それを知らぬ間に傷付けられたと知って激高したとか?


 うんうん、分かるなあその気持ち。

 私もお気に入りのチャームにでっかい傷付けられて怒った事もあったなー。って、流石に私とチャームが同レベルってことはないだろうけどさ。


「あの、お母様」


「……なんです」


 うわあ、不貞腐れてる。あのお母様が感情丸出しとか激レアだ。かっわいい。


 じゃなくて。


「私の髪のことで怒ってくれて、ありがとうございます。嬉しかったです」


 と、私は素直な気持ちを言葉にして伝えてみた。


 なんで急にこんなことを言うのかって?

 それはもちろん、私に全力で拒絶されて萎れてるお母様がかわいすぎ……もとい、罪悪感を刺激されたからです!


 普段からこれくらいかわいかったらいいのにとは思うけど、普段からこんなだったらそれはもうお母様では無い気もする。私がマゾだとかいう話じゃないよ?


「……そうですか」


 お、お母様が普段の鉄面皮に戻った。

 うんうん、やっぱりお母様はこうじゃないと、なんとなく調子が狂っちゃうよね。


「ですがそのお友達の家には後日正式に抗議を出します。いいですね?」


「よくないです」


 あっれれー? おかしいぞー? さっき頑張った説得の内容まるっと無視されてる気がするぅー!


 しょげるお母様が見れた分だけ得した気もするけど、あの攻防をもう一度繰り返すのは正直ご勘弁願いたい。

 私も元気そうに見えるかもだけど、今日は色々あって疲れてるんだからね!


「何故そんなに庇うのですか?」


「彼女は今大変な時期なので、あまり(わずら)わせたくはないんです」


 正論で迫るお母様を言いくるめるのは骨が折れるから少し搦手を混ぜよう。

 お母様ってこう見えて情に厚いし、同情誘って認めさせちゃお。


「彼女が抱える問題のいくつかには私も関わっていますので、彼女から一方的に被害を受けた……とは、言えない状況ですし。ほら、例の喪神病にかかったのも彼女の親しい人で」


「ですがその問題は解決したのでしょう。それに今、一瞬詰まりましたね? ソフィアの言が正しいかを確認する為にもその状況というものを(つまび)らかになさいと言っています」


 ごめんミュラー。やっぱ無理かも。


 だってだって! 髪切られた段階では完全にミュラーの過失だったよねって思っちゃったんだもんしょうがないじゃん! 私あの時は純粋な被害者だったもんしょうがないじゃん!


 今日のはー、みんなの悪ふざけが最悪に噛み合ったのとカイルの《加護》が弱過ぎたせいで起きた不運な事故だって言えるけどー、髪切られたのは……ねぇ?


 でも今日の件はお母様の求めるままに詳しく説明しちゃうと、どんなに上手く誘導しようとしてもカイルを肉盾にしようとしてた事実がバレる気がする。現実には大して役に立たない肉盾だったけど、私がしこたま怒られる気がする!!


 なので説明はできない。


 そんな怪しさ満点の私の説明でお母様が満足するはずもなく、その後しょんぼりしてたお母様が夢だったのではと思うほどグイグイくるお母様の猛攻を受けて私はあえなく敗北した。


 ミュラー……ごめんよ。

 大好きな対人禁止を言い渡された同日に悪いんだけど、私の髪を切った罪、これも身から出た錆と思って受け止めておくれ……。


 まあよくよく考えたら、そんな必死になってミュラーを庇う理由もないんだけどね。ミュラーが戦い好き過ぎたのが悪いってのは事実ではあるし。


 悪い事した人がごめんなさいするのはふつーのことだ。


 だからお母様の圧力に負けて友達を売った私は何も悪くないね!!


 完全な理論武装により圧力に屈した事実を「これは信賞必罰にすぎない」と自分に言い聞かせる事に成功した私は、いっそ重大なミッションを成し遂げたような気分に浸っていた。


 いいことした後って気持ちいいね。


「ではセリティス家への抗議は後日改めてする事として……。それで、ソフィア? さっきからいったい何を隠しているのですか?」


 ビックーン!!


 という態度が表に現れないよう気を付けつつ、私は平静を装いお母様に微笑みかけた。


「なんのことでしょう?」


 するとびっくり。ああ、なんということでしょう!!


 あのお母様が、今日は珍しく隙のある表情を見せてくれたりしてたお母様が、満面の笑みを浮かべているではありませんか!!!


 違和感がすごい。


「言い逃れができるとでも?」


 ニッコリと笑いかけてくるお母様の薄く開いた瞳の奥を直視してしまった私は、その瞬間に悟った。


「ごめんなさい」


 とりあえず全面降伏。


 これは無理だわ。勝てない。


「お、今日はなんだか、おっ、勝てる!?」→「勝てなーい!!」

ソフィアはアイリスにやり込められる過程を楽しんでいる節がありますね。

これも彼女達なりの愛情表現なのでしょうか。

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