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氷を溶かすは命の温もり


 今日も順調にミュラーの学力を向上させ、さて帰ろうかという段になって、バルお爺ちゃんに捕まりました。


 なんかね、カイルが死んでたのに気づいてたっぽい。で、私が何かしたのまではバレてるっぽい。


 ドキドキしながらシラを切りまくっていたら、追求を止める代わりにとありがたーいお言葉を頂きました。


「今日のあやつ(ミュラー)を見れば分かるだろうが、力を持つ者には相応の覚悟が必要だ。それだけは忘れてはならんぞ!!」


 その言葉の意味を、私は帰りの馬車の中でずっと考えていた。



◇◇◇◇◇



 んー……。

 そもそも、ねぇ……。


 むしろ私は力も覚悟も忘れてのへへんと生きたい。


 前の世界ではクローン技術や人体実験的なのが「非人道的だ!!」なんて理由で忌避されてるのを見て、「いや、家畜ならいいの? 植物の遺伝子配合は?」とか思ってたものだけど、今ならそれらの技術の発展を食い止めようとする人達が出る気持ちも分かる気がする。


 死者の蘇生って、()()()()()感がすごい。


 人としての一線。守るべき倫理。責任能力のない子供。


 そんな無意識下でも価値観の基準点として確かに存在していた拠り所が、足下からガラガラと崩れ去ったのを感じる。


 今の私は、人に人道を説く資格はなく。


 今の私は、倫理よりも知識欲を優先し。


 今の私は、庇護に値する存在ではない。


 ……だって、分かるもん。

 もしまた似たような状況に陥ったら、私はきっと同じことを繰り返す。


 その時の為に、()()()()()()()()()()()って、思ってるもん。


 生命を弄ぶことを、もっと、って。


 ……多分いまなら、以前は躊躇していた大型の動物での実験もできる気がする。


 魔法の実験の為だけに、動物を殺す。その行為への嫌悪感が薄れていくのを感じる。


 ……今までだって全くなかった訳じゃない。


 人で試すのが危険そうな魔法は、ごめんねと謝りながら鳥なんかを捕まえて実験してきた。


 迷惑をかけるお詫びに餌をあげる〜だなんて何の免罪符にもならない。明らかに異常をきたした鳥に時間遡行をかけて元に戻したことだってあるんだ。それこそ、()()()()()()()()()()()()()



 小動物は良くて、人はダメ。


 ――本当に? 同じイキモノなのに?


 生き返らせるのは、いい。でも、殺すのは、


 ――何故? 命を弄んでいる事に違いはナイのに?



 ……考えるのは、得意な方だと思う。でも悩むのは苦手だ。悪い考えが止まらなくなるから。


 良い事を好き勝手に妄想して幸せになれるのは得がたい才能だとは思うけれど、思い込みってのは世界が一人で完結しているからできることだ。それはつまり、自分の中の感情を増幅しているに過ぎない。


 良いことを考えれば幸せに。

 良くないことを考えれば、不幸せに。


 ……だから、良いことを考えられない時は、考えないのがいい。


 私は今までそうしてきた。

 そうして、嫌なことから目を逸らして、逃げ続けてきた。


 ……それで良かったのだろうか。


 幸せになりたい、楽しいことだけ考えていたいという感情のまま、嫌なことから逃げ続けてきたのは、本当に正しい選択だったのだろうか。


 私が選択を間違えなければ、もっと――


「キュイー?」


 ガタン、と馬車が揺れる。


 振動で跳ねた指先が暖かな温もりから離れたことで、私は異常に気が付いた。


「……あ、寒い」


 気温操作が解けてる。


 今まで身体強化と共に、無意識下での永続的な発動という離れ業を習得してから使わない日はない程に常用していた「身体の周囲を快適な温度に保つ魔法」が消え失せていた。


 どんだけ動揺してるんだ、私は。


「キュイ?」


「ん……、大丈夫だよ」


 癒し、いる? と小首を傾げるエッテに微笑みかけて、安心させるようにその背を撫でた。


 撫で始めてから手が冷えている事に気付いたけれど、エッテが気持ち良さそうにしているので、構わずに続けることにする。


 ……あったかいな。


 冷えた心に染み入るような、エッテの体温。


 私が魔法の実験に利用した鳥たちだって同じように生きているというのに、なんて自分勝手なんだろうという考えが少し(よぎ)ったけれど。


 ……ま、所詮人のエゴなんてそんなもんだよね。


 こんなにごちゃごちゃ悩むくらいならいっそ、魔法の力なんて封印してしまおう! とか、考えないもん。私って。


 魔法が無かったら私には存在価値がない……とまでは言わないけど。


 少なくとも、私に魔法の力がなければ、今日は私が一生後悔する日になった。


 ……いや、私とミュラーが、かな。


「今日はご飯の後にデザートでも食べようか?」


「キュッ!?」


 急にソワソワしだしたエッテを見て笑みを深めながら。


 私は手の中にある、私が守りたいと願う生命の温度を感じていた。


エッテが優秀すぎて妹を慰める準備を万端整えたお兄ちゃんの出番は必要なくなったようです。

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